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第二章 ライバルと放火魔と
#22 盗み聴き
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一一月一一日、六時二〇分。
「夜中の消防車のサイレン聞こえた? 結構うるさかったんだけど」
「あー……何か夢の中で聞こえたけど、現実だったんだー……?」
リビングに来るなり母に尋ねられた千穂実は、半分寝ぼけたまま答えた。
「また放火だとよ。それもここから近い」
一足先に朝食を取り終え、コーヒーで一服している千穂実の父が、リモコンでテレビを指した。
千穂実は一気に目を覚ますと自分の椅子に座り、男性キャスターが淡々と報じるニュースに聞き入った。
放火があったのは午前三時頃、神崎家から比較的近い、三葉四丁目の廃墟。幸いにも死傷者は出なかったが、廃墟を焼き尽くした炎は、数メートル離れた隣家に危うく燃え移るところだったらしい。
──前回より南だ……曜日も関係ないし。
近隣住民が撮影したという、暗闇の中燃え盛る廃墟の映像が映し出される。
──実は法則性なんて関係なかったりして。
「これで何件目? もういい加減捕まってくれないと困るわよね……」
キャベツの千切りと唐揚げの乗った皿をテーブルに並べながら、母は呆れ果てたように愚痴った。
「警察もそうだけど、あの仮面のヒーローはどうしているのかしらね。最近あんまり聞かないけど、もうやめちゃったのかしらね」
「彼は彼で忙しいんだよ、別件があるから」
千穂実が思わず強い口調で反論すると、母は目をパチクリさせた。
「あ、いや……何となくそう思っただけ」
「ところで千穂実、顔は洗ったの?」
八時二九分、扇高校。
千穂実が昇降口で靴を履き替えていると、普段は千穂実よりも早く登校する里沙が、今日は珍しく後からやって来た。
「ねえ、〝彼〟は放火魔は探してないの?」
教室まで向かう途中、千穂実は里沙に尋ねた。
「ううん、それはないと思うよ。でもメインは、シャドウウォーカーとニムロッドを探し出す事だからね。その過程で遭遇した事件に対処したら、有名人になっちゃったわけだけど」
「わたしとしては、先に放火魔とっちめたいんだよね……次は死人が出そうで何か怖いんだ」
階段に差し掛かると、詩音が友人らと喋りながら下りて来るところだった。
「先輩たちもう聞きました? 沢田先生、とりあえず謹慎処分になったそうですよ」
「まあ、そうだよね。て事は、代わりの先生は廣岡先生かな」
廣岡は三年生と一年生の一部クラスを担当している中年の女性教師だ。千穂実や里沙はまだ一度も教わった事はないが、沢田よりは明るい雰囲気で人気があるのは知っていた。
詩音たちが去ってゆくと、千穂実たちが来た方向から礼人が現れた。
「あーらレイトン君おはよう」
「ん」礼人は顎で階段を指した。「早く進めよ」
里沙は一瞬ムッとしたようだったが、すぐに悪魔めいた笑みを浮かべてみせた。
「ああーっ、何か体が重ーい! ゆーっくり上ろーっと! ね、チホミン!」
「はあ? 何言ってんだ、さっきまで普通に歩いてただろ。ほら早く上れって」
「ヤダ、あたしの事ずっと見てたわけ? サイレントスケベ! チホミン早く行こっ!」里沙はドスドスと足音を立てて階段を上り始めた。
「後ろ歩いてただけだ! サイレントって何だサイレントって!」ぶつくさ言いながら礼人も後に続いた。
「スケベはいいんだ……?」残された千穂実は静かに突っ込むと、ゆっくりと二人の後を追った。
放課後。
「里沙、今日は美術部出る?」
「うーん、どうしよっかなー……」
「その口振りだと、帰りたいって気持ちの方が強いでしょ」
「あ、わかった? ねえ、浜波駅で何か食べてかない? クレープとかアイスとか」
「賛成!」
千穂実と里沙が教室を出ると、礼人が壁にもたれ掛かるようにして立っていた。里沙は完全無視し、千穂実は軽く挨拶して通り過ぎようとしたが、「なあ」と引き留められた。
「あんたら、放火魔探してんの?」
千穂実と里沙はハッとして身を強張らせた。
「えっと……何で?」
「朝、そんな話してたろ。協力者もいるみたいな口振りだったよな。あんたらの後ろ歩いている時に聞こえたんだが」
──ヤバ……。
言い訳の内容が思い付かず、千穂実は内心焦った。ところが里沙は全く意に介する様子を見せず、「あらあら」と言いながら礼人の前に進み出た。
「まぁ~た盗み聴き? しょうがないわね~! そんなにあたしとチホミンに興味があるとはね!」
「はあ?」
「色々と知りたいんでしょ。まずは何から? 身長? 趣味? 好きな食べ物?」
「いや、俺の質問に──」
「あ、好みのタイプ? それはまだ教えられないなあ、もっといっぱい仲良しポイント貯めてからでないと! ちなみに今のレイトン君の所持ポイントはマイナス五億だから──」
「おい神崎、こいつを止めてくれ」
「そろそろ勘弁してあげて。クレープが待ってるよ」
千穂実は里沙の制服の袖を軽く引っ張った。
「あ、そうだった。あたしたちこれからデートなの。じゃあね~!」
「あ、おい──」
千穂実と里沙は一目散に走り出した。
「ごめん里沙、ちょっと油断してたかも」
