フェンリルさん頑張る

上佐 響也

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7話 友情の復活は略奪愛

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「さて、熱血戦闘員はああ言ってた。シスターはどうすんの?」

宿に戻って作戦会議。
まさかあんな簡単に答えが聞けるとは思ってなかったからこの先ノープランだ。

「うっ……どうするとは?」
「あら、とぼけるのね? さっきはあんなに顔を赤くして悶えてたのに。これは彼に暴露した方が良いのかしら?」
「ほほう」
「い、いや待てっ! 認めるっ、嬉しかったと認めるから暴露は止めてくれっ!」
「えっ、もうお手紙書いちゃったよ?」
「今直ぐ破けっ!」
「凍、パス」
「はいよ。何々、ジャンへ、私はあなたと気軽に話せるようになると考えると胸が破裂しそうなほど、」
「止めろおおおおおおおおおおおっ!」

おおっ、幻狼の身体能力に迫るスピードで手紙奪って破りまくってる。やるなシスター。

「おおおおおおお前たちはっ! 私で遊んでいるんだろう!? そうなんだろうっ!?」
「「「うん」」」

何を今更。最初に雷が言った通り暇潰しなんだぞ? 遊んで当然だろう?

「開き直るなっ!」

怒られてしまった。何て理不尽な王女だろうか。

「凍、ヘンリエッタからしたら私たちが理不尽だよ」
「そうね、少し遊びすぎたかしら? 止めないけど」
「まあそんな些事は放っておいて、」
「私の恋は些事か?」
「これからどうするんだ? このまま気安い同僚に戻るか、一歩先に進んだ関係を目指すのか、今の関係に慣れるのか」

第4の選択肢は思い付かない。俺は当人じゃないからな。

「……まずは同僚に戻る。このまま息苦しいのは御免だ」
「うんっ、協力するよっ」
「そうね、その方が面白そうだわ」
「コオル、アズマをどうにかしてくれ」
「諦めろ」

女性陣は基本フリーダムだから俺にはどうしようもない。
関わってしまった己の不幸を呪うがいいっ!
誰の台詞だったか思い出せん。

「さ、善は急げと焔も言ってたし、行くぞ」
「え″っ」
「焔、雷。シスターを連行しろ」
「了解っ」
「ペットが私に命令するなんてね。でも良いわ、今回は素直に聞いてあげる」
「待てっ! 心の準備がっ、言葉にする覚悟がっ!」
「そんなもの、あとからついてくるわよ」
「人のことだと思って!」
「人のことだもんねっ?」
「そうだな」
「この鬼畜共ーっ!」

さっさと行くぞ。




「どうなるかな?」
「なるようになるわよ」

良いから見守っててやりましょうって。2人に聞こえたら無粋だよ? でも何か忘れてる気がする。

「お、王女様!?」

お、始まった。

「何だか久しく感じるな。まだその日の内だと言うのに」
「そ、そうですね。まさか、王女であられるとは思いませんでした」
「何に見えたんだ?」
「え、え~と……」

……飽きた。

「凍、我慢してっ」
「堪え性のない子ね」

正直どうでも良いからな。

「言いづらいならば良い」
「で、ですがっ、」
「私はっ! 前みたいに、話したいんだ」

おおっ、とうとう本心暴露か?

「前のように、ですか?」
「そうだっ。互いのことを名前で呼んでた、気軽に話せたときのように、したい」
「……僕は」

何と言うヘタレ。ここまで来て黙るとは熱血戦闘員からヘタレ戦闘員への格下げも有り得るぞ?

「ここにもヘタレな幻狼が居たわね」
「そうだねっ。同じだよねっ」

酷いな。

「……ヘンリエッタ、僕は、君ともう1度、普通に話がしたい」
「ジャン……」

あ~、仲直り(?)したのか。もう1波乱くらいあると思ってたんだがな。

「ヘンリエッタ、君は、好きな人は居るかい?」

へ?

「えっ! いや、そのっ、私はっ」
「僕は、つい最近、好きになった人が居るんだ」

目がマジだ。シスターの目を正面から見詰めてる。まるでこれから大事な告白でもするような……え、マジ?

「僕は教会に、祈りに一生を捧げるつもりでいた。1人に女性を愛するわけにはいかないと、諦めていた!」
「……ジャン」

教会の神父とかって結婚禁止なのか? しかし真剣そのものだな。何かドキドキしてきた。焔も雷も恥ずかしそうなのに目が離せないでいるな。焔なんて両手で顔を覆ってるのに指の間から見てるし。

「だけど、君がっ、王女という立場で、周りとの距離を考えなくてはいけない君がそこまで勇気を出したならっ! 僕も、自分の勇気を示したい!」

漢だな熱血戦闘員。流石俺が見込んだ男よ。
いつ見込んだんだよっ!

「僕には、愛する人ができたんだっ! とても強い意志を持った、綺麗な女性だ!」

シスター美人だからな。これは有り得ることだったな。相変わらず何か忘れている気がするが。

「その人はっ、僕にこう言ったんだ!」

おおっ、クライマックスですねっ!」

「自分が裁く、と」
「…………は?」

…………は?

シスターと俺たちの戸惑いが一致した。
このとき、俺たちの心は1つだった。
『何言ってんだこの熱血戦闘員は?』、と。

「あの紅い髪の少女は、僕を裁くと言ったんだ。この罪深い僕を」

何か勝手にヒートアップしてらっしゃる。

「誰も僕を責めなかった、僕の罪を。冤罪で無実の少年を追い詰めた、僕の罪を!」

そもそも教会全体の罪だがなっ。
これはもしや、愛の3角関係の始まりか?

「あなたも含めて4角関係じゃないかしら?」
「雷、4角はゴロ悪いから却下だ」
「焔はそうでもないみたいよ?」

そんな馬鹿な話、

「凍が他のオスから私を守って、戦って、迎えに…………えへへ、うふふ、グハハ」

もの凄く嬉しそうに天を仰いで妄想してらっしゃる。最後の笑い方は聞かなかったことにしよう。何か寒気がする。
しかし、俺が忘れてたのはこれだったか。そう言えば熱血戦闘員から逃げ切ったとき切なそうな表情してたしな。その後自分が冤罪吹っ掛けてたって知って凹んだんだろうな。で、焔に叱られたの思い出して本気で惚れたと。
……ドM? そう言う変態は間に合ってるからこれ以上いらないんだが?

「ジャ、ジャンはホムラのことが好きなのか?」
「彼女はホムラと言うのか。僕には知る権利はないと思って名前も聞けなかったのだが、そうか、ホムラか……良い名前だ」

どうしよう、シスターに会わせる顔がない。そもそも会うのが怖いんだが。
流石にガチで戦うなんてことにはならないと思いたいけど、あの王子の妹であの口調……武闘派だったら確実に戦闘になるよな?

「え、え~と、私は宿に戻るっ! 彼らを見ていなければいけないしなっ!」
「ああ、仕事頑張ってくれ。じゃ、またな、ヘンリエッタ」

爽やかに、凄くスッキリした顔で去っていった熱血戦闘員だった。死ねばいいのに。

「で、ちょっと相談があるんだが、良いか?」

完璧に表情が消え去ってるシスターは、ヤンデレモードの焔にちょっと似てた。
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