異世界の学園にて学園生活を謳歌するはずだった

シロ

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1、始まりの逃避とウサギの国での活劇

カメ、諦める

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 勝利を確信したザリアの下品な笑い声の間から微かに別の声が聞こえた。
ありったけの魔力を総動して体を動かし、ロンは拘束を解き、魔族に体当たりを食らわす。捨て身の勢いに溜まらず魔族はバランスを崩し、レイカから手を離した。
受身を取れずに地面に激突したロンにレイカは駆け寄る。逃げられてはなるものかとザリアと魔族が手を伸ばした、その時だった。
「な、何に事どすか」
レイカとロンを包み込むように炎の柱が現れる。同時に飛んできた魔法弾により魔族がその場から消えた。
「よし、今度は狙い通りの効果の魔弾だ」
離れた岩の上に伏せていたロイズが立ち上がる。その手にはあの大きな銃が握られている。同方向からイスカがこっちに駆けてくる。見覚えのある炎の気だとレイカは納得した。
それに驚いたのか一瞬だけ動きを止めたザリアの手が再度2人に向かって伸ばされる。ロンに押されることで、レイカはその手から逃れる。坂を転がり落ちるレイカの体をイスカは何とか受け止めた。
「レイカ、大丈夫?」
「うん、うちは大丈夫。せやけど、ロンはんが」
見ると片手で軽々と捕まれたロンの体は力なく揺れている。
「たしかに、他人の心配ができるほど大丈夫じゃありませんね」
すぐ横から聞こえた不気味な声に2人が顔を上げる間も無くレイカの体がイスカの腕の中から失われる。
「ちょ、レイカを離しなさいよ」
「魔法でも使ってみますか?」
できないことを知っている魔族の言葉にレイカは拳で答える。しかし、あっさりとかわされた。
「貴様、ロンを放せ!」
銃を構えるロイズの目は血走っていた。
「悪いな。こいつには使い道があるんだ。おい、そこのチビガキ」
レイカに見せたザリアの表情は残酷極まりない笑みだった。
「こいつを殺されたくなければ大人しくしてもらおうか」
自力で動けなくなったロンに剣を突きつけ、レイカの抵抗を奪う。
「おまえらもだ」
拳を構えたイスカと銃を構えたロイズにも視線が向けられる。唇を噛み締め、小さく毒づいて2人は構えをゆっくりと解いた。
「止めて!」
2人に1歩近づいたザリアにレイカは叫んだ。よくまあ、こんなに声が出せたものだと後で自分でも驚いたくらいだ。
「・・・あの、うち、大人しゅうしとくから、2人に手出さんといてくれはります?」
随分弱気だとその場にいる全員がそう思った。
「ダメよ。そんなの絶対にダメ!あなたを救うために戦うなんて本望なんだから」
「おい、そんなこと言ってたらこいつの命はないぞ。もっとも、さっさと病院連れて行かんと死ぬがな。おい、帰るぞ」
「はいはい」
サザエガルドと共にレイカの姿が透けていく。消える直前に『戻れ』と消えそうな声が聞こえた。だが、抱えられたレイカには何もできなかった。
何もできず動けないでいる自分がイスカは歯痒かった。死ぬわけじゃない。絶対に取り戻すとイスカは拳を握る。強すぎて指の先が赤く充血した。
その様子を見ながら次がラストチャンスだろうなとロイズが対策を考えかけた時だった。
「じゃあな、あばよ」
その動きはロイズの目にスローモーションで映った。まるで飲み干した紙コップをポイ捨てするかのように宙を舞うロンの体。掴もうと伸ばされたロイズの手を掠めた体は無抵抗のまま火山の紅い口の中に落ちていった。
宙に取り残された手には落ちる際に解けた髪を纏めていた紐だけが残る。


                            続く
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