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2章 品川私立高校事変

第1話 新たな任務

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 イビルアイの討伐から数日後、カオルとスミレは連れ立って神卸の外、東京都庁に来ていた。
 神卸を含めた全国の未帰還者隔離都市には数百人単位の学生が居る。しかし未帰還者の中だけで学生を指導できる職種の人数は居なかった。
 その為、適性試験の中から指導役候補者を選出し、月に1度の頻度で各都市最寄りの教育期間にて教育者としての研修を受ける事になっている。

 スミレはその訓練を受けに、カオルはスミレの護衛として都庁を訪れていた。
 訓練は日帰りで終日行われるがカオルの護衛は神卸と都庁の往復のタイミングのみだ。その為、暇な時間をカオルは都庁内に設置されたシミュレーションや物理崩壊研究施設で過ごす。

 この護衛任務が始まって5ヵ月、既に5回目ともなればカオルも各施設に知り合いが出来ており、特に時間潰しに困りはしなかった。
 そんな中、都庁の職員から相談を持ち掛けられていた。

「幽霊?」
「そう、幽霊」

 シミュレーション施設の職員で噂好きの女性職員はニシシとでも笑いそうな満面の笑みを浮かべて缶コーヒーを飲むカオルに顔を寄せてくる。
 休憩ラウンジの狭い机に身体を乗り出し迫っている姿はかなり誤解を受けそうだがカオルはバカらしいと目を細めるだけだ。

「そういうのは神社とはお寺とかに持っていく案件では?」
「ふっふーん。甘い!」

 芝居がかった動きでカオルに指を突き出す職員に反論する気も無くカオルは溜息を吐いて応えた。

「そうかい」
「今回の目撃情報はゴースト系モンスターが関与しているはずなのよ!」
「あ、未確認なのね」
「だからカオルに話を持って来たんだもの」
「何で持ってくるかなぁ」

「神卸の外で自由に活動できる未帰還者なんて限られてるでしょ。こっちから依頼したって証拠さえ有れば不自由させないし、役人が同行してれば下手に勘繰られる事も無いし」
「外堀を埋めてくるなぁ」

 ドヤ顔で胸を張る女性職員、三咲はカオルとは高校時代からの知り合いだ。
 卒業後、大学は別々で特に連絡を取り合う事もしていなかったが物理崩壊によって再会した。
 都庁の職員としてカオルの個人情報にアクセスした三咲が一方的にカオルの事を知り、スミレの護衛で都庁に来ていたカオルに三咲が声を掛け再会したのだ。

「高校の時はこんなのが得意だなんて知らなかったよ」
「まあ大人になってから伸ばした技能だしね。それにクラスメイトの外堀埋めるような事なんて普通は無いでしょ?」
「そりゃそうだ」
「じゃ、近々仕事の依頼出すからよろしく~」

 手を振って去って行く三咲を見送ってカオルは再度、溜息を吐いた。。
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