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第三章
#3-4-5 戦闘⑤
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バス停から二、三〇メートル走ると分かれ道に差し掛かった。右側の方が何やら騒々しかったので、茶織たちは迷う事なく男性二人に合流出来た。二人はこちらに背を向け、サムディの言った通り、大き過ぎる木製のデッサン人形二体と対峙していた。
「那由多さん!」
龍が叫ぶように呼ぶと、那由多は振り向いて安心したような笑顔を見せたが、疲れも覗かせていた。着流し姿の男性は振り向く事なく、青白い気の塊を手から発生させ、色の濃いデッサン人形に攻撃している。
二体のデッサン人形はどちらもあちこちにヒビが入っているが、倒れる様子はない。龍はもう一度那由多を呼ぶと駆け寄り、緋雨の羽根を錫杖に変えて構えた。
「サムディ、あんた上手くあの人形の気を引いて」
「えー、ワシが囮?」
「あら、それじゃあわたしにやれって?」茶織は釘バットを持った右手をゆっくり上げた。「か弱いわたしに?」
「頑張りまーす……」
アルバも龍の後に続いたので、茶織はサムディと共に着流しの男の方へ向かった。
「こんにちは~!」
サムディは色の濃いデッサン人形の周りを飛び回った。デッサン人形は捕まえようと躍起になったが、サムディは常にギリギリのところで逃れ、その度に妙な動きや笑い声で挑発した。
「何だあいつは……」
「あいつがバロン・サムディよ」茶織は、感心したような呆れたような表情を浮かべる着流しの男の横に並んだ。「あなたは……緋雨なの?」
「ああ……」緋雨は茶織を無遠慮にジロジロと見やり、釘バットに気付くと眉をひそめた。「何だその物騒な代物は。世紀末か」
デッサン人形がサムディを捕らえた。
「ヒョエエエ~ッ! サオリン、助けてくんろー!」
「もうちょっとそのまま我慢しててくれる? わたしまだ疲れてるの」
「悪魔! 鬼! イデデデデッ!」
デッサン人形は容赦なくサムディを締め上げる。
「冗談よ」茶織はうっすら笑うと釘バットを構え直し、走ってデッサン人形の後ろに回り込むと、右のふくらはぎ部分に釘バットをめり込ませた。
デッサン人形は体勢を崩し、よろめいた。
「まだ足りない?」
今度は左にもめり込ませ、更に何度か殴ると、デッサン人形はサムディを離した。
「あー痛かった!」サムディは隠れるように緋雨の後ろに移動した。
「茶織、どいていろ」緋雨はそう言うと、何かを唱え始めた。
茶織は言われた通りにし、少し離れた場所から龍たちの方を見やった。色の薄いデッサン人形は右腕をもぎ取られており、振り回した左腕は那由多の扇とアルバの槍で器用に受け止められ、龍が錫杖の先から飛ばした光の矢で頭を吹っ飛ばされていた。
視界の端に赤い炎が映ったので、茶織はハッとしてそちらに向き直った。色の濃いデッサン人形は炎に包まれ狂ったように暴れていたが、膝から崩れ落ちるとバラバラになり、やがてほとんどの破片が炎と共に消滅した。
「やれやれ……あまり力を使い過ぎたくはないのだがな……」緋雨は大きく息を吐いた。
「おやおや、寄る年波には勝てませんかねえ~! ヒョヒョヒョヒョ!」
緋雨は忌々しそうにサムディを睨み付け、
「貴様に言われたかないわ」
「おーい、無事?」
那由多の声に、緋雨は手を挙げ、サムディは両手をブンブンと振って応えた。アルバが先にやって来て、後から龍と那由多がゆっくり続いた。龍は那由多を気遣うような素振りを見せている。
「あらヒサメ、なかなか素敵よ」アルバが緋雨に微笑んだ。
「アルバ、ワシの活躍は見た!?」
「あらごめんなさい、こっちはこっちで大変だったから」
「何が活躍よ。大袈裟ね」茶織は冷笑した。
「ちょっとサオリ、ワシの華麗なる囮大作戦がなかったら倒せてなかったよ?」
「華麗といえば、カレーが食べたいな」那由多が腹に手を当てた。「お腹空いた」
「俺も空いてきました」龍は笑った。「しかし、ピエロは何処に?」
「ワシらはあっちから来た」サムディが分かれ道の左側を指差した。「ナユタとヒサメは?」
「向こうからだよ」那由多は分かれ道とは異なる方向を指差した。「建物の中にいたみたいなんだけど、ドアから出たら消えちゃって行き止まり」
「んじゃ、残るあっちしかないね」サムディは今度は分かれ道の右側を指した。「では早速参りましょーう!」
呑気にスキップしながら進むやかましい精霊の後に続き、那由多と緋雨が歩き出した。
「元気だなあ。緋雨、体力大丈夫?」
「ふん、我を見くびるなよ。お前こそ左脚を痛めただろう」
「あれ、わかった? ちょっと足首捻っただけだから」
「眼鏡は傷付いていないだろうな」
「うん、大丈夫そうだよ」
ややあってから、龍とアルバも並んで歩き出した。
「何でデッサン人形だったんだ? まあ人間の霊よりいいけどさ」
「さあ……。そういえばリュウ、この間持って帰ってきた水彩画、上手だったわよ。美術も得意よね」
「まあ、そこそこな。でも自由に描けなかったからつまらなかったよ。……あれ、どうしました道脇さん」
茶織は腕を組んで立ち止まったままだ。
「何でもないわ」茶織は素っ気なく答えると、先に行くように手で軽く払うような仕草をした。
「何でもないと言う割には、顔が険しかったわね」
アルバが囁くと、龍は苦笑した。
龍とアルバが掲示板の前に差し掛かる頃には、茶織も諦めて歩き出していた。
──もう少し休ませなさいよね!
