13 / 44
第2話 イワザワさん
07 プレイランド
しおりを挟む
長期戦を覚悟していた理世に救いの手が差し伸べられたのは、一階から二階へと移動した直後だった。
「おねえさん」
エスカレーターから一番近い三〇〇円ショップの前に、坊主頭の少年が一人。
「マサル君……」
「あの子は一番上だよ」
言いながら、マサルは理世の元へとやって来た。
「五階のレストラン街?」
「ううん、更にその上」
「って事は屋上の……あ、屋上遊園地?」
マサルは頷き、
「あの子が一番気に入ってる場所だから」
理世が近付こうとすると、マサルの姿は薄れてゆき、完全に消えてしまった。
──あれ……一緒に来てはくれないのね……?
五階までエスカレーターで上り、それからエレベーターで屋上へ。自販機やベンチのある休憩コーナーを進むと、あちこちペンキが禿げかけている正面のドアを開いた。
──わあ……!
青空の下、小さな子供向けのキャラクターものの遊具やプライズマシーンが、敷地いっぱいに点在している。親子連れの姿がちらほら見受けられ、理世も小さい頃は度々親に連れられて来た事を思い出し、懐かしくなった。
──いつの間にか興味を失くして、来なくなっちゃったんだよね。
汽車の遊具に乗ってはしゃぐ男児と、笑顔で見守る母親。バス型の遊具のハンドルを回す女児と、その様子を撮影する両親。温かく幸せそうな光景に目を細めていた理世だったが、本来の目的を思い出すと、歩きながら周囲をゆっくり見回した。
──!!
少女は敷地奥の端の方で、年季の入った小さなメリーゴーラウンドの白馬の上に、横向きで座っていた。
「見付けた」
少女は理世が近付いても逃げ出す素振りは見せなかったが、フイと顔を背け、視線を合わせようとしない。
「マサル君から聞いたよ、あなたがこのプレイランドが好きだって」
少女の片眉が、ほんの僅かに動いた。
「わたしもね、小さい頃はよくここに来たの。このメリーゴーラウンドも覚えてる。怖がりだったから、遊園地の大きいやつには乗れなかったけど、これは好きだった」
少女は小馬鹿にしたようにフンと笑い、
「今も怖がりでしょ」
「あんな事されたら、誰だって怖がるよ」
「怖がらない人間もいたよ」
「他の人にもやったの!?」
急に辺りが暗くなってきた。見上げると、先程までとは打って変わり、分厚い雲が空一面を覆い尽くしていた。
「やだ、急に天気悪くなってきたわ」
「こりゃ、一雨来そうだな」
大人たちが不安を口にしている。
これもあなたの仕業なのかと、理世が少女に問おうとした時だった。
「雑賀理世さん、見付けました」
もう耳にする事はないだろうと思っていたあの声が、すぐ後ろから聞こえた。振り向くと、まっ黒な偽のイワザワさんが両手を伸ばしてくるところだった。
「見付けました、雑賀理世さん」
「こら、いい加減にしなって」
諭すような少年の声がすると、偽のイワザワさんは一瞬で消えた。
「あ……」
遊具の近くで空を見上げている親子の間をすり抜け、マサルがやって来た。
「マサル君」
「もう充分遊んでもらったろ、サツキちゃん」
「サツキちゃんていうのね、あなた」
少女はどちらにも答えなかった。
「ごめんね、おねえさん。サツキちゃんは寂しがり屋だから、おねえさんみたいに自分の姿が見える人がいると、ちょっかい出すんだ」
「ちょっかい……」
「サツキちゃん。ここのところ、遊びに来られなくてごめんよ。機嫌直しておくれよ」
理世は祈るような気持ちでサツキの反応を窺った。
「……仕方ないから許してあげる」サツキはそっぽを向いたまま、ボソリと言った。
「うん、有難う」
マサルはサツキに微笑みかけ、それから理世に振り返った。
「おねえさん、おいらはここでサツキちゃんと遊んでから帰るよ」
「そう」
理世は内心安堵の溜め息を吐いた。とりあえず問題は解決したようだ──この不思議な少年のおかげで。
「来てくれて有難う、マサル君。助かったわ」
「おねえさんも有難う」
「じゃあ、わたしは帰るね。二人共、仲良くね」
「うん、じゃあね!」
理世が小さく手を振ると、マサルも振り返した。サツキはチラリと理世を見たが、目が合うとまたそっぽを向いた。
「はれてきたー!」
ドア付近まで来た時、近くにいた女児の嬉しそうな声につられて空を見上げると、分厚い雲が千切れてゆき、太陽が再び顔を覗かせるところだった。
──あ、そういえば。
理世はマサルたちがいた方へと目をやったが、もう姿は見えなかった。
──あー……忘れず聞いておけば良かった。
自分に取り憑いていると思われる幽霊は、一体何者で、どんな姿なのか。
──わかっているのは、怒ると怖い男の人って事くらい……かな。
帰宅後、理世はスマホのメモにメッセージを入力した。
〝アドバイスくれて有難う〟
返事が来る事はなかったが、きっと読んでくれただろうと理世は信じた。
「おねえさん」
エスカレーターから一番近い三〇〇円ショップの前に、坊主頭の少年が一人。
「マサル君……」
「あの子は一番上だよ」
言いながら、マサルは理世の元へとやって来た。
「五階のレストラン街?」
「ううん、更にその上」
「って事は屋上の……あ、屋上遊園地?」
マサルは頷き、
「あの子が一番気に入ってる場所だから」
理世が近付こうとすると、マサルの姿は薄れてゆき、完全に消えてしまった。
──あれ……一緒に来てはくれないのね……?
