どうやら転生したようで、今生では悪役令嬢辞めて自由に暮らしたいので婚約解消をしてください~空いた席にはカップを置いてはいけない~(ホラー編)

綾月百花   

文字の大きさ
19 / 36
第二章

7   長老


 アウローラの一家はロタシオン王国の辺境にある寂れた場所に、一族で村を作っていた。魔術を使う一族というだけで、差別をされ、近隣の村から恐れられていた。何も悪いことをしていないのに、疎ましく思われるのは、気分の良くないことだ。

 晴天からの突然の嵐になった日、数人の騎士が訪ねてきた。

 雨宿りをさせて欲しいと言われ、長老は快く騎士たちを屋敷に招いた。

 暖炉のある部屋を騎士たちに貸し渡し、食事を振る舞った。質素な食事だが、騎士たちは感謝し、暖かい暖炉の部屋を借りて申し訳ないと、家の者に感謝した。

 アウローラはまだ5歳だった。

 質素な洋服を着ているアウローラの姿を見た騎士は、城に戻ったらドレスを贈ろうと約束した。

 三日三晩続いた嵐が止んだ日、騎士たちはアウローラの家から出ていった。泥濘んだ道に気をつけながら馬に乗って帰って行った。


 遣いが来たのは、1週間後だった。

 一着のドレスと大量の金貨が贈られ、ザクリナーニネ子爵と名乗るがいいと名を授かった。

 泊まっていたのは、この国の国王陛下とその側近だったらしい。

 長老はありがたいと、国王陛下にこの国と国王陛下の繁栄を願った。長老はアウローラの祖母で、一族の中で魔力は一番強かった。その次に魔力の強いのはアウローラだった。


 アウローラは贈られたドレスを見て、喜んだ。

 柔らかいシフォンでできた膝丈のドレスは若草色で、緑に囲まれたこの屋敷に合っていると思ったが、アウローラはピンクや赤のドレスを着たかった。喜んだが、少し不満も残った。靴はもともと持っているボロの靴では、せっかくのドレスも似合わない。

 両親は町に出て、新しい靴を購入してくれたが、成長期のアウローラはすぐにドレスは着られなくなり、新品同様のドレスは、村の子へと渡っていった。

 貧しい村で、食べるものも自給自足。足りない物は町で薬や薪を売って、そのお金で買っていた。また迷子になった王子様が来ればいいのに、とアウローラは思うようになっていた。

 アウローラは12歳の時、チャンスがやって来た。

 また大雨に足止めされた王子と側近が村にやって来た。

 長老は快く雨宿りを許し、暖炉のある部屋を王子と側近に差し出した。

 王子を見た時、その美しい顔立ちと凜々しい姿に、アウローラは、一目惚れをした。

 いつか、この王子の妃になりたいと思った。この国を乗っ取りたい。裕福な暮らしをしたい。欲望は止めどなく溢れてくる。

 アウローラは、食事にもお茶にも眠り草の粉末や茶葉を使った。

 食後にアウローラは二人にお茶を淹れた。

 眠り草という薬草は、睡眠薬と言われるほど、よく眠る。濃く淹れたお茶を、二人は顔を顰めながら飲んだ。

 アウローラは黒魔術を使い王子と血の交換を行った。

 アウローラは妊娠した。

 1日半眠った二人は、時刻を知り小銭を渡して、慌てて帰って行った。

 黒魔術で王子の子を授かったアウローラは、13歳で出産して、その子に、王子と同じ名前をつけた。

 生まれた子は、アウローラに似た子だった。王子のようにプラチナブロンドの髪色でもなく青い瞳も持ってはいなかった。漆黒の瞳に漆黒の髪。その姿を見て落胆したが禁術を使えば、王子そっくりの子に変えられる。


 シェルが1歳半になった頃、幼い体のシェルに魔術をかけて、ロタシオン王国第一王子シェル・コテ・ロタシオン殿下と同じ姿に作り替えた。

 普段は、村の者に世話になり、少しずつ言葉を教え、勉強も教えたが、元が幼児であるために、どうしても遊びたがる。

 アウローラは、シェルに禁術を使い魔術を伝授した。彼にとって、魔術は遊びだと思っている。

 並外れた魔術を遊びで使うので、村の者は怪我が絶えない。

 アウローラの一族は、王子そっくりの最終兵器を造り、王宮に乗り込む日を楽しみにしていた。

 アウローラの言うことは絶対服従のシェルは、知能は幼児ほどしかないが、魔術の力はアウローラと変わらない。アウローラは、いつか王子様にしてあげるといつも優しく囁いていた。村でもシェルは王子様と呼ばれ、村人にシェル様と崇拝されていた。

 長老はアウローラがしていることを止めたかった。

 禁術ばかりを使う孫に、魔法の掟をしっかり学んで欲しかった。

 アウローラを呼び出し、シェルを元の姿に戻すように説得した。

 二歳前なのに、青年の姿をしているシェルは、中身のない子だ。

 国王に子爵の位を戴いたこともある名誉のある家の者が、王国を乗っ取る計画などしてはならない。

 とくとくと説得しても、アウローラは、年老いた長老の言葉を聞かない。

 激しい口論に、娘と娘婿はアウローラと会わないように、長老の家を村から離れた山の中に造り、長老は家から追い出された。長老には、付き人に若い娘が数人つき、村の外れの家で過ごすようになった。





