「防人少女MDGF」

しろっコ

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第六話<混乱の予感>

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「でも明日になったら……お別れ?」

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「防人少女MDGF」
 第六話<混乱の予感>
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 夕虹ちゃんは通信を受けながら何度か頷いている。それをまとめると

1)自分は無事であること。
2)そして安全なところに匿(かくま)われていること。

 ……などを報告しているようだった。

そして彼女は無線に応えた。
「迎え……出来るのっ!?」

その台詞を聞いた私は血の気が引く思いがした。

(やっぱり、そうなるか……)
ちょっと残念な気持が芽生えた。

そんな私の気配を察したのだろうか? 夕虹ちゃんは、こちらをチラチラと心配そうに見ながら通信を続けている。
「……うん、わかったっ! はいっ、準備しますっ」

そこで通信は終わった。
「……」

「……」
一瞬、お互いに気拙い雰囲気。

やがて夕虹ちゃんが言う。
「アケミン、よく聞いて」

「え? アケミン」
私が不思議そうな顔をすると彼女は笑った。

「アケミのこと報告したら急に大殿さんが『アケミン』によろしくって……これは大殿さんがアケミのことを直ぐに信頼してくれた証っ! だからアケミン」
そういいつつ夕虹ちゃんは私の手を取る。

「あ、そうなんだ」
だが、それは喜んで良いことなのだろうか?

私の思いには構わず彼女は続ける。
「今から24時間以内に私を救出する作戦を立てるって! けど成功率は低いかも……今、敵も攻めて来たりするから私だけにGFを回せないって」

(つい、失敗すれば良いのに……って思ってしまう)

「……でも『日暮(ひぐらし)』とか私のことを『絶対に助けてほしいっ』て言うから何とかするって」

『日暮』と聞いて私はゲームキャラ思い出した。
「あぁ、あのクセのあるGFも?」

私の言葉に夕虹ちゃんは頷きながら続ける。
「今夜は、もう寝て良いって。明日の夕方までに何かの方法でこっちの世界に道を作るっ……でも、うまくいかないかもって」

「そう」
私は半分、上の空で聞いていた。

(いつまでも一緒には居られない)
それは分かるけど……私の心のどこかで拒否反応が起きている。

(なぜだろうか?) 

「ホントは、二つの世界は行き来しちゃだめっ! ……って大殿さんがそう言ってた」
下を見ながらポツポツという夕虹ちゃん。

「やっぱり」
何となく私はそれも感じていた。

顔を上げた夕虹ちゃんは見る見るうちに涙をためる。
「私も……アケミンと別れたくないよっ。だけど分かる? 許されないことが起きているんだって」

私は枕を抱きしめながら必死に涙をこらえた。

そんな私に夕虹ちゃんは近寄って肩に手を置いた。
「明日。アケミンの両親に話して……その時を待つっ!」

「うん」
私は枕に半分顔をうずめて応える。

「……」
夕虹ちゃんは少し黙っていた。

それから私に顔を寄せて言った。
「ねえアケミン」

「……」
(夕虹ちゃんは良い香りがする)

