放っておけない 〜とあるお人好しの恐怖体験〜

園村マリノ

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第2話 イワザワさん

07 プレイランド

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 長期戦を覚悟していた理世に救いの手が差し伸べられたのは、一階から二階へと移動した直後だった。

「おねえさん」

 エスカレーターから一番近い三〇〇円ショップの前に、坊主頭の少年が一人。

「マサル君……」

「あの子は一番上だよ」

 言いながら、マサルは理世の元へとやって来た。

「五階のレストラン街?」

「ううん、更にその上」

「って事は屋上の……あ、屋上遊園地プレイランド?」

 マサルは頷き、

「あの子が一番気に入ってる場所だから」

 理世が近付こうとすると、マサルの姿は薄れてゆき、完全に消えてしまった。

 ──あれ……一緒に来てはくれないのね……?

 五階までエスカレーターで上り、それからエレベーターで屋上へ。自販機やベンチのある休憩コーナーを進むと、あちこちペンキが禿げかけている正面のドアを開いた。

 ──わあ……!

 青空の下、小さな子供向けのキャラクターものの遊具やプライズマシーンが、敷地いっぱいに点在している。親子連れの姿がちらほら見受けられ、理世も小さい頃は度々親に連れられて来た事を思い出し、懐かしくなった。

 ──いつの間にか興味を失くして、来なくなっちゃったんだよね。

 汽車の遊具に乗ってはしゃぐ男児と、笑顔で見守る母親。バス型の遊具のハンドルを回す女児と、その様子を撮影する両親。温かく幸せそうな光景に目を細めていた理世だったが、本来の目的を思い出すと、歩きながら周囲をゆっくり見回した。

 ──!!

 少女は敷地奥の端の方で、年季の入った小さなメリーゴーラウンドの白馬の上に、横向きで座っていた。

「見付けた」

 少女は理世が近付いても逃げ出す素振りは見せなかったが、フイと顔を背け、視線を合わせようとしない。

「マサル君から聞いたよ、あなたがこのプレイランドが好きだって」

 少女の片眉が、ほんの僅かに動いた。

「わたしもね、小さい頃はよくここに来たの。このメリーゴーラウンドも覚えてる。怖がりだったから、遊園地の大きいやつには乗れなかったけど、これは好きだった」

 少女は小馬鹿にしたようにフンと笑い、

「今も怖がりでしょ」

「あんな事されたら、誰だって怖がるよ」

「怖がらない人間もいたよ」

「他の人にもやったの!?」

 急に辺りが暗くなってきた。見上げると、先程までとは打って変わり、分厚い雲が空一面を覆い尽くしていた。

「やだ、急に天気悪くなってきたわ」

「こりゃ、一雨来そうだな」

 大人たちが不安を口にしている。
 これもあなたの仕業なのかと、理世が少女に問おうとした時だった。

「雑賀理世さん、見付けました」

 もう耳にする事はないだろうと思っていたあの声が、すぐ後ろから聞こえた。振り向くと、まっ黒な偽のイワザワさんが両手を伸ばしてくるところだった。

「見付けました、雑賀理世さん」

「こら、いい加減にしなって」

 諭すような少年の声がすると、偽のイワザワさんは一瞬で消えた。

「あ……」

 遊具の近くで空を見上げている親子の間をすり抜け、マサルがやって来た。

「マサル君」

「もう充分遊んでもらったろ、サツキちゃん」

「サツキちゃんていうのね、あなた」

 少女はどちらにも答えなかった。

「ごめんね、おねえさん。サツキちゃんは寂しがり屋だから、おねえさんみたいに自分の姿が見える人がいると、ちょっかい出すんだ」

「ちょっかい……」

「サツキちゃん。ここのところ、遊びに来られなくてごめんよ。機嫌直しておくれよ」

 理世は祈るような気持ちでサツキの反応を窺った。
 
「……仕方ないから許してあげる」サツキはそっぽを向いたまま、ボソリと言った。

「うん、有難う」

 マサルはサツキに微笑みかけ、それから理世に振り返った。

「おねえさん、おいらはここでサツキちゃんと遊んでから帰るよ」

「そう」

 理世は内心安堵の溜め息を吐いた。とりあえず問題は解決したようだ──この不思議な少年のおかげで。

「来てくれて有難う、マサル君。助かったわ」

「おねえさんも有難う」

「じゃあ、わたしは帰るね。二人共、仲良くね」

「うん、じゃあね!」

 理世が小さく手を振ると、マサルも振り返した。サツキはチラリと理世を見たが、目が合うとまたそっぽを向いた。

「はれてきたー!」

 ドア付近まで来た時、近くにいた女児の嬉しそうな声につられて空を見上げると、分厚い雲が千切れてゆき、太陽が再び顔を覗かせるところだった。

 ──あ、そういえば。

 理世はマサルたちがいた方へと目をやったが、もう姿は見えなかった。

 ──あー……忘れず聞いておけば良かった。

 自分に取り憑いていると思われる幽霊は、一体何者で、どんな姿なのか。

 ──わかっているのは、怒ると怖い男の人って事くらい……かな。

 帰宅後、理世はスマホのメモにメッセージを入力した。

〝アドバイスくれて有難う〟

 返事が来る事はなかったが、きっと読んでくれただろうと理世は信じた。
 

 
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