 アウローラは、王立学園の高等部に入学した。資金は最初に泊まりに来た国王陛下から授かった金貨を使った。貧乏な村で唯一有望なアウローラは、村の期待の星だった。

 アウローラの子のシェルは寂しがり毎日泣き叫んでいたが、休日になるとアウローラは、村に帰ってきて、シェルを宥めて励ました。

 馬車で往復するだけでも賃金がかかるが、国王から戴いた金貨で、どうにか無理な生活も続けられた。

 限られた金貨で、高校三年間を過ごすことは無理だ。だから、アウローラは、入学してすぐに、ターゲットのシェル殿下に近づいた。殿下に魔術をかけて、婚約者にも魔術をかけ、仲のよかった、二人の関係をいたずらに崩していった。

 長老はアウローラが帰宅する度に、止めるように忠告したが、いつも喧嘩で終わってしまう。着々と準備は整っていると、アウローラは家族や一族に伝えていた。





 ある日、リリアン・ホワイト・ツールスハイト公爵令嬢と名乗る女の子がやって来た。


「アウローラの実家はこちらかしら?」

「ええ、そうでございます」


 村の長老は肺を患っていた。

 乗り込んで、罵倒をするつもりでいたリリアンは、咳が酷く呼吸も苦しそうな長老を見て、医師として見放すことができなくなった。当然のように診察をして病気を確かめた。

 一度、家に戻ると薬を調合して、長老に薬のお茶を淹れて飲ませた。

 長老の付き人に、茶葉を渡し、お茶の淹れ方も教えて、肺の具合が落ち着くまで、毎日通った。長老は日に日に元気になり、長老と長老の付き人はリリアンに感謝した。

 アウローラを叩き潰すつもりで来たのに、つい、医師としての心が反発心を押さえて、治療をしてしまった。

 医療費も受け取らずに、リリアンは滋養のある茶葉を大量に置いていった。

 長老はアウローラがしている悪事を知っていた。

 まだ青年になりきっていない王子と血の交換をして、子供を宿した。

 邪魔なリリアンは、一番屈辱的な公開処刑を行うと言っていた。

 アウローラより力のある長老は、リリアンは殺されても生き返るという魔法をかけた。

 アウローラの計画している王国の乗っ取りは反対してきたが、アウローラは年老いた長老は、後は死ぬだけだから口を出すなと村から追い出した。

「死に損ない」と罵るアウローラは病んでいた。

 愚かな娘は長老の孫だったが、止めるのは自分の役目だと思っていた。

 アウローラの両親は、それほど魔力はなく、祖母の血を受け継いだアウローラは、好き放題に魔術を使う。

 無理矢理魔術で王子の子を授かり、王子と同じ名を名付け、王子と同じ年齢まで成長させて、シェルに禁術の魔術の写しの術を行い、アウローラと同じ魔術を使えるようにしたが、所詮、幼児だ。幼い子に武器を持たせれば、危険を伴う。親族の半分以上を亡くしたが、アウローラの計画は順調だ。

 リリアンを無様に殺して、アウローラは王子の心を掴んでいく。

 長老は巻き戻しの呪術を使った。

 リリアンが転生したことにより、アウローラの計画は狂っていった。

 リリアンにかけられた魔術は、一度死んだことにより、すべてなくなった。リリアンは正気に戻っただろう。賢い子だったから、理性が戻れば、アウローラの挑発には乗らないだろう。アウローラの計画にも気付くだろう。

 山へ放たれた長老一行は、捕らわれずに済んだが、アウローラの一族は全員捕まった。

 なんと愚かなことだろう。

 ザクリナーニネ子爵は滅亡するだろう。

 長老は、久しぶりに村に降りて、魔術で呪う人型を見つけた。

 リリアンと特殊文字で書かれたそれを魔術で廃棄した。

 人型には、右の足首に釘が刺されていた。

 呪詛返しがあるだろうが、自業自得だ。


 魔女はもともと、薬草から薬を作り、健康になるために魔術を使ってきた。まだ医師のいない時期は、医師の代わりに人々の病気を治し、薬を作り生活してきた。誇り高い魔女の家庭で黒魔術を使えば、犯罪者として処罰されてきたほどだ。それなのに、村人たちまでアウローラの野望に望みを託してしまった。なんと無様な有様だろう。


「愚かな孫だ」


 長老はリリアンが大量に持ってきた滋養の薬をまだ、毎日飲んでいる。


「リリアンに幸あれ」


 魔術を唱え、フッと息を吐き出す。


「長老様、ここは危険です。家に戻りましょう」

「そうだね。この村は焼き払った方がいいだろうね。まだ魔術が残っているかもしれない」


 長老は、山へ向かって歩き出した。付き人の娘がついてくる。その後ろで、白い煙が上がり始めた。煙は徐々に広がり赤い炎に変わっていく。村全体が燃えるが、木々は燃えない。不思議な燃え方だ。後には屋敷の残骸すら残らなかった。

 王宮から来た騎士団は、不思議な燃え方をした村を封鎖した。


感想 0

あなたにおすすめの小説

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った

歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。 だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」 追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。 舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。 一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。 「もう、残業はしません」

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。