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第1章
35 眠り姫 レイン視点
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夜の病棟で、俺とアルクは看護師の詰め所で声を掛けた。
看護師の詰め所には、夜勤の看護師と夜勤の医師がいた。
「妻に会いに来た。妻の具合はどうなのか教えてはくれないか?」
「レイン辺境伯、やっとお帰りでしたか。留守中に亡くならないか心配で、王妃様をお守りしておりました」
「それで?」
俺は緊張していた。
留守中に危険だったのか?
今もなお、危険なのか?
「ハルマ様とビストリ様が、駆けつけたときには、既に倒れて意識を失っていたようです。
背中を剣で斬られ、顔を殴られておりました。体中に鞭の痕もございました。
逃げている途中で攻撃されたと予想できます。殴られた時に頭に衝撃を受けたのか、倒れたときに頭に衝撃を受けたのか判断できませんが、予想では頭を強打した為に、目を覚まさないのだと思います。
事件から5日目です。背中の傷は、順調に治ってきていますが、傷跡は間違いなく残ります。
目が覚めればよいのですが、脳出血を起こしていたとしても、自然に治っていく事例がありますので、今は絶対安静です。
出血が酷ければ、数日中に呼吸は止まるでしょう」
医師の言葉は、胸をえぐる。
ニナの笑顔を、もう見ることができないかもしれない。
別れた時は、指輪を失い、泣かせてしまった。
お披露目会もしていない。
ウエディングドレスも用意していなかった。
俺はニナを誰にも奪われたくなく、早く結ばれたかったのだ。
なんと身勝手な夫であっただろう。
目を覚ましてくれたのなら、今度は順を追って、ニナに選んでもらえる男になりたい。
暗い廊下を歩いて、医師は個室の部屋の扉を開けた。
部屋の中は暗く、とても静かだ。
ベッドに横向きで寝ているニナがいた。
継続点滴がされているが、まるで眠っているように静かだ。
久しぶりに見るニナは、一回り小さくなったように見える。
椅子に座り、ニナの手を握ると、手がカサッとなっていた。
以前、触れたときは、すべすべの手をしていたのに、どうしたのだ。
「手はどうしたんでしょうか?」
「手荒れがあります。宮殿の中の掃除や洗濯などをしていたとか」
「そんなことをしていたのか?」
「入院当時より、よくなってきましたが」と医師が言った。
「ハルマ様から、ハンドクリームの処方をして欲しいと申し出がありました。ハルマ様が毎日通って、王妃様の手にクリームを塗っておりました」
「ハルマが?」
医師は頷いた。
ハルマが、まさかニナを好きになったのか?
今まで、ハルマには浮ついた出会いはなかった。
ハルマがニナを好きになってしまったとしても、俺はニナをハルマにはやれない。
その晩は、ニナの手を握って、眠りに落ちた。
朝が来たら、目を覚ますかもしれない。
「ニナ、朝だよ。目を開けてごらん」
看護師が体位変換しにきた時に、俺は目を覚ました。
アルクは、どこかで眠っているのだろう。
俺はニナを抱きしめてから、目元にキスをして、頬にもキスをした。
朝の回診の時に、ニナの傷を見せてもらった。
美しく、傷一つ無かった背中に刀傷がある。
その傷跡が、俺を責める。
守りたかった。
深い後悔が、襲いかかってくる。
エリザベス王女の依頼を断れたか?
