悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   

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10   結婚について

8   婚約破棄しました

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「ただいま」
「おかえり。泊まってくるかと思っていたわ」

 母が出迎えてくれる。リリーは母に抱きついた。その瞬間、シーツにくるまれた荷物がガシャンと落ちた。

「どうしたの?素敵な王冠ね、マントも素敵よ。あら、杖もあるのね」
「お母様、婚約破棄しました」
「どうして?」

 リリーはパーティーで王妃が話した言葉をそのまま話した。

「酷いわね。婚約破棄は当然ね」

 リリーは泣きながら頷く。

「リリーはまだ若いわ。まだやり直しが利くわ」

 リリーは頷いた。

「荷物を置いてきます」
「手伝いましょうか?」
「大丈夫ですわ」

 リリーは魔術を使い、シーツを持ち上げる。
 ゆっくり2階に上がっていくと、荷物を壁にぶつけないように、気をつけて部屋に入っていった。
 ゆっくり床にシーツを置いた。
 モリーとメリーがいて、「どうなさったのですか?」と聞いてきた。

「婚約破棄したの」
「あらまあ」
「仲がよろしかったのに」
「王妃様が私では駄目だとおっしゃったの。アストラべー王国の王妃はアストラべー王国の伯爵令嬢でないと駄目だとおっしゃったの」
「辛かったですね」

 リリーは頷いて、床に座ると片付けを始めた。
 モリーとメリーも片付けてくれる。

「リリー婚約破棄したってほんと?」
「……ええ」
「かっこいい服着ているね」
「私専用なの」
「どういうこと?」
「お兄様、触れてみて」

 兄は部屋に入ってきて、リリーのマントに触れようとしても触れられず、驚いている。

「冠も触れられないわ。これはダンジョンのラストアタックで魔物のボスが落としたものなの。私の戦士の勲章よ」
「リリー、格好いいな」

 兄に褒められて、リリーは涙を流しながら、微笑んだ。

「トルソーをお持ちしますね」
「モリーありがとう」
「それで何で、婚約破棄したんだ?仲良く見えたけど」

 リリーは、また兄に話した。

「それはビエント様のお母様が間違っている。しかも、リリーを泣かせたまま帰したことは許せん」

 兄は涙で濡れた頬を、温かな手で撫でてくれた。

「リリー、婚約破棄とはどういうことだ?」

 今度は父が来た。兄が話してくれた。

「私、嫌われていたみたいなの」

 リリーの戦士の姿を見て、父親の目がキラッと光った。

「それは戦士の姿なのだな」
「はい」
「美しい冠だ」
「人食いコウモリのボスが落とした品ですけど」
「なんだと!」
「私が持っているアクセサリーはボス戦で、魔物が落とした戦利品よ」
「すごいではないか、どこにも売ってはいないぞ」
「……そうね」

 興奮している父を見て、リリーは微笑んで答えた。

「戦いの証よ。お父様、宝石箱を置いてもいいですか?」
「ああ、いいとも。明日、買いに行こう」

 モリーがトルソーを持ってきてくれたので、鞄の中からもともと着ていたワンピースを着せて、マントを取り、杖のフォルダーを取って付けた、その上からマントを着せて、頭に冠を載せる。

「父上、あれはリリーしか触れないそうですよ」
「なんと!」

 父も触ろうとして触れられず、首を傾けている。

「専用なの」
「特別というわけだな」
「……そうよ」
「偉いな」

 父がリリーを抱きしめる。
 温かな体温に、ホッと緊張していた体から力が抜けてく。

「明日は買い物に出かけよう。冷たい体をしている。コートは持っていないのか?」
「持っていないわ」
「そうか。我が家に相応しい物を見に行こう」
「はい」
「ドレスのまま帰って来たのか?」
「……はい」
「モリーとメリー、すぐに暖かそうな洋服を着せてくれ」
「畏まりました」
「お嬢様、お着替えをいたしましょう」
「……そうね」

 父とハスタがトルソーの戦士の衣装を見ている間に、白いワンピースを身につけた。

「お父様、お兄様、こちらなら触れられますわ」

 リリーは誰でも触れられる杖とロットを父と兄に渡した。

「どのように使うのか分からぬが、強そうに見えるな」
「魔力が上がりますの」
「僕にも使えるだろうか?」

 ハスタがロットを、剣を扱うようにしながら訊いてきた。

「お兄様、それは剣ではありませんわ」
「そうか、使い方が分からないな?」

 父も兄も杖とロットを床に下ろした。

「リリーは食事を食べてきたのか?」
「食べたくないわ」

 外は暗い。
 もう夕食の時間も過ぎてしまった。
 気力が沸かずに、ゆっくり空を飛んできた。

「それならパンケーキでも焼いてもらおう。おいで」

 温かな父の手が、手に触れる。手を引かれて、階段を降りていく。ダイニングに入って、お茶を淹れてもらううちに、パンケーキを焼いてもらう。
 いつの間にか隣で兄も食べている。母も父も紅茶を飲んでいる。
 部屋に流れる空気も暖かい。

「お嬢様、おかわりできましたよ」

 シェフが新しいお皿に、たっぷりの蜂蜜をかけてくれる。
 食欲はないかと思ったけれど、食べ出したらお腹が空いていることを思い出した。
 そう言えば、お昼も夜も食べていない……。

「……美味しい」
「もっと食べられますか?」
「あと一枚ください」

 綺麗な宮殿だったが、こんなに優しい空気は流れていなかった。



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