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一章 ステータスを手に入れた
Ⅲ 古代の叡智館
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あの後、結局服の代金は無料ということになり、後日また店へと向かうこととなった。
水織に聞いてみればあの洋服店、結構な人気店らしい。新規店ながら、支店も十を超えるという。
若い層からの人気もあるらしい。
一先ず俺たちは、適当な喫茶店に入り、昼食を取ることにした。
「じゃあ、あたしおすすめサンドイッチで。飲み物はハーブティー」
「俺はふわふわオムライスとアイスコーヒーで」
適当に注文を頼んみ、来るのを待っていると出し抜けに水織が話し出した。
「でもクロ兄、本当に変わったよね~」
「俺でも驚いてるよ」
「いや、驚いてるようには全然見えないんだけど……」
まあ、そうなった理由は分かってるから。
そんな事は間違っても口に出したりはしないが。気味悪がられるのが精々だろう。目下、これ以上問題を増やしたくはない。
それにしても、本当にあの回廊は何なのだろう。確か、頭に響いた声は〈古代の叡智館〉といっていたっけ。
古代の――と付くからには、何か古いモノが詰まっているのだろうが、叡智館とは何だろう。図書館みたいなものか?
見当違いな予想をしている気がしなくもない。だが、あの場所には未だ謎が多い。今日帰ったら、少し探索をしよう。
俺はそう決意した。
やがて、昼食が届き、優雅なランチタイムを満喫する。
その後は水織の買い物に少しだけ付き合わされ、帰宅したのは午後二時程度。
「はぁー、疲れた」
「お疲れさん、俺は用事があるから出かけてくるよ。夕飯までには戻る」
「どこ行くの?」
「ちょっとそこまで」
適当にそういって、俺は昨夜用意していた物を担ぐと家を出る。
幸いにして人に会うことはなく、森へと辿り着いた。記憶を手繰り寄せながら、扉への道を辿る。
さして迷うことなく、扉へと到着した。
扉の中は以前と変わらず虚無のまま。僅かな勇気を振り絞り、中へ入ればやはり、例の回廊へと繋がっていた。
剣道の竹刀を片手に、俺はライトで奥の道を照らしながら先へと進んだ。
「あ、そうだ。地図書いとかないと」
俺はそういってポーチの中からノートを取り出そうとした。だが、それは新たなウィンドウによって阻まれる。
「これって……MAPか?」
視界に新たに表示されたのは、この場の地図が平面上に浮かび上がっているモノだ。
どちらかといえば、ゲームのMAPに近いといったほうが分かりやすいだろう。
自分を示す光点が青く光り、踏破した道のりが完璧に記されている。
これがあれば、地図を書かなくとも迷う不安はないだろう。俺はそう判断すると、ノートを仕舞い探索を再開した。
本当に、ゲームのような設定が多くて驚きが追いつかない。
まさか、ゲームでお馴染みのモンスターが出てくるのではなかろうなと、予想してみたりもした。
その度に、竹刀を握る手に力が入る。
やがて、最初の別れ道が見えてくる。右か左かだ。俺はどちらへ進もうか悩んでいると、奥からひたひたと、裸足でこの回廊を歩く音が聞こえてきた。
近くの影に身を隠してみる。
MAPを確認すれば、赤い光点が妖しく光っていた。
「まさか……」
一抹の不安を抱えつつ、その方向を確認してみた。
そこには、怪物がいた。
緑色の肌に小さな体躯、容姿は歪み体のバランスも歪そのもの。腰には申し訳程度のボロ布を身に纏い、手には錆びた小さなナイフが握られている。
ゴブリン、咄嗟に俺の頭にその単語が浮かんだ。
あまりの光景に、言葉を失う。
咄嗟に身を引こうと、足を地面に擦った。その僅かな音でも、この無音の回廊には響き渡る。
「グギィ?」
異様な声を発しながら振り返るゴブリン、その瞬間俺と目があった。
「グギャァア!!」
「やべっ!」
ゴブリンはこちらへ気が付くと、盛大に喚き散らし手に持つナイフを振り回しながらこちらへと駆け出した。
俺は慌てて逃げようと身を翻す。しかし、思考に体が付いていかず盛大に転けた。
「いっ……たくない?」
結構な勢いで転んだというのに、全く痛くなかった。擦り傷の一つも出来ていない。