「勝手に聞いてたあいつが悪いんだよ! まあでも、今度からお互い気を付けよう」
二人の姿が見えなくなると、礼人は溜め息を吐き、
「盗み聞きならあんたもしてただろ……」
「夜中の消防車のサイレン聞こえた? 結構うるさかったんだけど」
「あー……何か夢の中で聞こえたけど、現実だったんだー……?」
リビングに来るなり母に尋ねられた千穂実は、半分寝ぼけたまま答えた。
「また放火だとよ。それもここから近い」
一足先に朝食を取り終え、コーヒーで一服している千穂実の父が、リモコンでテレビを指した。
千穂実は一気に目を覚ますと自分の椅子に座り、男性キャスターが淡々と報じるニュースに聞き入った。
放火があったのは午前三時頃、神崎家から比較的近い、三葉四丁目の廃墟。幸いにも死傷者は出なかったが、廃墟を焼き尽くした炎は、数メートル離れた隣家に危うく燃え移るところだったらしい。
──前回より南だ……曜日も関係ないし。
近隣住民が撮影したという、暗闇の中燃え盛る廃墟の映像が映し出される。
──実は法則性なんて関係なかったりして。
「これで何件目? もういい加減捕まってくれないと困るわよね……」
キャベツの千切りと唐揚げの乗った皿をテーブルに並べながら、母は呆れ果てたように愚痴った。
「警察もそうだけど、あの仮面のヒーローはどうしているのかしらね。最近あんまり聞かないけど、もうやめちゃったのかしらね」
「彼は彼で忙しいんだよ、別件があるから」
千穂実が思わず強い口調で反論すると、母は目をパチクリさせた。
「あ、いや……何となくそう思っただけ」
「ところで千穂実、顔は洗ったの?」
八時二九分、扇高校。
千穂実が昇降口で靴を履き替えていると、普段は千穂実よりも早く登校する里沙が、今日は珍しく後からやって来た。
「ねえ、〝彼〟は放火魔は探してないの?」
教室まで向かう途中、千穂実は里沙に尋ねた。
「ううん、それはないと思うよ。でもメインは、シャドウウォーカーとニムロッドを探し出す事だからね。その過程で遭遇した事件に対処したら、有名人になっちゃったわけだけど」
「わたしとしては、先に放火魔とっちめたいんだよね……次は死人が出そうで何か怖いんだ」
階段に差し掛かると、詩音が友人らと喋りながら下りて来るところだった。
「先輩たちもう聞きました? 沢田先生、とりあえず謹慎処分になったそうですよ」
「まあ、そうだよね。て事は、代わりの先生は廣岡先生かな」
廣岡は三年生と一年生の一部クラスを担当している中年の女性教師だ。千穂実や里沙はまだ一度も教わった事はないが、沢田よりは明るい雰囲気で人気があるのは知っていた。
詩音たちが去ってゆくと、千穂実たちが来た方向から礼人が現れた。
「あーらレイトン君おはよう」
「ん」礼人は顎で階段を指した。「早く進めよ」
里沙は一瞬ムッとしたようだったが、すぐに悪魔めいた笑みを浮かべてみせた。
「ああーっ、何か体が重ーい! ゆーっくり上ろーっと! ね、チホミン!」
「はあ? 何言ってんだ、さっきまで普通に歩いてただろ。ほら早く上れって」
「ヤダ、あたしの事ずっと見てたわけ? サイレントスケベ! チホミン早く行こっ!」里沙はドスドスと足音を立てて階段を上り始めた。
「後ろ歩いてただけだ! サイレントって何だサイレントって!」ぶつくさ言いながら礼人も後に続いた。
「スケベはいいんだ……?」残された千穂実は静かに突っ込むと、ゆっくりと二人の後を追った。
放課後。
「里沙、今日は美術部出る?」
「うーん、どうしよっかなー……」
「その口振りだと、帰りたいって気持ちの方が強いでしょ」
「あ、わかった? ねえ、浜波駅で何か食べてかない? クレープとかアイスとか」
「賛成!」
千穂実と里沙が教室を出ると、礼人が壁にもたれ掛かるようにして立っていた。里沙は完全無視し、千穂実は軽く挨拶して通り過ぎようとしたが、「なあ」と引き留められた。
「あんたら、放火魔探してんの?」
千穂実と里沙はハッとして身を強張らせた。
「えっと……何で?」
「朝、そんな話してたろ。協力者もいるみたいな口振りだったよな。あんたらの後ろ歩いている時に聞こえたんだが」
──ヤバ……。
言い訳の内容が思い付かず、千穂実は内心焦った。ところが里沙は全く意に介する様子を見せず、「あらあら」と言いながら礼人の前に進み出た。
「まぁ~た盗み聴き? しょうがないわね~! そんなにあたしとチホミンに興味があるとはね!」
「はあ?」
「色々と知りたいんでしょ。まずは何から? 身長? 趣味? 好きな食べ物?」
「いや、俺の質問に──」
「あ、好みのタイプ? それはまだ教えられないなあ、もっといっぱい仲良しポイント貯めてからでないと! ちなみに今のレイトン君の所持ポイントはマイナス五億だから──」
「おい神崎、こいつを止めてくれ」
「そろそろ勘弁してあげて。クレープが待ってるよ」
千穂実は里沙の制服の袖を軽く引っ張った。
「あ、そうだった。あたしたちこれからデートなの。じゃあね~!」
「あ、おい──」
千穂実と里沙は一目散に走り出した。
「ごめん里沙、ちょっと油断してたかも」
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