ガーディストベルセルク

ぱとり乙人

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その生徒、都落ちにつき

心の拠り所③

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 置かれた巨大パフェを二人でつつきあいながら、周りからの痛い程の視線を気にしないように振る舞う。
 スプーンをアイスクリームの部分にやんわりと沈み込むように差し込み、掬い上げてそのまま口の中へ運ぶ。
 ミルクの濃厚な香り、そしてその後から押し寄せてくる強烈な甘み。先程のコーヒーの味も相まってより鋭く感じるような気がする。美味しいな、これ。
「んー……!美味しいね!」
「……だね。」
 パフェ自体の完成度はとてつもなく高かった。多分だけど、デコレーションされている果物も冷凍品とか缶詰だったりするのではなく、生の果物。それを綺麗に並べてある。
 味も申し分ない。……これ学生が払えるような金額なんだろうか?そう言えば金額を聞いていなかったな?
「ねぇ?そろそろ本題に入らない?」
「へ?本題?」
 ハート形に切り取られたキウイを半分だけ齧りながら聞き返す。はて、本題とな?
 ……はっ。
「え、えと……こういうのはやっぱり男からだよね?相場は決まってるもんね?」
「はい?何の事?」
 可愛い目を更に丸くしながら、きょとんとした表情で幸原さんは聞き返してきた。
「な、なな……何の事ってさ。そそそそその……コ、コココく……は……。」
「退学。さっき言ってたでしょ。」
 僕の言葉を遮り、彼女の言葉は名刀のそれに匹敵する鋭さで僕の悩みの種を斬り捌いた。
 その種の間から、どす黒い負のオーラ―端的に言えば不安や怒りや悲しみとかになるだろう。そういうもの全部ひっくるめて―が溢れ出してくる。
「……何かあったの?」
「い、いや。別に。」
 パフェに向けられるはずのスプーンの動きが止まる。甘さがくどくなって嫌になった訳ではない。
 今まででは考えた事も無かった非現実的なデートに浮かれすぎて、いざ現実を突きつけられた際のその落差に手が止まったのである。
「別に、か。そんな訳ないよね?だってガーディスト目指しているのに、入学して早々退学したいなんて言い出す訳ないもん。私知ってるよ?ガーディストになるって並大抵の事じゃないんでしょ?」
「……そう、だね。」
 彼女に僕の身の上話をするつもりはない。これ以上余計な気を遣わせるのは、僕の本意ではない。なんとかしてこの場を切り抜ける言い訳を考えなくては。
「……この間、傷を治してもらった時にね。ガーディストになるって一言も言っていないみたいなニュアンスの事言ってなかった?」
「う。」
 よく覚えてるし、結構地獄耳なのね。幸原さんって。今後余計な事を言わないように気を付けなきゃ。
「あ、あはは。なるって言っていないっていうのはそのー……あれだよ!『僕自身簡単になれるなんて思っていない』って意味合いで言ってるというかさ!」
 苦しい。苦し過ぎる。
「全然そんな風には聞こえなかったけど。」
 ほらね。すぐバレた。さて、次の言い訳を考えなくてはならない。
「……まぁ、いいや。何か事情があるのは今ので分かったし。この追及はまた今度にしてあげる。」
 ちょっとだけ冷めた目をしながらも微笑む彼女の表情を見て、僕の胸は重い鎖に締め付けられるように苦しくなった。
 やはり彼女だけには、本当の事を伝えなければならないのか。
「幸原さん……実はね。」
「でも、残念だなぁ。私のガーディストが退学しちゃうんなんてさ。」
「え?いや、その。……はい?ガーディスト?」
「そう、ガーディスト。」
 じぃっと真剣な表情で見つめてくる幸原さん。しかし、私のガーディストだって?この僕が?
「私のガーディストなんて大袈裟だよ。流石に過大評価し過ぎ。第一まだガーディストになっていないし。あの時は自分の事で手一杯だったんだよ?」
「それでも、私の命は間違いなく君が救ってくれた。」
「それも偶然さ。……本当の事を言うと、僕はその時は助けるつもりはなかったんだよ。実は、未だにこのガイストの加減すらまだ出来ていない状況でね?下手したら命を助けるどころか、助けようとしたこの手で、君の身体を握り潰していたかもしれなかったんだ。」
 今更ながらゾッとする。呑気に放課後デートなんて調子に乗っているこの状況自体奇跡としか言いようがないのだ。
「本当にたまたま。たまたま制御が上手く出来たから事なきを得た。ただそれだけ。実践自体も初めてで、腕を撃たれた時なんか君をどうやったら逃がす事が出来るかを考えるので精一杯だった。」
「……君さ。それだけ言っていてガーディストじゃないなんて、おかしいと思わない?」
「どうしてさ?僕はただ。」
「ならどうして君は、その時に自分だけで逃げなかったの?」
「え?そんな事出来る訳ないじゃん。だって君が。」
「ほら、私の事を考えてる。そこはどうすればこれ以上自分が傷つかずに済むかを考えるでしょ?」