俺が不思議がっていると、その間に距離を詰めてきていたゴブリンが、俺目掛けてナイフを振り下ろした。
「うおッ」
慌てて避けようと身を捻ったが、よくよく観察すればゴブリンの動きは酷く緩慢だった。
いや、そう視えているという方が正しい。
動体視力が良くなっているのか、相手の細部の動きまで観察することができる。また、それに合わせて脳の処理速度も上昇しているようだ。
情報をきちんと理解しきれている。
ゴブリンの振り下ろすナイフの先を予想し、最低限の動きで躱す。すると、ゴブリンは俺の想像通りに動いてくれた。
突き刺さると確信し、ナイフに体重を載せきっていたのか、返ってくるはずの抵抗が無かったゴブリンは堪らずたたらを踏む。
今だ。そう考えるより先に体が動いていた。ゴブリンの脛へ向け、竹刀を思いっきりぶち当てる。
「ギィギャアアアア!!」
ゴブリンは喚きながら脛を抑えて蹲った。
咄嗟に俺は身を起こし、体制を整えた。ゴブリンはこちらを睨みつけつつ、ナイフを構える。
あ、これ殺れる。直感で俺はそう感じた。
相手は明らかに俺よりも弱い。だが、殺意を向けられている事実は変わらない。
ならば、こちらも殺る気で行かねば拙いだろう。万が一、ということもある。逃げる、という選択肢もあるにはある。
だがそれでは、いつまで経ってもこの先へは進めないだろう。
ステータスという世の理を逸脱した存在に、俺はもう関わってしまっている。何の為に、これにより関わろうとする?
弱い自分を変える力を得るためだろ!
ならば、覚悟を決めろ。それに、最後まで関わるという覚悟を。この相手を、殺す覚悟を。
一度そう思えば、すっとその事実を飲み込めてしまえた。頭が一気に冷やされ、冷静になっていく。
相手の動きを一瞬たりとも逃すまいと、目を見開き、つぶさに行動を観察する。
ゴブリンが動き出した。腰辺りにナイフを構え、突進を行う。
俺は慌てず、ギリギリまで引きつけてから身を翻して回避する。そして横から、ゴブリンの首目掛け竹刀を叩き込んだ。
「グギィ!!」
苦しそうな声を上げる。そこに、俺は無情にも追い打ちを掛けた。足を払い、うつ伏せに倒れ込むゴブリンを踏んで押さえ付ける。
竹刀を頭や首へ、何度も何度も突きを放つ。
突く度に呻き声が溢れるが、それに躊躇うことなく俺は竹刀を力強く突いた。ゴブリンの口からは、血が幾度となく吐き出される。
やがて、骨が折れるような手応えと共に、ゴブリンはピクリとも動かなくなる。
[“ゴブリン”の討伐を確認]
[報酬が支給されます]
[てってれーん!]
[レベルアップしました!]
[SPが5付与されます]
そうアナウンスが聞こえると同時に、足の下にあったゴブリンの死体は回廊の地面に引き摺り込まれるように消えていった。
代わりに、古びた装飾の宝箱が地面からせり上がって来る。少々ボロくて、簡素な作りの宝箱だ。
「何だこれ……?」
この宝箱が所謂、先程頭の中で流れたアナウンスの報酬と呼ばれるモノだろうか? というか、レベルが上がったって何だ?
新しく増えた情報に、疑問が思考を埋め尽くす。
しかし、その中に先程ゴブリンを殺したことへの罪悪感、忌避感などは無かった。
覚悟を決めた故か、それとも俺は元から死を気にしないほど狂っているのか。
今思えば、両親が死んだときも直ぐに受け入れていたと思う。
悲しくなかったわけではない。ただ、居なくなってしまったという虚無感が強く残っただけだ。
涙を流すことはなかった。けれど、流石に命を刈り取ったことに何も抱かないというのは少々おかしな話だ。
ステータスを得てから、精神面でも少し変わったという自覚はある。
だが、それはある意味さしたる問題ではないのだろう。
恐らく、俺は元からこういう人間だったのだ。どこか自分の事を客観的に考えてしまう。自分自身のことだとは知っていても、他人のように錯覚する。
きっと俺は人として不完全なのだ。だから、少しくらい変質したところで、それはやはりさしたる問題にはなり得ない。結局は俺は、俺なんだから。
それはそうと、この宝箱を一体どうしたものか。少しばかりの思案の後、俺は一先ず蓋に手を置き、慎重に開けてみた。
すると、中には一冊の本と金色のコインが一枚入っていた。
「格闘スキル?」
本の表紙に書かれていた文字を、俺は読み上げた。内容が気になり、手に取って本を開いた。
――パシュッ!
