キャンディは銀の弾丸と飛ぶ

園村マリノ

文字の大きさ
15 / 46
第一章 驚異の少女(ガール・ワンダー)誕生?

#14 呼ばれた理由

しおりを挟む
 夕食後、千穂実は一人、シルバーブレットのいる離れへと戻った。
 外はもうすっかり暗く、空気が冷たい。てっきり里沙も付いて来るものとばかり思っていたが、シルバーブレットが千穂実と一対一で話したがっているのだという。

 ──緊張するなあ……。

「お待たせしましたー……」

 窓際に立っているシルバーブレットに手振りだけで促され、千穂実は先程と同じ座椅子に腰を下ろした。

「あのー、座らないんですか?」

「ああ」

 ──まさか、さっきからずーっとあのままじゃないよね……?

「私が君を呼んだ理由はわかるか?」

「えっ?」

 シルバーブレットの鋭い視線に、千穂実の緊張感は更に増した。

 ──仮面外してくれないかなあ……でもそんな簡単に素顔を見せるわけないか……。

「えっと……正直、よくわかりません」千穂実は素直に答えた。「考えられるとしたら、以前助けていただいた事かな、と。本当に助かりました。有難うございます」

「気にしなくていい。それよりも……」

 続くシルバーブレットの言葉は、容赦なく千穂実に突き刺さった。

「ヒーローごっこは金輪際やめるんだ」


「大丈夫かなあ……」食器の後片付けを手伝いながら、里沙はぼやいた。

「大丈夫よ、別にシルバーブレットだって、千穂実ちゃんを取って喰おうとしているわけじゃないんだし」明菜はのんびり答えた。

「まあ、あの通り無愛想だし、思った事ははっきり言う質だけどな」隆は苦笑しながら言った。

「あたしが心配しているのは、チホミンよりシルバーブレットなんだよね」

「え、それはどうして」

「だってチホミン、結構頑固で、一度言い出したら聞かないところがあるもん。そう簡単に諦めるとは思えないんだよね……」


「あー……えーっと……」千穂実は嫌な汗が背中をゆっくり伝ってゆくのを感じながら、やっと答えた。「ご、ご存知だったんですね……」

「里沙から報告されていた。止めるのも聞かず、君が深夜に活動を始めるようだと」

「うう……」

 シルバーブレットは千穂実の正面まで来ると、懐からある物を取り出し、ローテーブルの上に置いた。

「あ……!」

 それは、駒鳥神社で対峙した猫背の男が所持していた折り畳みナイフだった。

「ど、どうしてあなたがそれを!?」

「後を尾けていた」

「あーそういう事で──っえ!?」千穂実は目を見開いた。「え……あ、あの、いつから?」

「君が自宅を出た後だ」

「ほとんど最初から!?」

 ──という事は……。

 家族や近隣住民に気付かれないよう、リビングの掃き出し窓からおっかなびっくり慎重に家を抜け出した場面も、しっかり見られていた事になる。

 ──は、恥ずかしいんだけど!!

「護身術が使えるのだな」 

「は、はい! あの日助けて貰ってから習い始めたんです。後はネットで動画を見ながら練習中の技もあります」千穂実は自然と頬が緩むのを感じた。「ナイフ持った相手だから凄く緊張しましたけど、上手くいって──」

「運が良かっただけだ」

 千穂実の表情は中途半端なまま固まった。

「一歩間違えば、怪我では済まなかったかもしれない。わかっているのか」

「……それは……いやでも! だったら、止めてくれても良かったじゃないですか」

「不要と判断した」

「……それって、わたしの戦いっぷりが立派だったから?」

 シルバーブレットは氷のように冷たい眼差しで千穂実を一瞥すると、何も言わず窓際に戻った。

 しばらく沈黙が続く。

「あ……あの!」耐え切れずに千穂実は切り出した。「あの神社に来た二人組、誰かに雇われてあなたを狙っているみたいでした」

「知っている」

「そ、そうですか……」

 再び沈黙が続きかけたが、同じく千穂実が破った。

「あの、わたし、疑問に思っている事があるんです。わたしだけじゃなくて、他にも気付いている人間はいますけど……」

 シルバーブレットが現れてから、浜波市や舞翔市では、大小問わず様々な犯罪が急増している。ほとんどの事件の被疑者は捕まっており、その一部はシルバーブレットが貢献しているが、未だに犯罪数が減少する兆しはない。

