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その5 世紀の大作戦

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○○○

「よぉ……来てやったぜ」

 意外と似合ってるじゃねぇか。薫のドレス姿。馬子にも衣装って感じで。
 いや、むしろ俺が場違いか。一張羅のしわの入ったシャツだし。
 周りの使用人の方々ですらしっかりとした服着ているというのに。

「噂通りのお嬢様だったみたいだな」
「……何しに来たのよ、探偵」

 薫はやけに貧乏を強調してきやがった。残念ながら、俺にはゴールドカードがあるのだがね。
 
「こんなとこまで何の用? わざわざお金までかけて」
「戻ってきてほしい、って思ったからだよ」
「何よ……新しい大家さんは取り立てが厳しいのかしら?」

 う、図星だ。
 どうしてこういうところはカンがいいのでしょかね……?

「っそこは関係ないッての……その、あれだ。お前がお仕事を斡旋してくれた方が」
「ふざけないでよ……っ! さんざん人のことバカにしておいて、いなくなったらなったで戻ってきてほしい? 調子に乗るのも大概にしなさいよね」

 薫は化粧台の引き出しをいくつか開け、紙の束を取り出した。そしてそれに何やら書き込んで、メイドさんを経由して俺に渡してきた。

「それだけあれば、人生やり直せるでしょ?」

 ……小切手だ。金額は――それこそ人生をやり直せそうな額だ。
 くっそ、めっちゃくそ心が揺れるんですが。さりげなく懐に忍ばせたいが……。

 バカにしやがって。
 俺が金で動く人間に見えるか?
 金を渡されりゃ引き下がる人間に見えるってのか? 
 そう短い付き合いじゃあるまいし、わかってるよな?

「要らないね、こんなもの」

 それを目の前で引き裂いてやった。
 あー勿体ねぇ。意地張らずもらっときゃ良かった。

「また来るぜ」

 しかし、ここまでこじれるとは思ってなかった。
 どうしたもんか……。




 玄関の前には例のリムジンが止まっていたので乗せていただく。

「――僕の推理が正しければ、交渉は決裂しているはずだね」
「大当たり―すごいすごい」

 バカにしやがって。どいつもこいつも。
 
「残念だったね。ほら、帰りの航空券だ。観光してから帰りたまえ」
「はぁ……金持ちってのは、物をあげる趣味でもあるのか?」

 ムカついたのでそれもびりびりにして捨ててやった。
 ざまぁ見やがれ。

「……噂通りの人だね、君は。尊敬したくない先輩だよ」
「目上の人はもっと敬え、クソガキ」
「やれやれ……世の中には見習いたくない大人が多くて困る」

 あーやだやだ、こいつと一緒にいるだけで蕁麻疹が出そうだ。

「君は、なぜ薫さんが実家に戻ってきたのか知りたくないかい?」
「どーでもいい」
「僕のおばあさまが望んだのさ」

 結局言うんかい。

「半年ほど前、おばあさまは何者かに毒を盛られ、一時、生死の境をさまよった」
「へー」
「今は回復されたんだが、それでも危ない状態でね。明智家の跡取りを一刻も早く、とね」
「へー」
「つまり、君がいくら出しゃばった所で意味は無い、ということだよ」

 だから何だってんだ……俺はそんな話興味ないんだがね。

















 市街地で降ろしてもらったものの、行くところも特にないしな……。
 あ、そうだ。連絡取りやすくするためにスマホでも買うか。折角カードもらえたし、父さんも許してくれるだろう。
 と、ぶらついていたら、

「……なんで本当にいるわけ?」

 どこかで見かけたことのありそうな女性に声をかけられた。
 ん……? 誰だっけこの人?

「失礼ですが……どちらさま?」
「ああ、自己紹介はしてなかったわね。私は今村 梓、薫の元友達」

 ……うーん、出てきそうな、出てこなさそうな。

「覚えてない? この傷」

 と、彼女は手首の傷を見せてきた。
 ……あ、思い出した。あの事件か。

「思い出した……が、何で今ここにいるんだよ? 脱獄でもしたのか?」
「知らない。今日急に釈放されたの。出たらこれを渡せって」

 と、彼女からスマホを渡される。
 殺人罪は通常懲役5年以上が原則。初犯はもっと重くなるものだ。
 なのに、どうして……?

 ピリリリリッ!!

 急に電話がかかってきた。番号だけが表示されたから、未登録の物だ。

「……もしもし」
『おお! 梓ちゃんに出会えたか』
「これも予想通り、ってか?」
『見たろ、あいつら。本物を語る』
「ああ、どこぞの推理小説ですかって思ったよ」
『知りたくはないか? あいつらとの関係』
「ぜひとも教えていただきたいね」

 ぜひとも教えていただきたいね。
 偶然同姓なのか、それとも……何かあるなら。

『立ち話もあれだからホテルについたら電話する』

 あ、おい……。
 切られた。
 ってホテルに着いたらって……。

「――ちなみに、この後ホテルに行けって言われてるんだけど……見たら二人分の予約になっているのよね。これってつまり」
「一緒に行けってことだろうな」

 何で見ず知らずの人と一緒に宿泊しなくてはならないのか……。
 だが、この人もなんかしらの関わりがあるってことか。



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