自分に問いかける。
断れなかった。
今が時期だったのだ。
そのお陰で友好国になり平和条約を結ぶ事ができたのだ。
盗賊に襲われたのならば、この地から、盗賊を抹殺しなくてはならない。度々、村に盗賊が現れて、夫人を暴行したり、食べ物などを奪ったりしていた。その対策も議題に上がっていたが、今回は俺の妻を襲った。
ブルーリングス王国の王妃が被害に遭った。
この盗賊は殲滅させなければならない。
俺はハルマとビストリと話し合いをしなくてはならない。
ニナを病院に預けて、宮殿に戻ってきた。
朝には、昨日の雨が嘘だったように、澄み渡るほど綺麗な晴天が広がっていた。
宮殿の中は、昨日、俺が汚した場所以外は、別の宮殿のように綺麗になっていた。
朝、ダイニングルームに行くと、ハルマとビストリの姿はなかった。
その代わり、母親に付き添われたアニーがいた。
「レイン辺境伯、宮殿に足を運んだことをお許しください。私はニナ様の指輪を盗みました。ニナ様にお返ししようと思い、ニナ様に謝罪をしましたが、ニナ様はレイン辺境伯に返して欲しいとおっしゃいました。その後に、盗賊に襲われ、目を覚まさないとお母さんに聞きました。早くレイン辺境伯に会って、この指輪を返したかったのです」
アニーは、俺にニナの指輪を返した。
「勝手に持ち出して、ごめんなさい。たくさん宝石を持っているから、一つくらいもらってもいいかと思ったのですけれど、結婚指輪は特別な指輪だとお母さんが教えてくれました。盗んで、ごめんなさい。早く、ニナ様にお返しして欲しいのです。目を覚まして欲しいのです」
「アニー、よく反省したのだな?」
「はい」
「ニナとはいつ頃、出会ったのだ?」
「夕焼けが綺麗な時間でした」
「そうか」
アニーは母親と共に、土下座している。
俺は、ニナの結婚指輪を返してもらった。
「アニーは、宮殿の出入りは禁止という罰は継続するが、弟妹の世話をしっかりして、田畑の仕事を命じる」
「はい、ありがとうございます」
アニーとメリッサは、深く頭を下げた。その後に、メリッサは、アニーを連れてダイニングを出て行った。
俺はこれ以上の罰は与えなかった。
自分で反省をして、指輪を返そうとしたのなら、許してもいいと思った。
先に、アニーはニナに返そうとしたのだから。
盗賊に遭う前に、アニーと会っていたのだろう。
出て行くときかもしれない。
盗難も盗賊に襲われたのも、全て俺の責任だ
俺は戻って来たばかりだが、直ぐに病院に戻った。
ニナの部屋に行くと、ハルマが椅子に腰掛けニナの手を握っていた。
ハルマは俺の存在に気づくと、今まで見たこともない恨みのこもった視線を向けてきた。
こんな事は初めてだ。だが、俺も負けてはいない。
俺とハルマは、視線で威嚇し合っていた。
「ニナは、俺の妻だ」
「お披露目もされていないのだ。どうとでも取れる」
「ハルマがニナを好きになったとしても、譲ってやるつもりはない」
俺はニナに近づくと、ニナの指に指輪をそっと付けた。
「俺も正当なブルーリングス王国の血族だ。俺が王になってもなんら変ではないじゃないのか?」
「ハルマは王になりたいのか?」
「なってもいい。王妃はニナ嬢にするつもりだ」
「確かにハルマはブルーリングス王国の血族ではあるが、俺は滅亡したときの王の血を受け継いでいる。幼い頃からブルーリングス王国の王として育てられてきた」
「だから何だというのだ?何をしても許されるというのか?王妃と迎えたニナ嬢の心を傷つけても、調印の方を優先したのだろう?」
「王だから、調印を優先させた。王妃となったニナは傷つくかもしれないと思ったが、話し合えば理解してくれると信じていた」
「信じていただと?はっ!それがこの有様か?」
「俺はハルマとビストリのことも信じていた。俺がいない間、ニナのことを守ってくれていると思っていた。ニナが出て行ったのに気づいたのはいつだ?ニナは夕焼けが綺麗な時間に出ていったらしい。ハルマが探しに出たのはいつだ?」
「夕食時だ。待っていたが、ニナ嬢が来ないから探し始めた」
「辺りは、既に暗くなっていた時間ではないか?」
「暗闇の中を探した」
「もっと早くに気づいていれば、ニナは盗賊に遭うこともなかったのではないか?」
ハルマは視線を逸らせた。
「俺は謝っても許されない傷をニナ嬢に付けてしまった。一生を掛けて償っていきたい」
「一生掛けて償うのは、俺の役目だ。俺とニナは夫婦だ。いくら同士であっても、夫婦の問題に割ってはいることは、お節介という物だ」
ハルマは返す言葉を失ったのか、ニナの隣から離れて、部屋から出て行った。
俺は先ほどまでハルマが座っていた椅子に座ると、ニナの手を握った。
「目を覚ませ。俺はまだニナを幸せにしていない。これから、この地は平和になるのだぞ」
ニナの美しい顔には、殴られてできた痣の痕跡がまだ残っていた。
怪我をした当時は、もっと酷い痣ができていたのだろう。
ハルマとビストリには、感謝をしているが、ニナをくれと言われても渡せるはずもない。
責めるような言葉も言うつもりはなかったが、ハルマにニナをやることはできない。
「ニナ、目を覚ませ。話したいことが山ほどあるのだ。それを聞いて欲しい」
看護師の詰め所には、夜勤の看護師と夜勤の医師がいた。
「妻に会いに来た。妻の具合はどうなのか教えてはくれないか?」
「レイン辺境伯、やっとお帰りでしたか。留守中に亡くならないか心配で、王妃様をお守りしておりました」
「それで?」
俺は緊張していた。
留守中に危険だったのか?