「浜波は県庁所在地って事もあって、K県で一番、人口も観光客も多いです。舞翔だって、年々人口が減少してきているとはいえ、まだ他所と比べると多い方。だから元々犯罪自体は少なくなかったとは思うんですけど、それにしても最近は異常です。
 それで、これはわたしの推測なんですけど……各犯罪の実行犯はこの世界の人間だとしても、実はその裏で、あなたの世界からやって来た、残る二人のヴィランが糸を引いているって事は考えられないでしょうか」

「今度は探偵ごっこか」

 ──……はあ!?

「いや、その、ふと思い付いたっていうかー……ただのド素人の勝手な推測なんで! 流石に考え過ぎですよねーあはは!」

 千穂実は何とか平静を装ってはいたが、内心ショックを受け、そしてそれ以上にかなり頭にきていた。

 ──さっきから冷た過ぎやしない!?

 しかし、よくよく思い返してみれば、初対面時も温かみなんて感じなかったではないか。あの時は状況が状況だったからあまり気に留めなかったが、里沙の話からしても、恐らくこの男は元々そういう性格なのだ。

 ──憧れる相手、間違えたかな……。

 千穂実の中のシルバーブレットに対するポジティブな感情が、少しずつではあるが揺らぎ始めていた。

「一部は当たりだ」

「……えー、一部っていうのは……?」

「まず私が追う残り二人のヴィランについて、簡単に説明する」

「お願いしまーす……」千穂実は小さく頭を下げた。

「一人は〝ニムロッド〟。ただのコソ泥だったが、近年徐々に過激な犯罪を行うようになり、人殺しも厭わなくなった男だ」

 ニムロッドには魔法や特殊能力こそないが、筋肉質で運動能力が高く手先も器用、また声帯模写を得意としている。背丈はあまり高くなく、褐色肌に黒い短髪で、左頬にそれなりに目立つ傷があるという。

「この男を舐めていたあるヒーローは、油断して半殺しにされた挙句、生きたまま肉食獣の餌にされた」

「……具体的な犯罪内容まで説明どうも」千穂実は引きつった笑顔を浮かべた。「厄介そうですね」

「真に厄介なのはもう一人の方だ」シルバーブレットの低い声が更に低くなった。「浜波や舞翔での犯罪件数増加は、ほぼ間違いなく奴の仕業だ」

 シルバーブレットの表情は窺い知れず、声からも感情は読み取れない。しかしこの時千穂実は、シルバーブレットが〝奴〟とやらを酷く憎んでいるのではないかと、特に理由はないにも関わらず、そう直感した。

「もう一人のヴィラン──〝奴〟の名前は、〝シャドウウォーカー〟」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~

厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
「英雄なんて、もう二度とごめんだ」 ダンジョン出現から10年。 攻略が『配信』という娯楽に形を変えた現代。 かつて日本を救った伝説の英雄は、ある事情から表舞台を去り、ダンジョン攻略支援用AI『アリス』の開発に没頭する裏方へと転身していた。 ダンジョンも、配信も、そして英雄と呼ばれることも。 すべてを忌み嫌う彼は、裏方に徹してその生涯を終える……はずだった。 アリスの試験運用中に遭遇した、迷惑系配信者の暴挙。 少女を救うために放った一撃が、あろうことか世界中にライブ配信されてしまう。 その結果―― 「――ダンジョン嫌いニキ、強すぎるだろ!!」 意図せず爆増するファン、殺到するスポンサー。 静寂を望む願いをよそに、世界は彼を再び『英雄』の座へと引きずり戻していく。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...