五階までエスカレーターで上り、それからエレベーターで屋上へ。自販機やベンチのある休憩コーナーを進むと、あちこちペンキが禿げかけている正面のドアを開いた。
──わあ……!
青空の下、小さな子供向けのキャラクターものの遊具やプライズマシーンが、敷地いっぱいに点在している。親子連れの姿がちらほら見受けられ、理世も小さい頃は度々親に連れられて来た事を思い出し、懐かしくなった。
──いつの間にか興味を失くして、来なくなっちゃったんだよね。
汽車の遊具に乗ってはしゃぐ男児と、笑顔で見守る母親。バス型の遊具のハンドルを回す女児と、その様子を撮影する両親。温かく幸せそうな光景に目を細めていた理世だったが、本来の目的を思い出すと、歩きながら周囲をゆっくり見回した。
──!!
少女は敷地奥の端の方で、年季の入った小さなメリーゴーラウンドの白馬の上に、横向きで座っていた。
「見付けた」
少女は理世が近付いても逃げ出す素振りは見せなかったが、フイと顔を背け、視線を合わせようとしない。
「マサル君から聞いたよ、あなたがこのプレイランドが好きだって」
少女の片眉が、ほんの僅かに動いた。
「わたしもね、小さい頃はよくここに来たの。このメリーゴーラウンドも覚えてる。怖がりだったから、遊園地の大きいやつには乗れなかったけど、これは好きだった」
少女は小馬鹿にしたようにフンと笑い、
「今も怖がりでしょ」
「あんな事されたら、誰だって怖がるよ」
「怖がらない人間もいたよ」
「他の人にもやったの!?」
急に辺りが暗くなってきた。見上げると、先程までとは打って変わり、分厚い雲が空一面を覆い尽くしていた。
「やだ、急に天気悪くなってきたわ」
「こりゃ、一雨来そうだな」
大人たちが不安を口にしている。
これもあなたの仕業なのかと、理世が少女に問おうとした時だった。
「雑賀理世さん、見付けました」
もう耳にする事はないだろうと思っていたあの声が、すぐ後ろから聞こえた。振り向くと、まっ黒な偽のイワザワさんが両手を伸ばしてくるところだった。
「見付けました、雑賀理世さん」
「こら、いい加減にしなって」
諭すような少年の声がすると、偽のイワザワさんは一瞬で消えた。
「あ……」
遊具の近くで空を見上げている親子の間をすり抜け、マサルがやって来た。
「マサル君」
「もう充分遊んでもらったろ、サツキちゃん」
「サツキちゃんていうのね、あなた」
少女はどちらにも答えなかった。
「ごめんね、おねえさん。サツキちゃんは寂しがり屋だから、おねえさんみたいに自分の姿が見える人がいると、ちょっかい出すんだ」
「ちょっかい……」
「サツキちゃん。ここのところ、遊びに来られなくてごめんよ。機嫌直しておくれよ」
理世は祈るような気持ちでサツキの反応を窺った。
「……仕方ないから許してあげる」サツキはそっぽを向いたまま、ボソリと言った。
「うん、有難う」
マサルはサツキに微笑みかけ、それから理世に振り返った。
「おねえさん、おいらはここでサツキちゃんと遊んでから帰るよ」
「そう」
理世は内心安堵の溜め息を吐いた。とりあえず問題は解決したようだ──この不思議な少年のおかげで。
「来てくれて有難う、マサル君。助かったわ」
「おねえさんも有難う」
「じゃあ、わたしは帰るね。二人共、仲良くね」
「うん、じゃあね!」
理世が小さく手を振ると、マサルも振り返した。サツキはチラリと理世を見たが、目が合うとまたそっぽを向いた。
「はれてきたー!」
ドア付近まで来た時、近くにいた女児の嬉しそうな声につられて空を見上げると、分厚い雲が千切れてゆき、太陽が再び顔を覗かせるところだった。
──あ、そういえば。
理世はマサルたちがいた方へと目をやったが、もう姿は見えなかった。
──あー……忘れず聞いておけば良かった。
自分に取り憑いていると思われる幽霊は、一体何者で、どんな姿なのか。
──わかっているのは、怒ると怖い男の人って事くらい……かな。
帰宅後、理世はスマホのメモにメッセージを入力した。
〝アドバイスくれて有難う〟
返事が来る事はなかったが、きっと読んでくれただろうと理世は信じた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『☘ 好きだったのよ、あなた……』
設楽理沙
ライト文芸
2025.5.18 改稿しました。
嫌いで別れたわけではなかったふたり……。
数年後、夫だった宏は元妻をクライアントとの仕事を終えたあとで
見つけ、声をかける。
そして数年の時を越えて、その後を互いに語り合うふたり。
お互い幸せにやってるってことは『WinWin』でよかったわよね。
そう元妻の真帆は言うと、店から出て行った。
「真帆、それが……WinWinじゃないんだ」
真帆には届かない呟きを残して宏も店をあとにするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる