フェンリルさん頑張る

上佐 響也

文字の大きさ
上 下
80 / 127
帝都その2

8話 水龍ロリコン計画の始動だよっ

しおりを挟む
さて、ついに到着しました水龍の住む湖。何でもギンガとスバルの家はここから徒歩で30分ほどで毎朝水汲みに来ているそうだ。水龍は特に襲ったりはしないらしい。

「スイ様~、ちょっとお話がありま~す」

ギンガが子供特有の甘ったるい喋り方で水龍を呼んでいる。何だか緊張感の削がれる呼び方だが気にしたら負けだ。これからドラゴンをロリコンに変えようだなんて思っている俺たちに緊張感も何もあったものじゃないしな。

【ギンガよ、久しいな】

ああ、出てきたよ水龍。竜ではなくて龍な。青い鱗に長い髭を2本生やした20メートル以上もの巨体が湖の水面に浮いた。周囲の魔獣が逃げ惑うのが分かる。この威圧感は半端じゃない。
霊竜である霊帝は……焔の陰に隠れてガタガタ震えているな。焔は俺の陰で震えているけど。

【そして、貴様かこの鬼畜氷狼!】
「何で俺が名指しなんだよ!?」

思わずツッコミを入れてしまった。阿呆なこと言ってても相手はドラゴン種。成獣した幻狼が10匹でようやく引き分けに持ち込める相手。
てかドラゴン種の影響で現在の魔獣と人間のパワーバランスが保たれていると言っても良い。下手に森を開拓しようにもドラゴン種の住処に手を出した人間の国の末路は凄い。
魔獣だろうと人間だろうと聞いたことのある御伽噺だ。風龍の住む森に手を出した人間の国が1時間で一方的に蹂躙され、その痕がキスタニアの南にある風化した都市なのだと。
王都に戻った後はそっちを見に行っても良いかなと思っている。現在は風を使う魔獣の住処と化しているらしい。良き哉良き哉。

【黙れい! 美しいメスを3匹も囲いおって! オスとしてたった1匹に愛を捧げようとは思わんのか!!】
「本音は?」
【吾輩だって美人の嫁さんが欲しい!!】

素直だ。ここまで正直だと願いはなんだろうと清々しい。でも焔とか雷とか花子に欲情する気配は無い。力の差があり過ぎて番として認識できないようだ。
仕方がない、ここは俺の交渉力で水龍の将来に光を照らしてやろう!

「そんな水龍様に朗報です」
【気持ち悪い話し方だな】

ウルセエよ。雷も霊帝の蔑むような目で見るな! 焔と花子は無理に笑うの我慢すんな! 逆に傷つくから!

「んんっ。こいつはどうだ? 将来有望だと思うぜ」
【むむっ】

何か異常に面倒臭くなってきて咳払いの後は言葉がぞんざいになった。
焔の後ろに隠れていた霊帝を前に押し出す。水龍は興味を引かれたようで人間なら一飲みにできそうなデカい顔を霊帝に近付けて何かを観察している。

【人間の匂いが強いな】
「それに関しては直接聞いてくれ。俺も細かい事情は知らん」
【ふん、端からそのつもりだ】

その後は水龍と霊帝が1対1で話した。俗に言う『後は若い者同士にお任せしましょう』というやつだ。ギンガとスバルは湖の浅瀬で水を掛け合ったりして遊んでいるし、花子は花の蜜を吸ってご満悦、雷と焔は昼寝を始めた。

「冷たいっ」
「ほらほら、もっと行くわよ」
「これでも喰らえっ」

何て微笑ましい親子の遊びだろう。決してリア充なバカップル遊びって見てるとムカつくとか思ってないよ。本当ダヨ。
しかし霊帝が『少しは僕のこと気にしろよ』的な目を時々向けてくる。だって関わりたくないんだもん。何でも良いから水龍に好かれろ。水龍ロリコン化計画がパーになっちまうだろうが。
え、自分勝手? 知らんがな。

【ではそこの氷狼に騙されるような、いや、脅されるような形で吾輩の所に連れてこられたのか】
「そうなんだ。僕に決定権なんて無かったね、野生に生きるものは自分の利益のためなら他者のことは気にしないというのは本当みたいだね」
【まあ、赤の他獣の人生相談ならば吾輩でもそうするだろうな】
「やっぱりあれが魔獣の一般的な反応なのかい?」
【うむ。他者とは競い糧とするものであり、協力するものは何があっても守る。人間社会に拘束されている者には縁の無い感覚かもしれんな】

おお、意外と話弾んでる?
水龍は霊帝の腕を見ても何の反応も見せない。感覚の優れた霊帝なら何かしらの感情を読み取るんだろうが俺には無理。少なくとも匂いに現れるような何かは無い。実は嘘ついたり動揺したりすると匂いって変わるんだぜ?

「しかし、あなたはまだ成獣してないのに随分と強いんだね。目の前に居るのに霊竜の五感でも測れない」
【8歳の子竜に測られるほど落ちてはおらん。まあ、種族内でも力が強すぎる故に生まれて20年で里を追われてこの森に来たのだがな】

自慢かと思ったら結構悲しそうだな。てか成獣前の子供が集団から弾かれるってかなりの事情があるぞ。水龍で20年って人間で言えば10歳にも満たないし。

【あの腑抜け共が】

ああ、性格ですか。

「分かる!」

はい?

「僕だって好きで人間の国で霊帝なんてやってるんじゃない! 何で僕がジジババ共の契約に縛られなくちゃいけないんだ!」
【おお、レイも大人に振り回された口か。これは互いに良き理解者になれそうだ】
「本当だね。ジジイもババアも僕のことが心配だなんて建前で本音を隠して、僕には全然隠せてないって言うのに!」

……もう放っておこう。あれは関わると碌なことにならない。

「んあぁ~、まだ話してるの?」

あ、焔が起きた。眠そう。ちょっとウェーブ入ってる赤髪が崩れてる。

「髪グチャってるぞ」
「直してぇ~」
「はいはい」

後ろから髪を解かしてやると気持ち良さそうにしている。子供みたいだな。
う~む、花子の艶のある髪とはまた違った感触だ。フワフワしてる。

「あれを四六時中見せられているんだ。頭がどうにかなりそうだ」
【レイも大変だな。吾輩は人間社会に居なくて心底良かったと思ったぞ。まあ、居なくてもアレがあるのだが】

失礼なドラゴンコンビの視線の先ではギンガとスバルがイチャイチャしている。ギンガの目に水が入ったみたいで混乱している。それをスバルがホクホク顔で介抱している。ギンガの目から水を抜くために頑張っているようだ。しかしどう見てもスバルはギンガを食べる直前5秒前、まずはハアハアするな。あ、瞼にキスした。

「……アレは?」
【普段から吾輩の知覚範囲内でアレなのだ。2人の家はここから500メートル程度の位置にあるのでな】

ゴメン、もうちょっと自重します。ちょっと胸焼けが……

「凍君、私の髪も解かしてください」
「はいはい」

「自重しろよ!」
【馬鹿者共が!】

サーセン。
しおりを挟む

処理中です...