[スキル【格闘】を獲得しました]
本を開くと同時に、炭酸のペットボトルを開けた時のような音が漏れる。その瞬間、光の泡が俺の体を包んだ。
不思議と嫌な感じはしない。
それもものの数秒で消えた。手には【格闘】スキルの本が残されている。
「……何だったんだ?」
手を閉じたり開いたりとしてみるが、違和感はない。
手元の本に目を落としてみれば、その理由が分かった。
「なるほど、格闘スキルのアーツか……」
その中には、まるでゲームの説明書のように格闘スキルのアーツがぎっしりと書かれている。
アーツとは、謂わば特定の技のようなモノだろう。
その説明も、事細かに詳しく書かれていた。
俺は先程のアナウンスが気になり、一応ステータスを開いてみた。
――
名前:藍葉玄斗
職業:なし
称号:
レベル:2
HP:200/200
MP:200/200
筋力:16 防御:13
体力:16 敏捷:21
知力:26 器用:16
容姿:36 幸運:26
SP:35
スキル
格闘00.0%
特殊能力
視認模倣
――
そこには、確かにスキル欄に【格闘】の文字が刻まれていた。ついでに言えば、ステータスも少々全体的に上昇している。
これはレベルが上がった影響だろう。
だがそれ以前に、この【格闘】スキルを手に入れる事ができたのが大きい。
名前やアーツの説明からして、無手で戦うことに関したスキルであることは確かだろう。
この本の説明を信じるのなら、無手による格闘戦闘において補正が掛かるとのこと。
それにしても、この回廊はどうやら、モンスターらしき敵が出てくるらしい。そしてそれを倒せば俺のレベルは上がり、ステータスも幾つか上昇する。
それに今回のように報酬が支給されるようだ。
一気にゲームらしさが上がった。俺のとっては、万々歳の結果だが。
このステータスを使えば、もっと強さを手に入れることも可能だろう。
俺はいつの間にか、口角が釣り上がっていた。
ならばもっともっとモンスターを殺すまでだ。より強力な力が欲しい。
今後の予定を組み立てながら、俺は笑みをやめることはできなかった。
水織に聞いてみればあの洋服店、結構な人気店らしい。新規店ながら、支店も十を超えるという。
若い層からの人気もあるらしい。
一先ず俺たちは、適当な喫茶店に入り、昼食を取ることにした。
「じゃあ、あたしおすすめサンドイッチで。飲み物はハーブティー」
「俺はふわふわオムライスとアイスコーヒーで」
適当に注文を頼んみ、来るのを待っていると出し抜けに水織が話し出した。
「でもクロ兄、本当に変わったよね~」
「俺でも驚いてるよ」
「いや、驚いてるようには全然見えないんだけど……」
まあ、そうなった理由は分かってるから。
そんな事は間違っても口に出したりはしないが。気味悪がられるのが精々だろう。目下、これ以上問題を増やしたくはない。
それにしても、本当にあの回廊は何なのだろう。確か、頭に響いた声は〈古代の叡智館〉といっていたっけ。
古代の――と付くからには、何か古いモノが詰まっているのだろうが、叡智館とは何だろう。図書館みたいなものか?
