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4-31、ウサギ、巻き上げる

エターナニル魔法学園特殊クラス

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 ガァァァァアアアアァァアアアーーーー!!
 それまで何の反応も示さなかったゾンビが急に奇声を上げてこちらに向かってきた。
「ファイヤートルネード」
イスカの放った炎の渦は何体ものゾンビを巻き上げて空へと消えた。
「なるほど、大きな魔力に反応するのですね」
「オウ、ソノ通リダ、ッテ誰ダ、オ前?」
「マジックアイテムクラスのザリです。どれ程の魔力に反応するのですか?」
「良い着眼点だ。簡単に言えば、中級以上の魔法を使おうとするとバレる」
「アロー系で倒せはりますの?」
「一体ニツキ3,4発トイッタトコロカ」
「魔導歌一回で出るのが5、6本だから、効率悪いわね。森ごと燃やさない?」
「ソノ辺ハ他ノ生徒ガヤッテル。俺ラハ他ノ解決方法ヲ、森ゴトカ、イイナ」
「でしょう」
鼻息荒くイスカは胸を張った。
「どうせ通常空間じゃないんだもの。全部呼び込んで燃やし尽くしちゃいましょ」
「問題ハドウヤッテ全部ヲ集メルカダナ」
「魔力に反応するんならそれで何とかならない?」
「量の問題があらはるえ?」
どこからどれだけの量を練るか。一歩間違えたら大惨事間違いない。
「そもそも何故ゾンビは入れられたのでしょうか?」
「単なる嫌がらせじゃないの?」
「それならもっと効率の良えことありますえ。船を止めるとか、精霊の契約を勝手に解除するとか」
「即座ニ襲ウヨウニハ作ラレテイナイ。ナラ何カヲ探シテイル、コレガ妥当カ」
「そんな高魔力の何かがここにあるのですか?」
ザリの質問に一同は首を捻る。
「あると言えばあらはるよ。本なんか魔導書ばかりやから、図書館の閲覧禁止欄を漁ればゴロゴロ出てきはります」
ネクロマンサーズ・マニュアル、ピカトリクス、ガラドラボーク、ホノリウスの誓いの書、悪魔の偽王国、術師アンブラメリンの聖なる魔術書などなど。
「アトハ倉庫ニアル山積ミノまじっくあいてむクライカ。卒業生ガ作ッタノヲ残シテイッタヤツダカラ大シタモノハホトンドナイゾ」
卒業記念品としてアイテムクラスの人達が勝手に残していった正体不明のグッツが倉庫一杯になっている。ただ、この辺を探すとして学園全土にゾンビをばらまく必要がはたしてあるのだろうか。
「マァ、魔導書ハ無理ダナ。亜空間ニこぴーサレル程度ノナラ普通ニ国営図書館ノ閲覧所ニ置イテアルれべるダ」
「ねぇ、ふと思ったんだけど他の先輩はどうなってるの?」
「そうだった。俺の兄がおかしいんです。本読んでいました」
「じるべガ、カ?ソリャ大爆笑モノダナ」
ロイズの証言からジルベは典型的な体育系な人だとわかった。あと、体育委員長でもあることを知った。
「委員長くらすハ生徒集メトぞんび掃討ヲ行ッテイル」
どうやら、各委員長はかなりハイレベルの生徒らしい。
「先生はどうしているんどすか?」
「別ノ厄件ヲ追ッテル」
「ゾンビよりも?」
「数ハ多イガ、ソレヲ利用シテ襲イクル訳デハナイ。ソウイウ意味デハ良イ案件ダッタナ」
遠くで爆音が聞こえ、森の一部が凍りついているのが見える。さっき雷光が走った。あれは先輩達が暴れているからだろう。そばに他の生徒がいないことを祈る。
「他の生徒はどうしてはります?」
「4,5年ニ守ラレテ避難シテイル」
「避難場どこどす?」
「ココダナ」
「問題なさそうだな」
「ザリはんはうちと共に非難しましょか」
「はい」
「いすかハ俺ト来イ」
「はーい」
腕を変形させたライフルで二匹の頭を撃ち抜き、ロイズは頭で行けと促す。ユーキとザリが崖を下りていく。
「フレアアロー!」
イスカが解き放った火の矢が降る。水分のないその体はパチパチと景気よく燃えた。
ザリに誤爆しそうになったが、ユーキの出した黒い気体の中に吸い込まれていった。
「案外簡単ね」
「まじデ数ガ多イダケナンダ」
「敵の意図が見えないわね」
「アソコデ量産シテイルノハワカッテイルンダガナ」
学園島上空を旋回する飛行船を見上げる。今も次から次へとゾンビが落下してくる。落下ダメージで足がおれている奴もいる。かなり乱雑に扱われているようだ。
「撃ち落とせないの?」
「生憎ろけっとらんちゃーハ一発シカ装備シテイナインダ」
狙撃用のライフルでは飛距離も威力も足りなかった。
「レイカはどうしてるの?」
どうせあんたの仕業でしょと言わんばかりである。
「無事保護サレタ。今ハりとあトイルハズダ」
幽霊屋敷の件で知り合った先輩だ。特殊クラスに所属していない人の中で一番友好的な人になる。こちらの世界では珍しく小型拳銃をメイン武器としていた。
「どこにいたのよ」
「真ッ黒黒助カラ預かったとか言ットッタナ」
「なにそれ、ともかく無事でよかったわ」
「ホレ、チョット待ッテロ」
携帯を取り出してどこかにかけ始めた、が、すぐにしかめ面になる。
「シマッタ、亜空間ダッタノ忘レテタ」
亜空間に中継所はない。もちろん、人工衛星もないので繋がるはずがないのだ。本来は、
「・・・・・・」
「どうしたの?」
「コッチノコトダ」
ピリリリ、ピリリリリ~
鳴る筈のない電話が鳴るのは何とも不気味なものだとロイズは思った。デスクトップには非通知と書かれている。
「オウ、誰ダ?」
『私、・・ちゃん』
聞き耳を立てていたイスカにもその声が届く。スピーカー越しだったが、少女の声のようだった。
「何ノ用ダ?」
『あのね、私・・・・・』
「オオウ、しゃっト言エ」
『私、今』


                            続く
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