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第二章
7 長老
アウローラの一家はロタシオン王国の辺境にある寂れた場所に、一族で村を作っていた。魔術を使う一族というだけで、差別をされ、近隣の村から恐れられていた。何も悪いことをしていないのに、疎ましく思われるのは、気分の良くないことだ。
晴天からの突然の嵐になった日、数人の騎士が訪ねてきた。
雨宿りをさせて欲しいと言われ、長老は快く騎士たちを屋敷に招いた。
暖炉のある部屋を騎士たちに貸し渡し、食事を振る舞った。質素な食事だが、騎士たちは感謝し、暖かい暖炉の部屋を借りて申し訳ないと、家の者に感謝した。
アウローラはまだ5歳だった。
質素な洋服を着ているアウローラの姿を見た騎士は、城に戻ったらドレスを贈ろうと約束した。
三日三晩続いた嵐が止んだ日、騎士たちはアウローラの家から出ていった。泥濘んだ道に気をつけながら馬に乗って帰って行った。
遣いが来たのは、1週間後だった。
一着のドレスと大量の金貨が贈られ、ザクリナーニネ子爵と名乗るがいいと名を授かった。
泊まっていたのは、この国の国王陛下とその側近だったらしい。
長老はありがたいと、国王陛下にこの国と国王陛下の繁栄を願った。長老はアウローラの祖母で、一族の中で魔力は一番強かった。その次に魔力の強いのはアウローラだった。
アウローラは贈られたドレスを見て、喜んだ。
柔らかいシフォンでできた膝丈のドレスは若草色で、緑に囲まれたこの屋敷に合っていると思ったが、アウローラはピンクや赤のドレスを着たかった。喜んだが、少し不満も残った。靴はもともと持っているボロの靴では、せっかくのドレスも似合わない。
両親は町に出て、新しい靴を購入してくれたが、成長期のアウローラはすぐにドレスは着られなくなり、新品同様のドレスは、村の子へと渡っていった。
貧しい村で、食べるものも自給自足。足りない物は町で薬や薪を売って、そのお金で買っていた。また迷子になった王子様が来ればいいのに、とアウローラは思うようになっていた。
アウローラは12歳の時、チャンスがやって来た。
また大雨に足止めされた王子と側近が村にやって来た。
長老は快く雨宿りを許し、暖炉のある部屋を王子と側近に差し出した。
王子を見た時、その美しい顔立ちと凜々しい姿に、アウローラは、一目惚れをした。
いつか、この王子の妃になりたいと思った。この国を乗っ取りたい。裕福な暮らしをしたい。欲望は止めどなく溢れてくる。
アウローラは、食事にもお茶にも眠り草の粉末や茶葉を使った。
食後にアウローラは二人にお茶を淹れた。
眠り草という薬草は、睡眠薬と言われるほど、よく眠る。濃く淹れたお茶を、二人は顔を顰めながら飲んだ。
アウローラは黒魔術を使い王子と血の交換を行った。
アウローラは妊娠した。
1日半眠った二人は、時刻を知り小銭を渡して、慌てて帰って行った。
黒魔術で王子の子を授かったアウローラは、13歳で出産して、その子に、王子と同じ名前をつけた。
生まれた子は、アウローラに似た子だった。王子のようにプラチナブロンドの髪色でもなく青い瞳も持ってはいなかった。漆黒の瞳に漆黒の髪。その姿を見て落胆したが禁術を使えば、王子そっくりの子に変えられる。
シェルが1歳半になった頃、幼い体のシェルに魔術をかけて、ロタシオン王国第一王子シェル・コテ・ロタシオン殿下と同じ姿に作り替えた。
普段は、村の者に世話になり、少しずつ言葉を教え、勉強も教えたが、元が幼児であるために、どうしても遊びたがる。
アウローラは、シェルに禁術を使い魔術を伝授した。彼にとって、魔術は遊びだと思っている。
並外れた魔術を遊びで使うので、村の者は怪我が絶えない。
アウローラの一族は、王子そっくりの最終兵器を造り、王宮に乗り込む日を楽しみにしていた。
アウローラの言うことは絶対服従のシェルは、知能は幼児ほどしかないが、魔術の力はアウローラと変わらない。アウローラは、いつか王子様にしてあげるといつも優しく囁いていた。村でもシェルは王子様と呼ばれ、村人にシェル様と崇拝されていた。
長老はアウローラがしていることを止めたかった。
禁術ばかりを使う孫に、魔法の掟をしっかり学んで欲しかった。
アウローラを呼び出し、シェルを元の姿に戻すように説得した。
二歳前なのに、青年の姿をしているシェルは、中身のない子だ。
国王に子爵の位を戴いたこともある名誉のある家の者が、王国を乗っ取る計画などしてはならない。
とくとくと説得しても、アウローラは、年老いた長老の言葉を聞かない。
激しい口論に、娘と娘婿はアウローラと会わないように、長老の家を村から離れた山の中に造り、長老は家から追い出された。長老には、付き人に若い娘が数人つき、村の外れの家で過ごすようになった。
