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第四章
9話 空いた席
クリスマスが過ぎて、お正月も過ぎて、リリアンはまた学園に通えるようになった。
教室にアウローラの姿はない。机も片付けられて、誰もがアウローラの存在を忘れた。
それでもリリアンは、アウローラの事は一生忘れないだろう。
魔法の使い方が悪かっただけだ。
アウローラは、純粋に殿下の事を好きだった。張り合っていた相手だからこそわかる。
お昼の時間になり、リリアンは生徒会室に向かった。新しい茶葉を買ってきたから、新しいお茶を淹れたい。扉をノックして室内に入ると、兄と殿下が笑顔で迎えてくれる。
「すぐにお茶を淹れますね」
リリアンは、小さなキッチンでお湯を沸かし、茶葉を紅茶ポットに入れる。
お茶を淹れて、テーブルに並べる。
「リリアン、カップが一つ多いぞ」
「あっ」
「まあ、いつも殿下にくっついていた女の子は、なかなか手強かったから、お茶を置いておいてあげよう」
兄が、空いた席にカップを置いた。
リリアンと執着の強かったアウローラは、いつまでも平行線だったが、もしかしたら殿下が好きだという共通点で交わることはできたかもしれない。
もう顔を見たくないから、来世でもできれば会いたくはないけれど……。
「リリアン、僕の温室にいち早く春が来たんだ。秋に花摘みに行けなかったから、遊びに来ないか?」
「殿下の温室ですか?」
「ケーキを焼いてきてくれると嬉しいが」
「はい。どんなのがいいですか?」
「最初に焼いてくれたケーキがいいな。メッセージも書いてきてくれるか?」
「どんな事がいいでしょう」
「リリアンの僕への想いとか……」
「はい?」
兄が笑っている。
「子供の頃のゲームのことは忘れて、そろそろ名前で呼んでくれないか?」
「あは?」
このまま結婚してもいいのだろうか。
「殿下、私は殿下をお慕いしていますが、医療茶葉認定医としても生きていきたいと思っています。承知していただけますか?」
「ああ、いいとも。リリアンが、ボランティアで貧しい家を回って治療をしているのは知っている。王子の妃なる姫らしい優しい心を持っている。民を守れる王子に、僕もなろう」
リリアンは微笑んで、シェル様と声をかけた。
前世では許されなかった呼び名だ。
「シェル様、ご理解いただきありがとうございます」
シェルは微笑んで、リリアンの手を握った。
「シェルとは呼んでくれないのか?」
「まだ早いですわ」
「子供の頃に意地悪な罰ゲームなど与えなければ良かった。ちょっとからかってみただけなのだ。まさか、ここまで頑固に呼ばれなくなるとは思わなかったのだ」
リリアンは微笑んだ。
その罰ゲームで、リリアンはずいぶん寂しい想いをしてきた。せっかく反省してくれているなら、しばらく呼ばないでおこう。
「早く指輪を渡したい」
「まだ早いですわ」
ずっと聞きたかった殿下の優しい言葉。
人生をやり直して、やっと愛してもらえた。
婚約解消をしなくても、どうやら人生は順風満帆らしい。
殿下が笑い、リリアンも微笑んだ。
そののどかな生徒会室のテーブルに置かれた、誰も座っていない場所の紅茶の水面が揺れている。その水面には嗤った顔のアウローラが写っている。
(シェル様、ここに私のお茶があるのね)
カップの中から白い指が出てきた。
いち早く気づいたシェルは、カップごと暖炉の中に放り込んだ。
「貴様の茶などない!」
「シェル様」
白い指が焼けて、アウローラの断末魔が聞こえて、消えていった。
リリアンとグラナードは、呆然と殿下の動きを見て、その言葉を聞いた。
「空いた席にはお茶を置くのは止めよう。あの執念深い女が、この世に未練を残さないように」
「はい」
「そう、だな」
リリアンとグラナードは、暖炉の中で割れたカップと白い指らしき物を見た。
指だった物はジリジリ燃えていく。
そうして、灰になった。
「もう一度、お茶を淹れてくれるか?今度は三人分だ」
「ええ、分かったわ」
気分を変えるために、リリアンはお茶を淹れにミニキッチンに向かった。
何度、蘇っても、アウローラの気持ちは成就しないだろう。
背後では、シェルが指だった灰に聖水をまいている。
この呪いはいつか消えるのだろうか?