見当違いな予想をしている気がしなくもない。だが、あの場所には未だ謎が多い。今日帰ったら、少し探索をしよう。
俺はそう決意した。
やがて、昼食が届き、優雅なランチタイムを満喫する。
その後は水織の買い物に少しだけ付き合わされ、帰宅したのは午後二時程度。
「はぁー、疲れた」
「お疲れさん、俺は用事があるから出かけてくるよ。夕飯までには戻る」
「どこ行くの?」
「ちょっとそこまで」
適当にそういって、俺は昨夜用意していた物を担ぐと家を出る。
幸いにして人に会うことはなく、森へと辿り着いた。記憶を手繰り寄せながら、扉への道を辿る。
さして迷うことなく、扉へと到着した。
扉の中は以前と変わらず虚無のまま。僅かな勇気を振り絞り、中へ入ればやはり、例の回廊へと繋がっていた。
剣道の竹刀を片手に、俺はライトで奥の道を照らしながら先へと進んだ。
「あ、そうだ。地図書いとかないと」
俺はそういってポーチの中からノートを取り出そうとした。だが、それは新たなウィンドウによって阻まれる。
「これって……MAPか?」
視界に新たに表示されたのは、この場の地図が平面上に浮かび上がっているモノだ。
どちらかといえば、ゲームのMAPに近いといったほうが分かりやすいだろう。
自分を示す光点が青く光り、踏破した道のりが完璧に記されている。
これがあれば、地図を書かなくとも迷う不安はないだろう。俺はそう判断すると、ノートを仕舞い探索を再開した。
本当に、ゲームのような設定が多くて驚きが追いつかない。
まさか、ゲームでお馴染みのモンスターが出てくるのではなかろうなと、予想してみたりもした。
その度に、竹刀を握る手に力が入る。
やがて、最初の別れ道が見えてくる。右か左かだ。俺はどちらへ進もうか悩んでいると、奥からひたひたと、裸足でこの回廊を歩く音が聞こえてきた。
近くの影に身を隠してみる。
MAPを確認すれば、赤い光点が妖しく光っていた。
「まさか……」
一抹の不安を抱えつつ、その方向を確認してみた。
そこには、怪物がいた。
緑色の肌に小さな体躯、容姿は歪み体のバランスも歪そのもの。腰には申し訳程度のボロ布を身に纏い、手には錆びた小さなナイフが握られている。
ゴブリン、咄嗟に俺の頭にその単語が浮かんだ。
あまりの光景に、言葉を失う。
咄嗟に身を引こうと、足を地面に擦った。その僅かな音でも、この無音の回廊には響き渡る。
「グギィ?」
異様な声を発しながら振り返るゴブリン、その瞬間俺と目があった。
「グギャァア!!」
「やべっ!」
ゴブリンはこちらへ気が付くと、盛大に喚き散らし手に持つナイフを振り回しながらこちらへと駆け出した。
俺は慌てて逃げようと身を翻す。しかし、思考に体が付いていかず盛大に転けた。
「いっ……たくない?」
結構な勢いで転んだというのに、全く痛くなかった。擦り傷の一つも出来ていない。
俺が不思議がっていると、その間に距離を詰めてきていたゴブリンが、俺目掛けてナイフを振り下ろした。
「うおッ」
慌てて避けようと身を捻ったが、よくよく観察すればゴブリンの動きは酷く緩慢だった。
いや、そう視えているという方が正しい。
動体視力が良くなっているのか、相手の細部の動きまで観察することができる。また、それに合わせて脳の処理速度も上昇しているようだ。
情報をきちんと理解しきれている。
ゴブリンの振り下ろすナイフの先を予想し、最低限の動きで躱す。すると、ゴブリンは俺の想像通りに動いてくれた。
突き刺さると確信し、ナイフに体重を載せきっていたのか、返ってくるはずの抵抗が無かったゴブリンは堪らずたたらを踏む。
今だ。そう考えるより先に体が動いていた。ゴブリンの脛へ向け、竹刀を思いっきりぶち当てる。
「ギィギャアアアア!!」
ゴブリンは喚きながら脛を抑えて蹲った。
咄嗟に俺は身を起こし、体制を整えた。ゴブリンはこちらを睨みつけつつ、ナイフを構える。
あ、これ殺れる。直感で俺はそう感じた。
相手は明らかに俺よりも弱い。だが、殺意を向けられている事実は変わらない。
ならば、こちらも殺る気で行かねば拙いだろう。万が一、ということもある。逃げる、という選択肢もあるにはある。
だがそれでは、いつまで経ってもこの先へは進めないだろう。
ステータスという世の理を逸脱した存在に、俺はもう関わってしまっている。何の為に、これにより関わろうとする?
弱い自分を変える力を得るためだろ!
ならば、覚悟を決めろ。それに、最後まで関わるという覚悟を。この相手を、殺す覚悟を。
一度そう思えば、すっとその事実を飲み込めてしまえた。頭が一気に冷やされ、冷静になっていく。
相手の動きを一瞬たりとも逃すまいと、目を見開き、つぶさに行動を観察する。
ゴブリンが動き出した。腰辺りにナイフを構え、突進を行う。
俺は慌てず、ギリギリまで引きつけてから身を翻して回避する。そして横から、ゴブリンの首目掛け竹刀を叩き込んだ。
「グギィ!!」
苦しそうな声を上げる。そこに、俺は無情にも追い打ちを掛けた。足を払い、うつ伏せに倒れ込むゴブリンを踏んで押さえ付ける。
竹刀を頭や首へ、何度も何度も突きを放つ。
突く度に呻き声が溢れるが、それに躊躇うことなく俺は竹刀を力強く突いた。ゴブリンの口からは、血が幾度となく吐き出される。
やがて、骨が折れるような手応えと共に、ゴブリンはピクリとも動かなくなる。
[“ゴブリン”の討伐を確認]
[報酬が支給されます]
[てってれーん!]
