聖女なのに魔王に溺愛されています

綾月百花   

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9   処罰

1   行方不明のアミーキティア

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 アミーキティアは祖父母の屋敷に避難していた。両親や兄妹達が探していることは、祖父母から聞いているが、祖

父母はアミーキティアの事を溺愛しているので、この屋敷にいることを秘密にしてくれている。

 祖父母の屋敷は、魔界の港町の近くにあり、海が見渡せる高台に屋敷を構えている。

 食事は新鮮な魚貝類が多く、腕のいいシェフがいるので、毎日美味しい料理が食べられる。

 両親と過ごすより、口うるさく言われないので、アミーキティアは祖父母の屋敷が好きだ。


「アミーキティアや、今度は何をやらかしたんだ?」


 先々代の魔王の祖父が、アミーキティアの黒髪を撫でながら、微笑んでいる。


「ちょっとした悪戯よ。エスペランスお兄様が人間と血の交換を黙ってしてしまったの。賤しい人間の小娘を人間界に帰してあげたのよ。親切でしょう?」

「人間と血の交換だと?なんと愚かなことをやらかしたのだ?」

「そうでしょう?魔王なら魔界の魔力の強い娘と血の交換をすべきだわ」

「確かにそうじゃ」

「だから、人間界にお帰り願ったの。たったそれだけのことで、両親も兄妹達も大騒ぎして、大袈裟だわ」

「そうか、アミーキティアは魔界のことを考えて行ったのだな。お爺ちゃまが、守ってやろう」

「ありがとう。お爺ちゃま」


 アミーキティアは祖父の応援もあり、悠々自適に暮らしている。


「アミーキティア、美味しいパイを焼いたのよ。さあ、お茶の時間にしましょう」

「ありがとう。お婆ちゃま」


 祖父母は景色を美しく変えているので、海の景色は美しい。

 空も青く、白い雲も浮かんでいて、絵画を見ているようだ。


「お婆ちゃまも、アミーキティアの味方になってあげますよ。か弱い人間など、すぐ死んでしまいます。魔術も使えないような未熟な人間は、王妃に相応しくありませんわ」

「魔術ね・・・・・・」


 そう言えば、アリアは治癒の魔術を使えたな・・・・・・と思い出した。

 スライムの粘液で足を滑らせ捻ってしまった。その傷を治してもらった。

 人間なのに、どうして魔術を使えたのだろうか?

 まあ、いいか・・・・・・。

 祖父母も味方になってくれるなら、ここで暮らせばいい。

 幸い、エスペランスお兄様の結婚も反対してくれている。

 祖父母を巻き込めば、結婚を許した両親や兄弟達の気持ちも変わるかもしれない。

 美味しい紅茶を淹れてもらい、果実たっぷりのパイを食べながら、アミーキティアは気ままに祖父母に甘える。

 祖父母は年齢不詳の美男美女で、ただ、アミーキティアの事は、まだ幼い子供だと思い込んでいる。それさえ、我慢すれば居心地はいい。




 アミーキティアは、どうしたらエスペランスお兄様の嫁になれるのか考えていた。


「お爺ちゃま、わたくしがエスペランスお兄様と結婚することはできないのですか?」

「エスペランスは魔王になった。近親相姦は勧められんが、お互いに好き合っておれば、結婚はできるだろう。お世継ぎは、そうさの……ハーレムでも作ればいいかの?」

「ハーレムですか?わたくしの子では駄目なのですか?」

「血が濃くなる。エスペランスとアミーキティアは同じ血が流れておるからな」

「力が強い者同士が結ばれたら、もっと強い者が生まれてこないのですか?」

「わしもわからん。大昔の文献で、兄妹では結婚は止めた方がいいだろうと書かれていたのを読んだ事があるのお」


 アミーキティアは大きなため息をついた。

 結婚しても、エスペランスお兄様の子は授かれないのは、寂しい。

 姉のルモールは、子沢山だ。魔族の中では、まだ幼子と言われる年齢で結婚したルモールは、年の離れた公爵の嫁になった。

 すぐ子供ができて、35人子供がいる。

 最近、生まれた子は、まだ幼くて10歳の女の子だ。

 とても可愛らしく、姉が羨ましい。

 ルモールとアミーキティアは3つしか年齢は変わらない。

 200歳を超えたアミーキティアは、まだ兄に初恋したままだ。

 ルモールの子は、アミーキティアを抜かして、既に嫁に行ったり嫁をもらったりしている。

 たった3つしか違わないのに・・・・・・。

 なんだか急に不幸に思えてきて、飲みかけの紅茶の入ったカップを倒した。

「アミーキティア様、お怪我はありませんか?」


 侍女が慌てて、布巾でテーブルを拭いている。

 忌々しく、紅茶はアミーキティアのワンピースも濡らした。

 うまくいかないわね……。

 侍女が集まって、アミーキティアの洋服を布巾で拭うのを、鬱陶しく思いながら「着替えてくるわ」と声を上げて、部屋を出て行こうとしたとき、


「アミーキティアよ。もう少しお淑やかになさいな。淑女が八つ当たりでカップを倒してはみっともないだけよ」


 祖母がアミーキティアの様子を見て、注意をしてきた。

「アミーキティアよ。結婚がしたいのであれば、お爺ちゃまが相手を探してやろうかのう?」

「大きなお世話よ」

「そうかのう?」

 優しい顔つきをしている祖父だが、目つきだけは魔王の厳しい目つきをして、アミーキティアを見た。

 祖父母達は、アミーキティアの悪事を知った上で、匿ってくれているのだろうか?

 そんな疑問が、祖父の眼差しから感じられた。


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