フェンリルさん頑張る

上佐 響也

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魔獣森

3話 妙なことになったわ

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キングゴブリンに無駄な精神的ダメージを与えてしまったから今回の植物系魔獣には無駄なダメージは与えたくないな。下手に怯えさせると情報が手に入らないかもしれないし。
そう思っていた時期が俺にもありました。

【人間臭い魔獣なんてヤッ!】
【キモイキモ~イ!】
【帰れ帰れ~!】

【焔、やって良し】
【わぁいっ!】

着火、後、大惨事。
目の前で植物系魔獣たちが葉っぱを燃やされたり炙られたりして泣き喚いている。
樹木の魔獣が多いな。根っ子が地上にはみ出してる枯れ木って姿が特徴的だ。他にも毒々しい色彩の花とかが年中咲き続ける魔獣も居るが、総じて弱点が露出していて炎狼にはカモだ。どう見ても燃やしてくれと言わんばかりだし遠慮は無用だよな?
焔の方も聞きたいことがあるってのは心得ているから生かさず殺さずな火力に調整しているようだな。燃えても直ぐに鎮火する程度の火力だ。植物って意外と燃やし続けたりするの難しいんだよな。それにしっかり火を当て続けないと着火しないし、枯れていると更に燃えづらい。
俺の心遣いを、王様みたいに無駄に傷つけるのは止そうという俺の配慮を踏み躙ってくれたし植物系魔獣たちには怖い思いをしてもらおう。
焔、もっとやれ~。

焔の火遊びが終わった頃にはあら不思議、魔獣たちがとてもとても素直で親切になっておりました。しかし不思議なことに、皆どこか焦げていたり水分が無くなっていたりして可哀そうです。おお、神よ、いたいけな植物魔獣たちに何があったと言うのでしょうか?
1人芝居は置いといて、氷狼の氷だと反応が面白くなさそうだから直接的に危険な焔に頼んで正解だったな。

【で、昆虫の少ない道はどこかな? 早く教えてくれないと気になっちゃって火の調整が狂っちゃ】

【昆虫の嫌いな匂いの実が成る木を辿れば奥に進めますっ!!】

【お話が終わる前に遮るなんて悪い子だねっ。お仕置きが必要かなっ? かな?】

あ、俺に聞くんだな。小首傾げて可愛さ強調しても答えは変えないつもりだったんだが……ふむ、どうしたものか?

【ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい】
【もうしません申し訳ありませんすみませんでした許してください調子に乗ってました】

ああ、この怯えた声、不思議だ。何をそんなに怖がっているのだろうか? 俺は何もしていないと言うのに、心外だな。

「凍君、そろそろ許してあげませんか? 実際に道は教えてくれたわけですし」
【そうよ。それに、昆虫に襲われたら嘘を言ったってことで後で根絶やしにしてあげれば良いことでしょう?】

それもそうか。花子も庇うふりして酷いこと考えてるなぁ。

「雷と一緒にしないでくださいっ!」
【どういう意味かしら?】
「オッパイ泥棒と同じは嫌です」
【まだ言うわけね】

何と言うか、仲良いな。険悪でない口喧嘩とか久々に見たぞ。

【枯れるっ! 枯れちゃうっ!!】
【止めて止めて止めて止めてっ!!】

あ、魔獣たちが焔に炙られ続けてる。燃え移らないように距離と火力を調整する辺り焔は玄人だな。水分が蒸発しても死ぬから動きが遅くて逃げ切れない植物たちにとって炎狼は最悪の天敵かもしれないな。
あと、既に枯れてるんだが?

【仕方ないんだよ、これからどうしようかって皆で話さないといけないんだもんっ】

【話してないっ! 今後のこととか全然話してない!!】
【枯れちゃうっ! ていうか燃えちゃうっ!!】

だから最初から枯れ木のやつ多数だって。
さて、もう気は済んだしさっさと行くか。

枯れ木たちが教えてくれた木の実は確かに昆虫たちには好かれない匂いかもしれない。
あれだ、蚊取線香みたいな匂い。俺も好きじゃないな。
ただ、昆虫系魔獣たちの死骸がいくつか見つかった。同時に人間の集団の匂いもだ。血の匂いもあるな。昆虫たちは匂いが嫌いなだけで近付けないわけでは無いのは分かったが、何故に足や翅が落ちているんだ? そして人間たちの匂い……

死骸は放置されてから時間が経っていそうなのに蟻とかが死骸を狙って集まった形跡も無い。雑草の絡み具合から見て3週間くらい前に落ちたものが多そうだ。
蟻たちには大きい死骸も多いが、人間たちがキングアントって呼んでいる体調50センチくらいの蟻なら問題なく運べる大きさのはずだ。魔獣の間では大蟻な。安直なネーミングセンスが魔獣クオリティだ。

【妙ね。雷狼の村周辺には昆虫が多かったけど、こんなの始めて見たわ】
「そうですね。魔獣が食べたにしては残っている死骸が大きいですし、人間が倒したにしては数が多いですし胴体がありません」

そして運ばれたにしては魔獣の匂いが残っていないし引きずった跡も無い。人間の匂いは森の外の方に続いているけど、魔獣の匂いだけが綺麗になくなっている。ミステリ~。

【凍っ、雷と戦った時に人間が残した香水みたいな匂いがするよっ】

焔に言われて意識してみると、確かに雷が黒スライムに憑りつかれた時に隠れていた人間が使っただろう香水のような匂いが残っている。
3週間も前の匂いで微かに残っている程度だから普通なら気付かないが、焔は何で気付いたんだ?

【え? 凍と一緒に居た時に感じたものは全部シッカリと記憶してるよ?】

この娘凄い。
普通の幻狼じゃ気付かない匂いを愛の力だけで嗅ぎ取っちゃってる。

「焔の凍君絡みでのスペックは今更として、その匂い消しで良いんでしょうか? それを使って魔獣たちを運んだ、と考えることはできませんか?」
【魔獣の死骸を集めてどうするのよ?】
「それは人間に聞いてみないと分かりませんよ」
【それもそうね】

いや、今更って方にはツッコミ入れないのかよ。気持ちは分かるが。
しかし、問題は人間たちがどうしてゴブリンたちをスルーして昆虫たちの住処まで進んだかだな。人間たちがゴブリンと交戦したならゴブリンの血の匂いがするはずだが、少量だ。
仮に匂いを消しているんだとしても、大規模に交戦したら王様が教えてくれるはずだ。

……分からないことが多すぎる!

【この際人間たちの行動や魔獣の死骸のことは放置して村に行くぞ】
【そうだねっ。じゃあ、凍は私の上に乗る?】
「駄目ですっ。私、凍君の上が良いですっ」
【何でも良いから進むわよ。埒が明かないわ】

雷、良いこと言った。焔には我慢してもらって先を急ごう。何か嫌な予感がする。

【良いもんっ。村に着いたら凍の寝床で1日中ゴロゴロするもんっ】
「私もしますっ!」
【……聞き込みは、しないのかしら?】

こいつらがするわけねえ。
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