[レベルアップしました!]
[SPが5付与されます]
そうアナウンスが聞こえると同時に、足の下にあったゴブリンの死体は回廊の地面に引き摺り込まれるように消えていった。
代わりに、古びた装飾の宝箱が地面からせり上がって来る。少々ボロくて、簡素な作りの宝箱だ。
「何だこれ……?」
この宝箱が所謂、先程頭の中で流れたアナウンスの報酬と呼ばれるモノだろうか? というか、レベルが上がったって何だ?
新しく増えた情報に、疑問が思考を埋め尽くす。
しかし、その中に先程ゴブリンを殺したことへの罪悪感、忌避感などは無かった。
覚悟を決めた故か、それとも俺は元から死を気にしないほど狂っているのか。
今思えば、両親が死んだときも直ぐに受け入れていたと思う。
悲しくなかったわけではない。ただ、居なくなってしまったという虚無感が強く残っただけだ。
涙を流すことはなかった。けれど、流石に命を刈り取ったことに何も抱かないというのは少々おかしな話だ。
ステータスを得てから、精神面でも少し変わったという自覚はある。
だが、それはある意味さしたる問題ではないのだろう。
恐らく、俺は元からこういう人間だったのだ。どこか自分の事を客観的に考えてしまう。自分自身のことだとは知っていても、他人のように錯覚する。
きっと俺は人として不完全なのだ。だから、少しくらい変質したところで、それはやはりさしたる問題にはなり得ない。結局は俺は、俺なんだから。
それはそうと、この宝箱を一体どうしたものか。少しばかりの思案の後、俺は一先ず蓋に手を置き、慎重に開けてみた。
すると、中には一冊の本と金色のコインが一枚入っていた。
「格闘スキル?」
本の表紙に書かれていた文字を、俺は読み上げた。内容が気になり、手に取って本を開いた。
――パシュッ!
[スキル【格闘】を獲得しました]
本を開くと同時に、炭酸のペットボトルを開けた時のような音が漏れる。その瞬間、光の泡が俺の体を包んだ。
不思議と嫌な感じはしない。
それもものの数秒で消えた。手には【格闘】スキルの本が残されている。
「……何だったんだ?」
手を閉じたり開いたりとしてみるが、違和感はない。
手元の本に目を落としてみれば、その理由が分かった。
「なるほど、格闘スキルのアーツか……」
その中には、まるでゲームの説明書のように格闘スキルのアーツがぎっしりと書かれている。
アーツとは、謂わば特定の技のようなモノだろう。
その説明も、事細かに詳しく書かれていた。
俺は先程のアナウンスが気になり、一応ステータスを開いてみた。
――
名前:藍葉玄斗
職業:なし
称号:
レベル:2
HP:200/200
MP:200/200
筋力:16 防御:13
体力:16 敏捷:21
知力:26 器用:16
容姿:36 幸運:26
SP:35
スキル
格闘00.0%
特殊能力
視認模倣
――
そこには、確かにスキル欄に【格闘】の文字が刻まれていた。ついでに言えば、ステータスも少々全体的に上昇している。
これはレベルが上がった影響だろう。
だがそれ以前に、この【格闘】スキルを手に入れる事ができたのが大きい。
名前やアーツの説明からして、無手で戦うことに関したスキルであることは確かだろう。
この本の説明を信じるのなら、無手による格闘戦闘において補正が掛かるとのこと。
それにしても、この回廊はどうやら、モンスターらしき敵が出てくるらしい。そしてそれを倒せば俺のレベルは上がり、ステータスも幾つか上昇する。
それに今回のように報酬が支給されるようだ。
一気にゲームらしさが上がった。俺のとっては、万々歳の結果だが。
このステータスを使えば、もっと強さを手に入れることも可能だろう。
俺はいつの間にか、口角が釣り上がっていた。
ならばもっともっとモンスターを殺すまでだ。より強力な力が欲しい。
今後の予定を組み立てながら、俺は笑みをやめることはできなかった。
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