シェルの伴侶となるリリアンは、この呪いが消えるように、空いた席にお茶を置かないようにしようと心に決めた。
教室にアウローラの姿はない。机も片付けられて、誰もがアウローラの存在を忘れた。
それでもリリアンは、アウローラの事は一生忘れないだろう。
魔法の使い方が悪かっただけだ。
アウローラは、純粋に殿下の事を好きだった。張り合っていた相手だからこそわかる。
お昼の時間になり、リリアンは生徒会室に向かった。新しい茶葉を買ってきたから、新しいお茶を淹れたい。扉をノックして室内に入ると、兄と殿下が笑顔で迎えてくれる。
「すぐにお茶を淹れますね」
リリアンは、小さなキッチンでお湯を沸かし、茶葉を紅茶ポットに入れる。
お茶を淹れて、テーブルに並べる。
「リリアン、カップが一つ多いぞ」
「あっ」
「まあ、いつも殿下にくっついていた女の子は、なかなか手強かったから、お茶を置いておいてあげよう」
兄が、空いた席にカップを置いた。
リリアンと執着の強かったアウローラは、いつまでも平行線だったが、もしかしたら殿下が好きだという共通点で交わることはできたかもしれない。
もう顔を見たくないから、来世でもできれば会いたくはないけれど……。
「リリアン、僕の温室にいち早く春が来たんだ。秋に花摘みに行けなかったから、遊びに来ないか?」
「殿下の温室ですか?」
「ケーキを焼いてきてくれると嬉しいが」
「はい。どんなのがいいですか?」
「最初に焼いてくれたケーキがいいな。メッセージも書いてきてくれるか?」
「どんな事がいいでしょう」
「リリアンの僕への想いとか……」
「はい?」
兄が笑っている。
「子供の頃のゲームのことは忘れて、そろそろ名前で呼んでくれないか?」
「あは?」
このまま結婚してもいいのだろうか。
「殿下、私は殿下をお慕いしていますが、医療茶葉認定医としても生きていきたいと思っています。承知していただけますか?」
「ああ、いいとも。リリアンが、ボランティアで貧しい家を回って治療をしているのは知っている。王子の妃なる姫らしい優しい心を持っている。民を守れる王子に、僕もなろう」
リリアンは微笑んで、シェル様と声をかけた。
前世では許されなかった呼び名だ。
「シェル様、ご理解いただきありがとうございます」
シェルは微笑んで、リリアンの手を握った。
「シェルとは呼んでくれないのか?」
「まだ早いですわ」
「子供の頃に意地悪な罰ゲームなど与えなければ良かった。ちょっとからかってみただけなのだ。まさか、ここまで頑固に呼ばれなくなるとは思わなかったのだ」
リリアンは微笑んだ。
その罰ゲームで、リリアンはずいぶん寂しい想いをしてきた。せっかく反省してくれているなら、しばらく呼ばないでおこう。
「早く指輪を渡したい」
「まだ早いですわ」
ずっと聞きたかった殿下の優しい言葉。
人生をやり直して、やっと愛してもらえた。
婚約解消をしなくても、どうやら人生は順風満帆らしい。
殿下が笑い、リリアンも微笑んだ。
そののどかな生徒会室のテーブルに置かれた、誰も座っていない場所の紅茶の水面が揺れている。その水面には嗤った顔のアウローラが写っている。
(シェル様、ここに私のお茶があるのね)
カップの中から白い指が出てきた。
いち早く気づいたシェルは、カップごと暖炉の中に放り込んだ。
「貴様の茶などない!」
「シェル様」
白い指が焼けて、アウローラの断末魔が聞こえて、消えていった。
リリアンとグラナードは、呆然と殿下の動きを見て、その言葉を聞いた。
「空いた席にはお茶を置くのは止めよう。あの執念深い女が、この世に未練を残さないように」
「はい」
「そう、だな」
リリアンとグラナードは、暖炉の中で割れたカップと白い指らしき物を見た。
指だった物はジリジリ燃えていく。
そうして、灰になった。
「もう一度、お茶を淹れてくれるか?今度は三人分だ」
「ええ、分かったわ」
気分を変えるために、リリアンはお茶を淹れにミニキッチンに向かった。
何度、蘇っても、アウローラの気持ちは成就しないだろう。
背後では、シェルが指だった灰に聖水をまいている。
この呪いはいつか消えるのだろうか?
シェルの伴侶となるリリアンは、この呪いが消えるように、空いた席にお茶を置かないようにしようと心に決めた。
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