今もなお、危険なのか?
「ハルマ様とビストリ様が、駆けつけたときには、既に倒れて意識を失っていたようです。
背中を剣で斬られ、顔を殴られておりました。体中に鞭の痕もございました。
逃げている途中で攻撃されたと予想できます。殴られた時に頭に衝撃を受けたのか、倒れたときに頭に衝撃を受けたのか判断できませんが、予想では頭を強打した為に、目を覚まさないのだと思います。
事件から5日目です。背中の傷は、順調に治ってきていますが、傷跡は間違いなく残ります。
目が覚めればよいのですが、脳出血を起こしていたとしても、自然に治っていく事例がありますので、今は絶対安静です。
出血が酷ければ、数日中に呼吸は止まるでしょう」
医師の言葉は、胸をえぐる。
ニナの笑顔を、もう見ることができないかもしれない。
別れた時は、指輪を失い、泣かせてしまった。
お披露目会もしていない。
ウエディングドレスも用意していなかった。
俺はニナを誰にも奪われたくなく、早く結ばれたかったのだ。
なんと身勝手な夫であっただろう。
目を覚ましてくれたのなら、今度は順を追って、ニナに選んでもらえる男になりたい。
暗い廊下を歩いて、医師は個室の部屋の扉を開けた。
部屋の中は暗く、とても静かだ。
ベッドに横向きで寝ているニナがいた。
継続点滴がされているが、まるで眠っているように静かだ。
久しぶりに見るニナは、一回り小さくなったように見える。
椅子に座り、ニナの手を握ると、手がカサッとなっていた。
以前、触れたときは、すべすべの手をしていたのに、どうしたのだ。
「手はどうしたんでしょうか?」
「手荒れがあります。宮殿の中の掃除や洗濯などをしていたとか」
「そんなことをしていたのか?」
「入院当時より、よくなってきましたが」と医師が言った。
「ハルマ様から、ハンドクリームの処方をして欲しいと申し出がありました。ハルマ様が毎日通って、王妃様の手にクリームを塗っておりました」
「ハルマが?」
医師は頷いた。
ハルマが、まさかニナを好きになったのか?
今まで、ハルマには浮ついた出会いはなかった。
ハルマがニナを好きになってしまったとしても、俺はニナをハルマにはやれない。
その晩は、ニナの手を握って、眠りに落ちた。
朝が来たら、目を覚ますかもしれない。
「ニナ、朝だよ。目を開けてごらん」
看護師が体位変換しにきた時に、俺は目を覚ました。
アルクは、どこかで眠っているのだろう。
俺はニナを抱きしめてから、目元にキスをして、頬にもキスをした。
朝の回診の時に、ニナの傷を見せてもらった。
美しく、傷一つ無かった背中に刀傷がある。
その傷跡が、俺を責める。
守りたかった。
深い後悔が、襲いかかってくる。
エリザベス王女の依頼を断れたか?
