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5章 脱走兵
第1話 カオルの現状
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大晦日から数日、ヤ・シェーネはカオルの添削でオフコラボ要請には無事に断りのメールを返し安心して配信業に専念していた。
そんなある日、いつも通りに22時から配信をしているとコメント欄に配信には無関係なコメントが流れた。先日のオフコラボについてのコメントで誘われたのに何故、参加しなかったのかという趣旨のものだ。
そもそもコラボに出る出ないはヤ・シェーネの自由だし、誘われていた事を公表もしていない。
そんなコメントが出る事を不審に思い配信後にコラボ主催者のSNSやオフコラボの配信を確認してみる。
元々の勧誘通りに生身で5人のオフコラボ配信で参加要請を出した相手には触れていないが、SNSでは他動画配信者を遠回しに攻撃する内容が多くその中にはヤ・シェーネも含まれていた。
これを見た一部のリスナーがヤ・シェーネの配信でコメントしたのだろう。
そもそもバーチャルアバターを用いるヤ・シェーネにオフコラボを持ち掛ける神経が分からず、しかもヤ・シェーネ以外にも複数人の配信者を攻撃している。
下手に相手をする面倒を嫌いヤ・シェーネは自分の動画のコメント投稿者をミュートにした。
「なぁんて事が有ったのよ」
「配信者を攻撃する配信者か」
そんな配信の翌日、夕食を終えてカオルにリビングで愚痴を言っていればカオルが難しい顔をした。
「そのミュートにした相手はは分かる?」
「え、うん。ミュートにしただけだから再表示できるよ」
「……念の為にスクショ撮っておいて。断った時のメールも全部保存しておこう。何か、嫌な感じだ」
「嫌な感じ?」
「SNSでの誹謗中傷で有名人の自殺者が居るでしょ」
「私がその被害者に成るかもって事?」
「そう。特に君が未帰還で実刑判決を受けてるって知られれば攻撃してくる人は絶対に出てくる」
言い切ったカオルの無表情に気圧されてヤ・シェーネは思わず頷いた。
自分が誹謗中傷される事は経験済みだ。未帰還者としての差別も、未成年にも関わらず名前も顔も公表される理不尽も知っている。
その時の事を思い出せば人の残酷さに身震いしてしまう。
「大丈夫」
カオルはスマートフォンを取り出して何かの調べ物をしながら机の上に置かれたヤ・シェーネの手を上から握った。
「後で投稿者が同名でSNSしてるか見てみよう。記録して後から警察にIPアドレス追跡を依頼できるようにしておこう」
「カオルさんて、SNSとかの調査に詳しいの?」
「いいや。単純にニュースとか見て得た知識だよ」
「何て言うか、日頃の情報収集って大事なのね」
ヤ・シェーネの愚痴から直ぐに具体的な行動を提示するカオルの防犯意識の高さに感心するが、カオルは動画配信者の動向には疎い。
自衛の必要性を再確認してヤ・シェーネはカオルのアドバイス通りに記録を取る事を決め、直ぐに不思議そうに首を傾げた。
「警察って未帰還者に協力してくれるの?」
「……正直、あまり期待できない」
「……そう」
「現場レベルなら協力的な人も居るけど、組織としてはね。特にSNSのIPアドレスを特定するならSNS運営会社の協力も必要だ。仮に警察が協力的でもそっちが協力的とは限らない」
「……人間って面倒」
「ね。面倒」
盛大に溜息を吐いて子供みたいにカオルは机に突っ伏した。
「何か有ったの?」
「クリスマスの事件で隔離都市に対して風当りが強くなったからね、都市周辺にマスコミが張ってるんだ。お陰で今日は外回りのはずが三咲の書類仕事を手伝ってた」
「あ~。カオルさん、今でも注目集めてるもんね」
しかし隔離都市の建設以来、カオルはメディアに大きく露出していないし、隔離都市に移住が完了してもう数ヶ月は経っている。
そんな状況でもカオルを追い掛けるのか疑問だったヤ・シェーネは首を傾げた。
「まあ、新聞の一面を飾るような事は無いけどね。防衛班としての仕事で関東近辺でモンスターと戦う姿をよく撮られるんだ」
「あ、調べたら出て来た……え、これアイドル扱いじゃない?」
「この間なんて都庁の職員に宣伝用のモデルやらないかって依頼が来たよ」
「……お疲れ様」
人前に出るのが嫌いなのに目立つし上手くできてしまうのがカオルの不幸だろう。
それはカオルも自覚しているようでヤ・シェーネは時々、わざと手を抜いているのを見た事がある。都庁からの要請で著名な作家との会談連載を断り切れなかったのだが連載3回目で関係者から打ち切りを打診されるよう面白味の無い回答を続けていたのだ。
子供っぽい対応だとは思うしそのせいでSNS上ではカオルの人物像について面白味の無い人物だと酷評する者も居た。
恐らくカオルはその時にSNS上での誹謗中傷に対して被害者側が集めておく情報を調べたのだろう。
「お互い、人前に良い思い出が無いわね」
「本当にね。コーヒー淹れ直そうか?」
「カオルさんは座ってて。私が淹れるよ」
「そう? ありがと」