+
アウローラは、王立学園の高等部に入学した。資金は最初に泊まりに来た国王陛下から授かった金貨を使った。貧乏な村で唯一有望なアウローラは、村の期待の星だった。
アウローラの子のシェルは寂しがり毎日泣き叫んでいたが、休日になるとアウローラは、村に帰ってきて、シェルを宥めて励ました。
馬車で往復するだけでも賃金がかかるが、国王から戴いた金貨で、どうにか無理な生活も続けられた。
限られた金貨で、高校三年間を過ごすことは無理だ。だから、アウローラは、入学してすぐに、ターゲットのシェル殿下に近づいた。殿下に魔術をかけて、婚約者にも魔術をかけ、仲のよかった、二人の関係をいたずらに崩していった。
長老はアウローラが帰宅する度に、止めるように忠告したが、いつも喧嘩で終わってしまう。着々と準備は整っていると、アウローラは家族や一族に伝えていた。
+
ある日、リリアン・ホワイト・ツールスハイト公爵令嬢と名乗る女の子がやって来た。
「アウローラの実家はこちらかしら?」
「ええ、そうでございます」
村の長老は肺を患っていた。
乗り込んで、罵倒をするつもりでいたリリアンは、咳が酷く呼吸も苦しそうな長老を見て、医師として見放すことができなくなった。当然のように診察をして病気を確かめた。
一度、家に戻ると薬を調合して、長老に薬のお茶を淹れて飲ませた。
長老の付き人に、茶葉を渡し、お茶の淹れ方も教えて、肺の具合が落ち着くまで、毎日通った。長老は日に日に元気になり、長老と長老の付き人はリリアンに感謝した。
アウローラを叩き潰すつもりで来たのに、つい、医師としての心が反発心を押さえて、治療をしてしまった。
医療費も受け取らずに、リリアンは滋養のある茶葉を大量に置いていった。
長老はアウローラがしている悪事を知っていた。
まだ青年になりきっていない王子と血の交換をして、子供を宿した。
邪魔なリリアンは、一番屈辱的な公開処刑を行うと言っていた。
アウローラより力のある長老は、リリアンは殺されても生き返るという魔法をかけた。
アウローラの計画している王国の乗っ取りは反対してきたが、アウローラは年老いた長老は、後は死ぬだけだから口を出すなと村から追い出した。
「死に損ない」と罵るアウローラは病んでいた。
愚かな娘は長老の孫だったが、止めるのは自分の役目だと思っていた。
アウローラの両親は、それほど魔力はなく、祖母の血を受け継いだアウローラは、好き放題に魔術を使う。
無理矢理魔術で王子の子を授かり、王子と同じ名を名付け、王子と同じ年齢まで成長させて、シェルに禁術の魔術の写しの術を行い、アウローラと同じ魔術を使えるようにしたが、所詮、幼児だ。幼い子に武器を持たせれば、危険を伴う。親族の半分以上を亡くしたが、アウローラの計画は順調だ。
リリアンを無様に殺して、アウローラは王子の心を掴んでいく。
長老は巻き戻しの呪術を使った。
リリアンが転生したことにより、アウローラの計画は狂っていった。
リリアンにかけられた魔術は、一度死んだことにより、すべてなくなった。リリアンは正気に戻っただろう。賢い子だったから、理性が戻れば、アウローラの挑発には乗らないだろう。アウローラの計画にも気付くだろう。
山へ放たれた長老一行は、捕らわれずに済んだが、アウローラの一族は全員捕まった。
なんと愚かなことだろう。
ザクリナーニネ子爵は滅亡するだろう。
長老は、久しぶりに村に降りて、魔術で呪う人型を見つけた。
リリアンと特殊文字で書かれたそれを魔術で廃棄した。
人型には、右の足首に釘が刺されていた。
呪詛返しがあるだろうが、自業自得だ。
魔女はもともと、薬草から薬を作り、健康になるために魔術を使ってきた。まだ医師のいない時期は、医師の代わりに人々の病気を治し、薬を作り生活してきた。誇り高い魔女の家庭で黒魔術を使えば、犯罪者として処罰されてきたほどだ。それなのに、村人たちまでアウローラの野望に望みを託してしまった。なんと無様な有様だろう。
「愚かな孫だ」
長老はリリアンが大量に持ってきた滋養の薬をまだ、毎日飲んでいる。
「リリアンに幸あれ」
魔術を唱え、フッと息を吐き出す。
「長老様、ここは危険です。家に戻りましょう」
「そうだね。この村は焼き払った方がいいだろうね。まだ魔術が残っているかもしれない」
長老は、山へ向かって歩き出した。付き人の娘がついてくる。その後ろで、白い煙が上がり始めた。煙は徐々に広がり赤い炎に変わっていく。村全体が燃えるが、木々は燃えない。不思議な燃え方だ。後には屋敷の残骸すら残らなかった。
王宮から来た騎士団は、不思議な燃え方をした村を封鎖した。
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