「何をバカな。僕は母さんに言われて時間稼ぎするように命令されていたんだよ。カップラーメンが若干のびるくらいの時間をね。人の命が関わる命令だから仕方なくやっただけだよ。」
「……君って、もしかして案外お馬鹿さんなのかな?」
 呆れた顔を見せながら、彼女は軽く溜息をついた。流石の僕もムッとする。案外地頭はいい方なんだぞ?
「失礼な。こう見えてちょっとは出来る子なんだぞ?」
「そうだね。には出来る子なんだよね?」
 その言葉にハッとする。その顔を見て、彼女は失笑した。
「気付いた?君はあの時間違いなく、『誰かを助ける為に自らの命を犠牲にしてまで敵から守り抜く』。それを普通の人はガーディストって呼ぶと思うんだよ。」
「……それでも……。」
「言わせない。」
「え?」
 彼女の顔をもう一度見てみる。それを見て、少し背筋がゾッとした。その表情は、明らかに怒っている顔だったからだ。
「ここまで理解しておいて、ガーディストじゃないなんて絶対に言わせない。言わせてあげない。これ以上君が君を否定するなら、私は君を許さない。……だから、改めて言わせて?」
 すぅっと顔が綻び、彼女が僕の手を掴み、ぎゅうと握り締めた。
「助けてくれてありがとう。ガーディスト。」
「……!」
 ガーディストなんてものに興味なんてなかった。
 そもそもなれる訳ないと思っていたし、今のガイストを持っていたとしても何の経験も知識も無い僕にとってはまさに無謀であり、浅慮であると。
 何より自分の命に直結するような危険な仕事に就くなんてありえないと。誰よりも安全と保身を考えていたはずなのに。
「……既にあの時に、そういう行動をとっていたのか。」
「え?」
 力があったこその行動でもある。しかし彼女を守護まもる事が出来た。その事実が変わりない。だからこそ恐ろしい。力の有無で決まってしまうこの世の中で、この力と共存していけるのか?
「……もしも、僕がさ?」
「うん。」
「誰かの為にじゃなく、自分の為だけに力を奮う人間になってしまったら」
「私が命懸けで止めてあげる。」
「……!」
「そんな事絶対にありえないけど、もしそうなったらね?」
「……ガイスタードなのに?」
「うん。彼女だからね。」
 ……よし。決めた。
「退学はしないよ。もう少しだけ頑張ってみる。」
「よろしい!」
 パフェに目をやる。
 クリームがちょっとの間放置していたせいか溶けてテーブルにぽたぽたと落ちていた。
「……また食べに来る?」
 ビジュアル的に少し残念な形になってしまったパフェを見ながら、幸原さんに聞いてみた。
「そうだね。……次は無料で食べられるといいね?」
「ん?僕は今からでも出来るけど。」
「お。言うようになりましたな?」
 屈託のない笑い声が喫茶店に響き渡る。おや?よく見てみるとびっくり。
「……お客さんが僕達しかいなくなっている。」
「え……ありゃ。」
「他のお客様達は糖尿病になりかねないからという事でそそくさと帰られました。営業妨害です。罰としてここでキスしてください。」
 隣の席のテーブルの上を布巾で拭きながら、業務的な感じでウェイトレスが言ってきた。
「割引は有効ですか?」
「フンッ。見て分からねぇのか?バカップルのせいで商売あがったりなんだよ。キスした上で割り増し料金請求するに決まってんだろうが。」
 とんでもなく大きな舌打ちと悪態をつきながら無理難題言ってくる上にぼったくり宣言。
「……よくここは続いていますね。請求割り増しになるなら帰ります。」
「けっ。意気地なしが。」
 口悪すぎだろマジで。
「よーし。帰ろうか!」
 ガタッと元気よく立つ彼女。
 今日は本当に心から救われた気がする。退学するつもり満々だった僕を助けてくれた。
 僕にとってのガーディストは、君なのだろう。
 だから先程何をのか。
「あ、僕が払うからいいよ。」
「え、そんな!悪いよ!」
「いいからいいから!」
 伝票をさっと取り、レジへと向かう。
 そうさ。僕は世界や日本を救うガーディストになんてなるつもりはない。そこまでの器なんてないのは知っている。
 でも、彼女だけを守るだけなら……僕はなんとか頑張れるのかもしれない。
 いや、一番良いのは守るような事が起きないのがいいのだけれどね。普通なら何も起きないはずだよ、多分だけど。
 だからこの1年は、彼女の為だけに頑張ろうと思う。本当にそれだけだ。
 不純だと思っているだろう?悪いけどそれで結構だ。そもそもここにいる事自体不正行為なのだから、動機なんてものも不純で十分だろう。
 そして1年経過した時に全てを打ち明けよう。もしかしたら勘のいい彼女の事だ。もっと前に発覚するかもしれない。
 そこで終わるのであれば、それで諦めもつく。とにかくこの幸福を享受していたい。
 あぁ、人としては割と屑な方だろうな。僕は。
「え?いくらだって?」
「4,900円になります。」
「…………。」
「割り勘しようね、乱君。」
 沈黙しながら財布の中身を見つめる僕の肩を、彼女は優しく叩いてくれた。
 割と屑?とんだ屑だよ。
 僕の財布の中身、500円玉しか入っていなかったもの。
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