フェンリルさん頑張る

上佐 響也

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戦争

4話 食事

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王都に着いてから2日目。

魔都に半分以上の金と今までの服、ついでに王子に渡す予定だった資料を置いてきてしまったせいでギルドにリーガル宛てで置いていくこともできない。
ついでに魔都から他の魔獣が送られてきても笑えないのでゴブリンに伝言したらさっさとこの大陸を出る。

まずは王都の北から西にかけて広がる魔獣の森、俺たちの故郷で王様に合わないといけない。
王様が最初に見るのが焔だと死ぬほど顔色が悪くなるから俺、雷、花子で焔を囲むように森に入るつもりだ。

「ゴロゴロ~ッ」
「猫じゃないんだから」
「フニャフニャです~」
「軟体動物じゃないんだから」

朝一で起きた雷がどいてくれても焔と花子が起きない。
顎の下をくすぐったら起きるかと思ったが、逆にゴロゴロされてしまった。早く起きろ。

全員が起床し支度を済ませるとホテルをチェックアウト、ギルドの近くの定食屋で朝食を済ませて王都を出る。
朝飯は豚ゴリラの生姜焼き定食、蠍肉の冷やしシャブシャブ定食、天の道を行き全てを司るサバの味噌煮定食、フナ虫の佃煮パイ。

何か妙なメニューしかない店だったが、それなりに繁盛しているようだった。
特に冒険者相手に。
何人かの冒険者が俺たち、というか嫁たちに声を掛けようとしていたが、殺気込めて睨んだらビクッと震えて席に戻っていった。俺たちに本当に用事があったのか騎士たちも数人混じっていたが、今は急いでいるから放置だ。

朝食を終えて満足した俺たちは森に向かうため王都を出る。
魔都と違って出る時に雷狼に襲われるような事態にはならず、門番の騎士たちに見送られて北門を出た。

数十分で森に着き作戦通り焔を囲む形で森に入ろうとしたんだ。
本当なんだ。ただ誰にも焔を止めるなんて不可能だったんだよ。

【焔様!? 焔様が居られる!?】

囲んで移動なんて不可能で、焔が俺に背中から抱き付き、その瞬間に俺たちの匂いを嗅ぎつけた王様が遭遇してしまった。
キングゴブリンは顔色最悪だ。周りのゴブリンたちは女神を恐れながら崇拝するように周りを飛び跳ねている。顔は引きつっている。

「王様、ちょっと伝言があるんだが、大丈夫か?」

【はい! 問題ありません!】
【凍様の伝言! 2日以内に森に広めないと!】
【焔様に殺されたくない! 死にたくない!】

ゴブリンは知能が高いわけじゃないので素直に思っていることが口に出る。
焔は俺の前で何を言うんだ的なことを怒ったが、俺たちで宥めたら大人しくなった。

こんな感じ。

「私そんなことしないもん!」
「落ち着け、焔」
「今更あなたが何しても驚かないわ」
「正直、殺すような展開になると思ってました」
「酷いっ!!」

【おおぉっ! 女神様っ、女神様が一杯!!】
【凍、嫁さんに恵まれてるな?】

ゴブリンたちは雷と花子に尊敬に眼差しを向け、素直に崇拝し始めている。
何故か王様は俺に疑問形。嫁には恵まれてるぞ、幼馴染に恵まれているかは微妙だが。

ともかく王様とゴブリンたちに雷狼と一部の昆虫たちが魔都の人間たちに操られていることを教えた。
黒いスライムみたいな何かが体内に入っていて、そいつは爪とかで切り裂かないと倒せないと伝えた。
憑りつかれた魔獣は気絶するくらいのダメージを与えれば解放されるけど、殺す気で行かないと危険だとも教えた。

【雷狼なんてどうしたら良いの!?】
【終わりだ! 俺たちは終わりだ!】
【何も雷狼に憑りつかなくても良いじゃない!!】

ゴブリンたちはこの世の終わりかのような絶望感に陥っている。
まあ仕方が無い、ともかく氷狼と炎狼、風龍に話が行くように頼んだ。そうすれば自分たちが助かる可能性が格段に上がると王様に教えてやると『ヒャッハアアアァァァッ』と叫んでゴブリンたちに指示を出して去って行った。
最後に俺たちに気を付けるように、教えてくれてありがとうと言ってたが。焔に怯えての対応だったのは見え見えだが。

