転移者と転生者と現地チート

シロ

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9、

泥棒が現る

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 案内されたのは、そこそこ大きな屋敷が立ち並ぶ一角にある家だった。周囲に合わせ白を主としているが、他の屋敷と比べるとこじんまりしているそんな印象を受ける家のドアに鍵をさした。
「ここが、、、、、、、、、」
 歓迎の言葉は最後まで出ることはなかった。家の中は荒れ果てて、家具が壊されている。その中身は、ごっそりとなくなっていた。
「一ヶ月も空けてたらこうもなるか・・・・・」
 貯えを全て持っていかれた。ガクリと膝を折って地に手を付く姿は哀愁が漂っていた。
「討伐用荷物から金目の物売るしかない、のか・・・・」
 武器は残しとくしかないから、とブツブツ言いながら持っている荷物袋から物を広げだした。綺麗な石や不思議な模様が描かれた紙がある。カットされていない宝石にも見えるが、紙はどうだろうか?紙が高級だというのなら、紙作りの本は出回ってないだろう。
「これとこれは必要。これも、これも・・・・」
 結局、何もなくなった。
「これからどうするかなー」
 遠くを眺める背中には虚しさがあった。一通り黄昏ると、火と水と電気を確認し始めた。
「・・・大丈夫なのです?」
「じょばない!このままだと俺らも共倒れだ!!」
 こうなっては仕方がない、と出ていこうとするカイにナナはどうするのと首を傾げる。
「食い扶持くらい自分で何とかする」
「カイ、ご飯ってその辺に落ちてないんですよ」
「それくらい知ってるって。手から湧いて出るんだろ」
「それは違うのです」
「ご飯問題は何とかするから、2人とも先にお風呂入って」
ご飯以外のライフラインは無事だったらしい。ズルズルと引き合っているのをベリッとはがして、ペイッと脱水場に放り込んだ。お風呂に入ったら、カイもナナも少し落ち着いた。あがると、いい匂いが2人の鼻をくすぐる。パタパタとかけていくと、エプロンを付けた冒険者がオタマ片手に待っていた。
「もうできるから、ちゃんと着替えてくるように」
 バスタオルを体に覆わせてきたことを思い出し、そそくさと戻る2人だった。替えの服は下着と一緒にまとめ買いしていた。慌ただしくそれに着替えて台所に飛んで帰ると、すき焼き風の煮物を盛っているところだった。テーブルの上にはサラダとパンがある。
「「美味そう!!」」
 あふれ出てくる涎を拭きながら、2人は勧められた席に着く。
「どうぞ、召し上がれ」
「「いただきます!!」」
 そこからはただただ食べることに没頭した。カイは食べたことのない味に、ナナは懐かしい味にそれぞれ思う存分舌鼓を打ち、お腹いっぱいになる頃には思考回路は落ち着いていた。
「さて、あとは寝るだけ」
 案内された部屋にはベッドがあった。かなり大きなベッドで二人で寝るのに十分な広さがある。
「寝て覚めれば現が始まる」
「あなた方の未来に幸多いことを」
 お祈りのような子守唄を聞きながら、2人はようやくベッドで眠れたのだった。

                                続く
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