茶織は、後でサムディに八つ当たりしてやろうと決めた。
「那由多さん!」
龍が叫ぶように呼ぶと、那由多は振り向いて安心したような笑顔を見せたが、疲れも覗かせていた。着流し姿の男性は振り向く事なく、青白い気の塊を手から発生させ、色の濃いデッサン人形に攻撃している。
二体のデッサン人形はどちらもあちこちにヒビが入っているが、倒れる様子はない。龍はもう一度那由多を呼ぶと駆け寄り、緋雨の羽根を錫杖に変えて構えた。
「サムディ、あんた上手くあの人形の気を引いて」
「えー、ワシが囮?」
「あら、それじゃあわたしにやれって?」茶織は釘バットを持った右手をゆっくり上げた。「か弱いわたしに?」
「頑張りまーす……」
アルバも龍の後に続いたので、茶織はサムディと共に着流しの男の方へ向かった。
「こんにちは~!」
サムディは色の濃いデッサン人形の周りを飛び回った。デッサン人形は捕まえようと躍起になったが、サムディは常にギリギリのところで逃れ、その度に妙な動きや笑い声で挑発した。
「何だあいつは……」
「あいつがバロン・サムディよ」茶織は、感心したような呆れたような表情を浮かべる着流しの男の横に並んだ。「あなたは……緋雨なの?」
「ああ……」緋雨は茶織を無遠慮にジロジロと見やり、釘バットに気付くと眉をひそめた。「何だその物騒な代物は。世紀末か」
デッサン人形がサムディを捕らえた。
「ヒョエエエ~ッ! サオリン、助けてくんろー!」
「もうちょっとそのまま我慢しててくれる? わたしまだ疲れてるの」
「悪魔! 鬼! イデデデデッ!」
デッサン人形は容赦なくサムディを締め上げる。
「冗談よ」茶織はうっすら笑うと釘バットを構え直し、走ってデッサン人形の後ろに回り込むと、右のふくらはぎ部分に釘バットをめり込ませた。
デッサン人形は体勢を崩し、よろめいた。
「まだ足りない?」
今度は左にもめり込ませ、更に何度か殴ると、デッサン人形はサムディを離した。
「あー痛かった!」サムディは隠れるように緋雨の後ろに移動した。
「茶織、どいていろ」緋雨はそう言うと、何かを唱え始めた。
茶織は言われた通りにし、少し離れた場所から龍たちの方を見やった。色の薄いデッサン人形は右腕をもぎ取られており、振り回した左腕は那由多の扇とアルバの槍で器用に受け止められ、龍が錫杖の先から飛ばした光の矢で頭を吹っ飛ばされていた。
視界の端に赤い炎が映ったので、茶織はハッとしてそちらに向き直った。色の濃いデッサン人形は炎に包まれ狂ったように暴れていたが、膝から崩れ落ちるとバラバラになり、やがてほとんどの破片が炎と共に消滅した。
「やれやれ……あまり力を使い過ぎたくはないのだがな……」緋雨は大きく息を吐いた。
「おやおや、寄る年波には勝てませんかねえ~! ヒョヒョヒョヒョ!」
緋雨は忌々しそうにサムディを睨み付け、
「貴様に言われたかないわ」
「おーい、無事?」
那由多の声に、緋雨は手を挙げ、サムディは両手をブンブンと振って応えた。アルバが先にやって来て、後から龍と那由多がゆっくり続いた。龍は那由多を気遣うような素振りを見せている。
「あらヒサメ、なかなか素敵よ」アルバが緋雨に微笑んだ。
「アルバ、ワシの活躍は見た!?」
「あらごめんなさい、こっちはこっちで大変だったから」
「何が活躍よ。大袈裟ね」茶織は冷笑した。
「ちょっとサオリ、ワシの華麗なる囮大作戦がなかったら倒せてなかったよ?」
「華麗といえば、カレーが食べたいな」那由多が腹に手を当てた。「お腹空いた」
「俺も空いてきました」龍は笑った。「しかし、ピエロは何処に?」
「ワシらはあっちから来た」サムディが分かれ道の左側を指差した。「ナユタとヒサメは?」
「向こうからだよ」那由多は分かれ道とは異なる方向を指差した。「建物の中にいたみたいなんだけど、ドアから出たら消えちゃって行き止まり」
「んじゃ、残るあっちしかないね」サムディは今度は分かれ道の右側を指した。「では早速参りましょーう!」
呑気にスキップしながら進むやかましい精霊の後に続き、那由多と緋雨が歩き出した。
「元気だなあ。緋雨、体力大丈夫?」
「ふん、我を見くびるなよ。お前こそ左脚を痛めただろう」
「あれ、わかった? ちょっと足首捻っただけだから」
「眼鏡は傷付いていないだろうな」
「うん、大丈夫そうだよ」
ややあってから、龍とアルバも並んで歩き出した。
「何でデッサン人形だったんだ? まあ人間の霊よりいいけどさ」
「さあ……。そういえばリュウ、この間持って帰ってきた水彩画、上手だったわよ。美術も得意よね」
「まあ、そこそこな。でも自由に描けなかったからつまらなかったよ。……あれ、どうしました道脇さん」
茶織は腕を組んで立ち止まったままだ。
「何でもないわ」茶織は素っ気なく答えると、先に行くように手で軽く払うような仕草をした。
「何でもないと言う割には、顔が険しかったわね」
アルバが囁くと、龍は苦笑した。
龍とアルバが掲示板の前に差し掛かる頃には、茶織も諦めて歩き出していた。
──もう少し休ませなさいよね!
茶織は、後でサムディに八つ当たりしてやろうと決めた。
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