自分に問いかける。
断れなかった。
今が時期だったのだ。
そのお陰で友好国になり平和条約を結ぶ事ができたのだ。
盗賊に襲われたのならば、この地から、盗賊を抹殺しなくてはならない。度々、村に盗賊が現れて、夫人を暴行したり、食べ物などを奪ったりしていた。その対策も議題に上がっていたが、今回は俺の妻を襲った。
ブルーリングス王国の王妃が被害に遭った。
この盗賊は殲滅させなければならない。
俺はハルマとビストリと話し合いをしなくてはならない。
ニナを病院に預けて、宮殿に戻ってきた。
朝には、昨日の雨が嘘だったように、澄み渡るほど綺麗な晴天が広がっていた。
宮殿の中は、昨日、俺が汚した場所以外は、別の宮殿のように綺麗になっていた。
朝、ダイニングルームに行くと、ハルマとビストリの姿はなかった。
その代わり、母親に付き添われたアニーがいた。
「レイン辺境伯、宮殿に足を運んだことをお許しください。私はニナ様の指輪を盗みました。ニナ様にお返ししようと思い、ニナ様に謝罪をしましたが、ニナ様はレイン辺境伯に返して欲しいとおっしゃいました。その後に、盗賊に襲われ、目を覚まさないとお母さんに聞きました。早くレイン辺境伯に会って、この指輪を返したかったのです」
アニーは、俺にニナの指輪を返した。
「勝手に持ち出して、ごめんなさい。たくさん宝石を持っているから、一つくらいもらってもいいかと思ったのですけれど、結婚指輪は特別な指輪だとお母さんが教えてくれました。盗んで、ごめんなさい。早く、ニナ様にお返しして欲しいのです。目を覚まして欲しいのです」
「アニー、よく反省したのだな?」
「はい」
「ニナとはいつ頃、出会ったのだ?」
「夕焼けが綺麗な時間でした」
「そうか」
アニーは母親と共に、土下座している。
俺は、ニナの結婚指輪を返してもらった。
「アニーは、宮殿の出入りは禁止という罰は継続するが、弟妹の世話をしっかりして、田畑の仕事を命じる」
「はい、ありがとうございます」
アニーとメリッサは、深く頭を下げた。その後に、メリッサは、アニーを連れてダイニングを出て行った。
俺はこれ以上の罰は与えなかった。
自分で反省をして、指輪を返そうとしたのなら、許してもいいと思った。
先に、アニーはニナに返そうとしたのだから。
盗賊に遭う前に、アニーと会っていたのだろう。
出て行くときかもしれない。
盗難も盗賊に襲われたのも、全て俺の責任だ
俺は戻って来たばかりだが、直ぐに病院に戻った。
ニナの部屋に行くと、ハルマが椅子に腰掛けニナの手を握っていた。
ハルマは俺の存在に気づくと、今まで見たこともない恨みのこもった視線を向けてきた。
こんな事は初めてだ。だが、俺も負けてはいない。
俺とハルマは、視線で威嚇し合っていた。
「ニナは、俺の妻だ」
「お披露目もされていないのだ。どうとでも取れる」
「ハルマがニナを好きになったとしても、譲ってやるつもりはない」
俺はニナに近づくと、ニナの指に指輪をそっと付けた。
「俺も正当なブルーリングス王国の血族だ。俺が王になってもなんら変ではないじゃないのか?」
「ハルマは王になりたいのか?」
「なってもいい。王妃はニナ嬢にするつもりだ」
「確かにハルマはブルーリングス王国の血族ではあるが、俺は滅亡したときの王の血を受け継いでいる。幼い頃からブルーリングス王国の王として育てられてきた」
「だから何だというのだ?何をしても許されるというのか?王妃と迎えたニナ嬢の心を傷つけても、調印の方を優先したのだろう?」
「王だから、調印を優先させた。王妃となったニナは傷つくかもしれないと思ったが、話し合えば理解してくれると信じていた」
「信じていただと?はっ!それがこの有様か?」
「俺はハルマとビストリのことも信じていた。俺がいない間、ニナのことを守ってくれていると思っていた。ニナが出て行ったのに気づいたのはいつだ?ニナは夕焼けが綺麗な時間に出ていったらしい。ハルマが探しに出たのはいつだ?」
「夕食時だ。待っていたが、ニナ嬢が来ないから探し始めた」
「辺りは、既に暗くなっていた時間ではないか?」
「暗闇の中を探した」
「もっと早くに気づいていれば、ニナは盗賊に遭うこともなかったのではないか?」
ハルマは視線を逸らせた。
「俺は謝っても許されない傷をニナ嬢に付けてしまった。一生を掛けて償っていきたい」
「一生掛けて償うのは、俺の役目だ。俺とニナは夫婦だ。いくら同士であっても、夫婦の問題に割ってはいることは、お節介という物だ」
ハルマは返す言葉を失ったのか、ニナの隣から離れて、部屋から出て行った。
俺は先ほどまでハルマが座っていた椅子に座ると、ニナの手を握った。
「目を覚ませ。俺はまだニナを幸せにしていない。これから、この地は平和になるのだぞ」
ニナの美しい顔には、殴られてできた痣の痕跡がまだ残っていた。
怪我をした当時は、もっと酷い痣ができていたのだろう。
ハルマとビストリには、感謝をしているが、ニナをくれと言われても渡せるはずもない。
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