フェンリルさん頑張る

上佐 響也

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帝都

17話 戦闘開始

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穴の開いた天井からは巨大な何かが暴れ回る音と金属的な音が絶えず聞こえてくる。
話声は聞こえない。偶に気合の入った短い声が聞こえるくらいだ。
焔も雷も頑張ってるんだろう。早く2匹に合流したい。

でも俺たちはそれどころじゃない。

魔法陣から出てきた異形の3体は普通の魔獣では有り得ない動きで地下の広場を動き回っている。
俺たちが居る広場は支柱が何本か立っているのだが、その支柱を4本の腕で掴んだり2つの膝関節を持つ足で蹴ったりして縦横無尽に動く。
俺と花子は背中合わせになって互いの死角を潰しているが時間の問題だと思う。
単純に2対3は分が悪い。
勝てなくはないだろうがかなり無理をしないといけないはずだ。
こうなったら焔と雷と合流したいがそれも難しい。霊龍と戦っている2匹に地下に移動する余裕は無いはずだ。

「凍君、次の攻防で2手に別れましょう。私は壁際、凍君は階段側です」

ほほう、俺に焔と雷の方に行けと? 無理無理、置いていけねえもん。

「我侭言わないでください。私が3体と遊んでいる間にレイちゃんを説得して、3匹でこっちに来てください。私も、それまでには終わらせますから」

今だって防ぎきれずにちょっと爪で切られてんのに夢見んな。普通は無傷の俺が残るとこだろ。

「いざとなったら眠り粉がありますから心配しないでください」

通じない気がするんだけど? やっぱ俺たちでどうにか乗り切ってあっちに合流が妥当だろ。さっさとやるぞ。

「……はいっ」

嬉しそうっすね。
スーパーボールのように跳ねまわってた異形の1体が俺の左から花子に向けて爪を伸ばした。鞘がある側で上手く対処できない花子に代わり俺が銃の展開刃で弾く。反対からもう1体が俺に爪を伸ばしているがそれは花子が刀で弾いた。
で、残る1体が5メートル先から熱線を吐こうとしている。右の銃から単発の弾丸を放ち即座に回避、一拍遅れで俺たちが居た場所を熱線が通る。一旦離れた花子が異形に捕まる前に合流。
さっきからこのパターンが多い。偶に異形の爪が花子の手足を掠める。その度に花子が俺に見られたくなさそうにするが今は気にしない。後でいくらでも話を聞くから今は集中してくれ。何だったら傷の手当を全部しても良い。

「でも、どうしましょう? このままじゃジリ貧ですよね?」

そうなんだよな……あっ

「花子、水はあるか?」
「はい。でも何に使うんですか?」
「その刀の能力を使う」
「ああ、そうでした。一応瓶に入れて水は持っていますから使えますよ」

これで状況が好転すれば良いが、どうなるかは半々。神のみぞ知る、ってやつだ。
左の銃は杭にしてある。これで始められるな。

「次の攻防で天井に穴を開けるぞ」
「……え?」
「まあ、ものは試しだ」
「……そうなんですか?」

完全に置いてきぼりの花子と作戦を立ててたら異形が突進してきた。
さて、どっちに転ぶかな?

1体目が俺に向けてきた爪を右の銃で上に弾き、ガラ空きになった胴体に左の銃で杭を打ち込む。これで1体は相当復帰に時間が掛かるはず。
俺の背中側では花子が刀で異形の爪を受け止めている。異形の膝、腕、肩を蹴り上がり天井に杭を打ち込む。
3体目が熱線の準備をしていたが右の銃を乱射したら目に当たったようで苦しんでいる。
落下しながら花子と切り結んでいる異形に狙いを定め、杭を脳天に落とす。地面に押し付けるような形での杭打ちで異形の頭から頭蓋骨が割れたような感触がした。

「花子、俺が打った場所だ!」
「はいっ」

花子が瓶の水を刀身に撒くと、水が刀身を伸ばすように形を固定した。完全に水の刃だ。伸ばした刀身ならば花子が単身で天井に跳躍すれば天井に届く。

「はっ!」

勢いの乗った斬撃で花子が天井を斬る。俺が打ち抜いて脆くなっている地点を正確に斬ったところを見る限り、花子の技量は高そうだ。
天井に穴が空いた。
そして、ちょっと運が悪かったようだ。俺の予想では花子の斬撃で天井が上に吹き飛ぶはずだったんだが何か重いものが真上に置いてあったのか、嫌な音を立てて天井が崩壊した。

【いたたた、一体何だと言うんだね】
「あ、凍っ」
「あら、面白い再会ね」

あ、子供とは言え龍が上に居たらそりゃ落ちてくるか。
霊帝は所々切り傷がある。焔の服も着物の袖がビリビリに破れている。雷のドレスもスカートがビリビリ……キャットファイト?

【ふむ、弟は一体何を呼び寄せたのかな? 確かに文献では異形の何かが出てくるとなっていたけど】

異形の3体を見ても対して反応を見せない霊帝を淡白だとは思わない。魔獣の世界では異種族間の繁殖でおかしな魔獣を見ることもある。霊帝は帝宅からは出れなかったが常識としてそれを知っているのだろう。
ただ、混じり物の実物を何度か見たことのある者として言わせてもらうなら、あの異形は有り得ない。
最低でも馬と蝙蝠と猫と蛇、猿かゴリラのようなものまで混じっている。それも断片的にだ。それが3体。しかも口からの熱線なんて火竜種だけだ。
つまり6種類。どうやったらそんなものができるんだ? 異形は普通の魔獣とは考えない方が良い。言葉も通じない。本格的に別の生物だと考えるのが妥当だろう。黒スライムと同じように。

【弟は、そうか。死んだか】

気付いたか。

【元々体も弱かった。それを僕が保険で生かしたんだ。開放感に包まれていたかな?】

まるで見ていたみたいに当てるんだな。

【姉弟だからね、少しは分かるよ。これで僕は本当に天涯孤独になったわけだ】

魔獣にはどうでもいい話だな。

【その通り。でも、孤独は嫌なんだっ】

今まで様子見をしていた異形が無差別に攻撃を始めた。霊帝も俺たちも関係無い。熱線を撒き散らし、爪で削り、地下の柱や壁が破壊されていく。
こりゃ長くは持たないな。

「全員地下から出るぞ」

誰も反対はしなかった。霊帝はさっさと天井から飛んで出ていってしまう。乗せてけよ。
異形が霊帝に気を取られている隙に階段へダッシュ。後ろでは異形が熱線を走らせたのが分かったがギリギリで壁に阻まれた。でもさっさと走り抜けないと崩壊に巻き込まれる。
落ちてくる天井とかを銃で細かくしたり躱したりして階段を走きりった。

【やっぱり生きてたね】

霊帝か。余裕そうだな。

【そうでもないよ。なんせ、彼らは僕の味方ではないようだからね】

地下に開けた穴から、異形の3体が蝙蝠の羽を広げて飛び出してきた。
もしかして、3つ巴?
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