大人とは思えない気の抜けた笑みを浮かべるカオルの手を離れる事に少しの名残惜しさを覚えながらヤ・シェーネはカウンターキッチンに向かった。
そんなある日、いつも通りに22時から配信をしているとコメント欄に配信には無関係なコメントが流れた。先日のオフコラボについてのコメントで誘われたのに何故、参加しなかったのかという趣旨のものだ。
そもそもコラボに出る出ないはヤ・シェーネの自由だし、誘われていた事を公表もしていない。
そんなコメントが出る事を不審に思い配信後にコラボ主催者のSNSやオフコラボの配信を確認してみる。
元々の勧誘通りに生身で5人のオフコラボ配信で参加要請を出した相手には触れていないが、SNSでは他動画配信者を遠回しに攻撃する内容が多くその中にはヤ・シェーネも含まれていた。
これを見た一部のリスナーがヤ・シェーネの配信でコメントしたのだろう。
そもそもバーチャルアバターを用いるヤ・シェーネにオフコラボを持ち掛ける神経が分からず、しかもヤ・シェーネ以外にも複数人の配信者を攻撃している。
下手に相手をする面倒を嫌いヤ・シェーネは自分の動画のコメント投稿者をミュートにした。
「なぁんて事が有ったのよ」
「配信者を攻撃する配信者か」
そんな配信の翌日、夕食を終えてカオルにリビングで愚痴を言っていればカオルが難しい顔をした。
「そのミュートにした相手はは分かる?」
「え、うん。ミュートにしただけだから再表示できるよ」
「……念の為にスクショ撮っておいて。断った時のメールも全部保存しておこう。何か、嫌な感じだ」
「嫌な感じ?」
「SNSでの誹謗中傷で有名人の自殺者が居るでしょ」
「私がその被害者に成るかもって事?」
「そう。特に君が未帰還で実刑判決を受けてるって知られれば攻撃してくる人は絶対に出てくる」
言い切ったカオルの無表情に気圧されてヤ・シェーネは思わず頷いた。
自分が誹謗中傷される事は経験済みだ。未帰還者としての差別も、未成年にも関わらず名前も顔も公表される理不尽も知っている。
その時の事を思い出せば人の残酷さに身震いしてしまう。
「大丈夫」
カオルはスマートフォンを取り出して何かの調べ物をしながら机の上に置かれたヤ・シェーネの手を上から握った。
「後で投稿者が同名でSNSしてるか見てみよう。記録して後から警察にIPアドレス追跡を依頼できるようにしておこう」
「カオルさんて、SNSとかの調査に詳しいの?」
「いいや。単純にニュースとか見て得た知識だよ」
「何て言うか、日頃の情報収集って大事なのね」
ヤ・シェーネの愚痴から直ぐに具体的な行動を提示するカオルの防犯意識の高さに感心するが、カオルは動画配信者の動向には疎い。
自衛の必要性を再確認してヤ・シェーネはカオルのアドバイス通りに記録を取る事を決め、直ぐに不思議そうに首を傾げた。
「警察って未帰還者に協力してくれるの?」
「……正直、あまり期待できない」
「……そう」
「現場レベルなら協力的な人も居るけど、組織としてはね。特にSNSのIPアドレスを特定するならSNS運営会社の協力も必要だ。仮に警察が協力的でもそっちが協力的とは限らない」
「……人間って面倒」
「ね。面倒」
盛大に溜息を吐いて子供みたいにカオルは机に突っ伏した。
「何か有ったの?」
「クリスマスの事件で隔離都市に対して風当りが強くなったからね、都市周辺にマスコミが張ってるんだ。お陰で今日は外回りのはずが三咲の書類仕事を手伝ってた」
「あ~。カオルさん、今でも注目集めてるもんね」
しかし隔離都市の建設以来、カオルはメディアに大きく露出していないし、隔離都市に移住が完了してもう数ヶ月は経っている。
そんな状況でもカオルを追い掛けるのか疑問だったヤ・シェーネは首を傾げた。
「まあ、新聞の一面を飾るような事は無いけどね。防衛班としての仕事で関東近辺でモンスターと戦う姿をよく撮られるんだ」
「あ、調べたら出て来た……え、これアイドル扱いじゃない?」
「この間なんて都庁の職員に宣伝用のモデルやらないかって依頼が来たよ」
「……お疲れ様」
人前に出るのが嫌いなのに目立つし上手くできてしまうのがカオルの不幸だろう。
それはカオルも自覚しているようでヤ・シェーネは時々、わざと手を抜いているのを見た事がある。都庁からの要請で著名な作家との会談連載を断り切れなかったのだが連載3回目で関係者から打ち切りを打診されるよう面白味の無い回答を続けていたのだ。
子供っぽい対応だとは思うしそのせいでSNS上ではカオルの人物像について面白味の無い人物だと酷評する者も居た。
恐らくカオルはその時にSNS上での誹謗中傷に対して被害者側が集めておく情報を調べたのだろう。
「お互い、人前に良い思い出が無いわね」
「本当にね。コーヒー淹れ直そうか?」
「カオルさんは座ってて。私が淹れるよ」
「そう? ありがと」
大人とは思えない気の抜けた笑みを浮かべるカオルの手を離れる事に少しの名残惜しさを覚えながらヤ・シェーネはカウンターキッチンに向かった。
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