フェンリルさん頑張る

上佐 響也

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魔都

14話 お仕置きです

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屋台を離れてなるべく人目に付かない場所を目指す。
実はもう人間に見つかってる。
鉄の匂いが強い奴が俺たちを追跡しているのが分かる。
剣とだな、血の匂いはそんなにしない。

数は5人。

「ストーカーだわ」
「気持ち悪いですね」
「よし、燃やしちゃおうっ」

ああ、街を守りたいだけの人間がストーカー扱いされた上に焼かれそうだ。
考えてみると結構理不尽な話じゃね?

完全に人の気配の無い路地裏に入り込む。
少し進んでみると追跡者、生贄、いや、可哀そうな人間たちも追って来た。

完全に焔がキラキラしている。てかギラギラしてる。
何だか人間たちに同情しても良い気がしてきた。
問題は雷までニヤニヤしていることだ。
花子は辛うじて普通だが既に左手は柄頭に乗っている。ゴメン普通じゃなかった。

網目状になっている路地にある建物を見ると良い感じで飛び乗れる高さのものがちらほら。
人間たちの方はどうなっているだろうか。
路地に入って直ぐの2階建ての家に飛び乗ってから聞き耳を立ててみる。路地は細かい道がいくつも繋がっているし向こうには俺たちがどこに行ったか分からないと思う。
細い路地に入ったと勘違いされたはずだ。

「今路地に入っていった連中が参考人か?」
「おう、早く終わらせようぜ。今日は娘が大会楽しみにしてんだ」
「おい、こいつフラグ立てたぞ」
「追い返せ追い返せ、巻き添え喰らうぞ」
「後で奢れよ」
「ちっ。まあ任せたぜ?」

そう言って1人帰って行った。
……もうフラグ回収が目の前なんだがどうしたものか。
そして雷のニヤニヤが増したんだがどうしたものか。

「あ~、お前ら。絶対に殺すなよ? 良いか? 絶対だぞ? 絶対に殺すなよ?」
「大丈夫っ、凍の言いたいことは分かってるって!」
「うふふ、色々と楽しめそうだわ」
「私、ちょっと試してみたいことがあるんですよね」

どうしよう、本当に人間たちのことが心配になってきたぞ。
殺すより酷いことになりそうで怖い。

人間たちが諦めるまで隠れ続けるか? 焔が何かしかねないから却下。
直接探している理由を聞いてみるか? 焔が話を聞くか不安だから却下。
軽く脅かしてお引き取り願うか? 焔がやり過ぎないか不安だから却下。

……誰か代案プリーズ。特に焔が暴走しない方法を考えてくれ! 俺には思いつかん!

「凍、諦めなさい」
「焔が暴走したら誰にも止められません」
「お前ら俺の心を読むな」
「何で私が暴走する前提なのっ!?」
「小声で叫ぶなんて器用ね」
「凍のために覚えたよっ」
「偉い偉い」
「えへへ~」

焔が人間たちの方を見ないように頭を撫でて気を逸らしおくと人間たちが俺たちの居る路地に入って来た。

「あん? どこ行った?」
「ここは路地が多くて駄目だな」
「いや、素人だってことを考えるとまだ近くに居るんじゃねえか?」
「お、確かに」

気付くなよ! 早く通り過ぎてくれよ! 実は焔の目が怪しく光るんだよ!

「待て、この細かい路地を素人が迷わずに曲がるか?」
「確かに。まさか、俺たちに気付いて隠れているのか?」
「何だと!?」
「奴ら、気配に敏感なんだな」
「悔しい」
「でも感じちゃう」
「ビクンビクン」
「お前ら、頼むから真面目にやってくれ」

1人苦労人が居るな。しかし早く行け。余計なことに気付く暇があったら行け。

焔は俺に頭を撫でられながらも時たま『グルル……』と唸っている。
狼の本能で暴走寸前だ。いつ人間を噛み千切ってもおかしくない。
法剣にも手が伸びてるし!

……いっそのこと焔を解放するか?

「帰らないわね」
「あ、2人がここに残って2人が路地に入るみたいですよ」
「俺たちを探す組と待ち構える組に分かれたか」
「凍~、とりあえず倒しちゃおうよ~」

終わった。
焔は俺に確認する前に家の下に居る人間たちに上から襲い掛かった。片方は法剣を胴体に巻き付けられて上に放り投げられた。もう片方は顔面を地面に叩き付けられて気絶した。

上に投げられた方も屋根に後頭部を叩き付けられて意識を失った。
あ、やったのは雷な。

「何で雷も協力すんだよ!?」
「ここまでお膳立てされておいて何もするなと言うの!?」
「これをお膳立てと言えるのは雷だけですよ」
「で、お前らこの後どうするんだよ?」

このままじゃいずれ見つかるだけだ。
そしたら俺たちが余計に追われるだけだ。
てか仲間が戻ってくるし直ぐに見つかるじゃねえか。

「じゃあこの人たちを餌にしてもう2人もやっちゃおうっ」
「ああ、これが焔の得意な狩りの方法なのね」
「目の前で実践されるとは思いませんでした」

花子が呆れてる。
あ、さっきの人間たちの気配が近付いてきた。

「じゃあこうしようっ」

そう言って焔は気絶した男たちを掴むと壁に投げつけた。
そんでもって壁を殴って壊して破片を作るとそれを男たちに投げつけた。
破片は正確に男たちの襟と袖とズボンを縫い付けた。
そして家の上から破片を投げつけて男たちの意識を薄らと覚醒させた。