「一緒の布団で寝ても良い?」
「……」
私は小さく頷いた。

すると夕虹ちゃんは躊躇(らめら)うこと無くスッとベッドで寝ている私の布団の横に滑り込んできた。
その動作が妙に慣れているので私は突然、可笑しくなって来た。

すると彼女も笑いながら言う。
「基地でもホントは禁止されているんだけどっ、よくGF同士で布団に潜りっこして一緒に寝ているんだぁ」

可笑しくなった。
「うふふ」

「あはは」
私たちは本当の姉妹のように一緒になって抱き合った。

「夕虹ちゃん、やっpり良い匂いがする」
「有り難う……でも普通の、お風呂って久しぶりだったからっ」
そうか。軍隊のお風呂はちょっと違うよな。

「あっちでは、なかなか落ち着いて風呂に入れないんだ」
彼女はチョット寂しそうに呟いた。

でも直ぐに話題を変える。
「このままずっと一緒にいられたら良いのに」

「そうだね」
「うん、うん」
夕虹ちゃんの同意する言葉。それは私にとっても嬉しい言葉だった。

「でも明日になったら……お別れ?」
「嫌だ」
「うん」
「ねぇアケミン」
「なぁに?」
ちょっと思い詰めたような口調だ。

「私がこっちに来たって事はサ、逆も出来るってことだよね?」
「うーん、多分……」
その質問の意味が一瞬、分からなかった。

「一回さ、アケミンが私たちの世界に来たら良いのに」
「えぇ?」
意外な提案だった。いや、そんなこと全然想像もしてなかった。

「面白いかも知れないけど無理だよ」
「アハ……だよね」
夕虹ちゃんはクスクスっと笑った。

私には、その笑いが、なぜか気になった。

そして……急に睡魔に包まれた私は、そのまま寝入っていた。


 翌朝、いつもより少し早く目覚めた私は、もう夕虹ちゃんがいないことに気付いた。

慌てて階下に降りた私は弁当を作っている母親に聞いた。
「夕虹ちゃんは?」
「……あ、早くから用事があるからって……出て行ったよ」

するとリビングで新聞を広げていた父が言う。
「今日、向こうの世界からお迎えが来るらしいな。私たちにも有り難うって頭下げて出て行ったぞ」

「そう」
私は元気なく朝ごはんを食べると学校へ向かった。

 その日の授業は一日、ボーッとしていた。でも、それもいつもと変わらないかも。

取り敢えず部活は休むことにして放課後、直ぐに家に向かった。

「アケミ!」
後ろからミサトの声がした。

「あ? ミサト?」

彼女は走り寄ってきて言った。
「夕虹ちゃんは?」

私は彼女の何かを悟った表情を見て頷いた。
「今日、お迎えが来るんだって」

「あ……そうか。やっぱり」
ミサトも少し、うな垂れた。

「それよか、あんた部活は?」
私が聞くと彼女は苦笑いした。

「だって気になるじゃん。 そう、ホラ? 部室に隠したはずの夕虹ちゃんの煙突」
彼女は思い出したように言った。

「どうかしたの?」
私が聞くと彼女は眼を丸くしてわざとらしく言う。

「無いんだよ……消えたの」
「え?」
「だからだよ……私もこりゃ何かあったと思ってさ。だから腹痛と頭痛で休部した。だって頭痛いのはマジだから」

「あはは」
いや彼女の頭の痛いのは分かる。私も今、同じ気持ちだ。

「ねえ、念のためにアケミの家に寄っても良い?」
「うん」
私たちは小走りに家へ向かう。

「ただいま」
「お帰り」
「こんにちは!」
「あら……」
ミサトのことは母もよく知っている。そして……今日、なぜミサトがうちに来たのかも、母は直ぐ理解した。

「アケミ……大変だよ」
「どうしたの?」
靴を脱ぐ私たちに母は、ただならぬ表情で言った。

「とにかく2階へ……」
私とミサとはお互いに頷き合うと鞄を置いて慌てたように2階へ急いだ。

そして自分の部屋の扉を開けた瞬間……私たちは信じられない光景に自分たちの目を疑った。
「夕虹……ちゃん?」

「あ?」
「あ」
夕虹ちゃんと同時に言葉を発した、もう一人のGFが居た……私たちはそれが誰であるか直ぐに分かった。

「日暮……ちゃん?」
私は言いながら彼女を見た。

「無念……」
悔しそうに呟く彼女。

……え? いったい何が起きたの?

ゲームでは沈着冷静なはずの日暮ちゃんの表情は暗かった。

ところが逆に夕虹ちゃんはニコニコしているのだ……これはもしかして?

「そうっ!」
ニコニコした夕虹ちゃんは力こぶを作る真似をする。
気のせいか、彼女の髪の毛が少しネコ耳のように立っている。

ミサトが私の背中を小突く。
「そうか、結果はこう出たアケミ! 要は救出作戦は失敗。夕虹を回収しようとした日暮ちゃん、無残にも、こっちの世界に取り残されてました……ってところかな?」

ミサトの軽妙な解説に硬い表情で頷く日暮……

「不覚だった」

すると夕虹ちゃんは唇を噛んでいる日暮ちゃんに言った。
「ねぇねぇ日暮ちゃん紹介するっ。この人がカオリン……テートクだよ」

「テートク……そうか。失礼した、ボクが日暮だ」
それでも、きちんと私に敬礼をした彼女。

「え? あ……」
私は反射的に敬礼をした。

でも私の周りが、さらに混沌しそうな予感がして、頭の中が混乱してきた。

「お腹、空いた」
急に安心したのか日暮ちゃが言った。

その言葉に、ふっと安堵した私だった。





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