森での用件は済んだからこのまま都に向かうことにした。徒歩でなら5日ほどだ。

「雷狼が追って来たら大変だし、ここは都の近くまでは魔獣の姿で走って時間を短縮しましょう」
「……凍の背中で……凍が背中を」
「焔、ここは交代制を要求します!」

どっちも何てこと考えてんだ。
しかし雷の意見も尤もなので最初は俺と雷が魔獣の姿で走り、俺の背中には花子、雷の背中に焔が乗った。
何故か焔が最初を譲ったのだ。背中に頬ずりしたり毛を舐めたりと、中々変態チックなことをしてくれた。

幻狼の足では急げば王都と都を2日で移動できる。
俺と雷で走り昼頃に昼食を兼て休憩することにした。

街道には良い具合に並んで食事ができそうな岩が並んでいる。
王都で買った何の肉か分からない干し肉を食うことにした。

花子は口の広い瓶に入った蜂蜜を買っていたのでそれを舐めている。ちょっと艶めかしい。
指で蜂蜜を掬い取って口に運ぶ。指の隙間から零れたネットリとした蜂蜜が花子の下唇、顎、首にかけて垂れた。
以前雷が来ていたファスナーの若干壊れた神父服、それに身を包んだ花子の首には粘りのある半透明の蜂蜜が垂れていて、ちょっと舐め取りたい……これが狙いか!?

「やっぱり蜂蜜は良いですね」
「……私も貰って良いっ?」

首を時間を掛けて下に垂れていく蜂蜜は、薄っすらと太陽の光を反射してキラキラと光っている。
俺が花子の蜂蜜に目を奪われていると焔が対抗心を燃やしたのか、花子に蜂蜜を貰う。瓶の中に右手の人差し指と中指を揃えて入れると蜂蜜を掬い取った。
指の隙間から垂れる蜂蜜を切ることもせずに食べようとした。
垂れる蜂蜜を少しでも多くでも食べるためか空を向いて蜂蜜を垂らしながら口に運ぶ姿は何か卑猥だ。
花子よりも卑猥に食べることを意識しているのか、俺に見せ付けるように蜂蜜を首や胸元に垂らしながら食べた。

色々と寂しい胸に垂れた蜂蜜をハンカチで拭くことにした。雷からハンカチを受け取る。花子は既に自分でハンカチを取り出して首や口の周りを吹いている。

「反応が薄いよぉ~」
「そんなことより服を汚すな。ほら、こっち向く」

子供のように『う~』と唸る焔の口の周りを拭いて顎から首に向けて拭き取る。

「くすぐったいっ」

子供が嫌がるような感じで唸っていたくせに顎を拭く時は猫みたいにゴロゴロニヤニヤしだした。
そして蜂蜜を拭こうと手を置いてから気付いたんだが、何で真昼間から解放的なお外で嫁の胸をハンカチで拭いているんだろうか? しかも焔は顔を赤くして息がハアハアと荒くなっている。

「まさか昼間から公開プレイだなんて、そんなに性欲を持て余していたのかしら?」
「お昼から、お外……凄く恥ずかしいですけど、凍君がしたいなら」
「いや、狙ってねえから、ウッカリだから」
「あっ、凍の指、もどかしいよっ」

何か馬鹿らしくなったので適当に蜂蜜を拭き取ると自分の食事を再開した。
焔は……顔を赤くして息も荒く椅子にしていた岩に手を置いて肩を上下させている。
拭く時に色々と楽しい気分になった自分に泣きたい。
圧倒的に足りないボリュームが逆に焔らしくて指先だけを小刻みに曲げて焔を刺激して楽しんでしまった。雷にも花子にも白い目で見られて余計に泣きたくなったのは秘密だ。

食事も終わり都に向けて移動を再開する。
今回は焔の上に俺、雷の上に花子で移動だ。
ジャンケンで引き続き走るのをどっちにするか決めた。雷は連続で走ることになってかなり不満気だ。
ちなみに次の番では焔の上に花子、俺の上に雷だと決まっている。毛を毟られないか不安だ。

走りながらもモゾモゾとした動きをする焔、何となく察したので頭を撫でてから背中の毛を少し強く引っ張ると満足そうに体を震わせた。何てマゾヒストな嫁だろうか。

……焔がMで、雷がSで、花子が隠れMって、このパーティーの属性は綺麗に分かれているな。

そんなこんなで移動2日目の朝に都に着いた。
ちなみに、雷は俺の上に乗っている時は毛をクルクルと束ねて引っ張ったり耳を血が出ないくらいに強く噛んだりしやがった。そして焔が同じことをして欲しいそうにするという悪循環。

……もう、魔獣の姿で移動しない。
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