「お~いっ、何かスゲー音がしたけどどうしたっ?」
「……おい、何か反応が無いぞっ」
「何かあったのか!?」
「うっ、うぅ……ああ、俺は大丈夫……じゃねえ!?」
「何があった!?」
「壁に貼り付けにされてる!!」
「何故!?」
「分からん!!」

ああ、混乱しているな。
そりゃ向こうからしたら痛いと思ったら貼り付けだもんな。
それにしても貼り付けられてる奴らは男らしいな。
あ、合流した。

「お前ら、何でこうなった!?」
「「俺たちが知りたい!!」」
「てか誰にやられた!?」
「「俺たちが知りたい!!」」
「どうしたら良い!?」
「「俺たちが知りたい!!」」

あの2人は同じ言葉しか言えない呪いにでも掛かっているのだろうか?

「壁が壊れてるってことは、さっきの音はこれか!?」
「「俺たちが知りたい!!」」
「それいつまで続くんだ?」
「「俺たちが知りたい!!」」

もう良いって。
合流した連中は男たちを拘束している破片を抜こうとして片方の男の体に大量の小さな切り傷があることを発見した。
被害者も困惑しているが仕方ない。
人間が気付くような速さじゃなかったからな。

「何だ、これ?」
「分からんが、自覚したら痛くなってきた」
「待ってろ、今外してや、グフッ!?」
「え、ガアッ!?」
「誰、ゴフッ!?」
「何が、ギャッ!?」

破片を取ろうとした人間の上から焔が飛び掛かり法剣の柄で後頭部を強打、浮いた体を壁を蹴って強引にもう1人の方に飛ばし顔面に壁の破片を挟んで膝蹴り、男の体を足場に破片で動けない男たちを真上から踏みつけた。

今にも『成敗!』とか言いそうなドヤ顔で男たちを見下してから俺に笑顔を向けてくる。何となく子犬を連想するがやってることは暗殺者みたいなことなので素直に褒められない。

俺たちも降りて男たちの様子を見る。
隣に擦り寄ってきた焔に1度デコピンしてから頭を撫でる。涙目になるんじゃありません。
それにしても、最後の2人は焔の後ろ姿を見て記憶した可能性が高い。起きてから思い出されたら面倒だ。

「うぅ~……あっ、こっちの2人は忘れるように思いっきり殴らないとねっ」
「あら、人間ってその程度で忘れちゃうの? 便利ね」
「そうなんですか?」
「知らん」

俺に聞くな。てか殴って記憶喪失って本当にあるのか?
ああ、人間たちが焔と雷にボコボコ殴られている。しかもご丁寧に手袋で。焔は本当に触りたくない相手には触らないな。

「どれくらい殴れば忘れるのかな?」
「あら、そんなことも知らないで殴っていたの?」
「雷は知ってるの?」
「知らないわ」

酷い。

「じゃあ私たちが満足するまで殴りましょうか」
「えっ、良いの?」
「人間じゃ死ぬから駄目だっつの」
「ちっ、肝っ玉の小さいオスね」
「凍のはオッキかったよ!」
「羞恥プレイなど求めていない!」

いつまでも漫才が続くと人間たちの命に係わるのでさっさと帰ることにした。

ホテルに戻る前に門の方を遠目から観察してみたがやっぱり街の騎士たちが来ていて俺たちのことを話していた。
街を出ようとしたらちょっと引き止めておいてくれと言っていたな。

嫁たちと相談して4人を直ぐには見つからないように路地の人が来なさそうな所に移動させた。
俺が周辺の監視で嫁たちが人間の処理。
だって夜中に騎士とか冒険者とかが来たら鬱陶しいじゃん。

「できたよっ」
「完璧だわ」
「良かったんでしょうか?」

何故か異常に不安を抱いたが気にしたら負けなんだろうか?
いや、嫁を信じずに何が夫か? 夫ならば嫁のすることは信じるべきだよな?



翌日、花子がSランカー戦をやっぱり見たいと言うし門を抜けるのは面倒だしでホテルに泊まってしまった。
もう大会を最後まで見てから魔都を出ることにしよう。
門は強引に突破してしまおう。
闘技場では人間たちに騒がれないように適当に変装することにした。髪の色を変えるんだよ。
俺と焔は茶色、雷は金、花子は黒……花子は全然変わってねえ!? 雷の変化も正直微妙じゃね!? まともに変わったの俺と焔だけじゃね!?

「凍とお揃い!」
「変化が無いだなんて酷いわ」
「あ、私は何もしてません」
「何かしろよっ!!」

もう良い、気にするだけ無駄だしホテルを出る時間だ。
荷物はギルドに預けられるけど捕まりそうだし、コインロッカーみたいなものないかな?
あるかも分からないロッカーに期待しても無駄だしホテルに置いておこう。貴重品だけ持ち歩こう。
魔都は今日も賑わっていた。今日は誰が有力だとか色々な話が聞こえてくる。

「おい聞いたか?」「冒険者が北の路地で辱められたんだろ?」「スゲーよな、1人は髪と脇毛と脛毛を焼かれたんだろ?」「俺は全身性感帯にされたって聞いたぞ」「え、ビクンビクン焦げてたんじゃねえの?」「全部だって聞いたんだが?」「「「ねーよ」」」

……チラッ

「焼いちゃったっ」
「粉使っちゃいましたっ」
「ビリビリさせたわ」

……信じた俺が馬鹿だった。
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