悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   

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11   ままごとのような時間

2   隣国からの訪問者

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 両親とハスタとビエントとリリーは、五人で毎食食事を食べていた。
 最近ではビエントもリリーの両親に認められ、家族のように楽しい会話に参加し、笑い合うようになった。

 ハスタは、「本気で王子を辞めるのですか?」と真顔で聞いてくるし、父は、「このまま家にいればいい」と滞在を許してくれている。それでもリリーは心配だった。毎日、忙しそうに公務をしていたのに、それをすべて放り出してリリーを追いかけてきたのだ。

 追いかけてきてくれたことは嬉しいが、アストラべー王国が心配だった。
 ボス攻略の後、ポケットに金貨を入れてくれた戦士は、リリーが王妃になるなら、この国も良くなるだろうと言っていた。




 リリーはアストラべー王国の事をあまり知らないが、アハトやワポル、フィジの家はとても粗末な家だった。
 標高の高い山の上なのに、簡素な建物で、道もあるように見えなかった。もしかしたら貧富の差が激しいのではないかと、ふと思った。
 金貨をもらうために、魔術のある者が金貨をもらいに出稼ぎに出ていたのかもしれない。
 仕送りの話をしている者もいた。
 魔物の森がなくなったことで、金貨を稼ぐ場所をなくした者がいるのかもしれない。




 フラーグルム王国には魔物は出ない。
 貧富の差はあるが、鉱山があり、働き口はあるために、それなりに国民は暮らしている。
 アコラサード伯爵家も鉱山を持っていて、金の発掘をする民を雇っている。危険手当も出しているし、賃金はそれほど安くはない。
 国民がお金を使えば、国税も入り国が豊かになる。




 アストラべー王国は、どうだったのだろう。
 王都の町並みは美しかったが……。

 リリーはアトミスに連れて行ってもらったお店の洋服に触れて、自国の洋服に触れると、生地の質が違う。
 アトミスに連れて行ってもらったお店の洋服は、冬物でも生地が薄く感じる。
 お店のデザインの違いかもしれないが。ビエントが作ってくれたドレスは、着心地を感じる余裕は無かったから覚えていないが、もしかしたらまだ今、発展しようとしている途中なのかもしれない。
 魔物の森で道が封鎖されていて、思うように国が発展してなかったのかもしれない。
 国政のことはビエントに聞けないが、リリーは父が議員を務めていたので、幼い頃から父から国政のことは教育されている。

「リリー、散歩に出ないか?天気もいいし気分転換になるよ」
「……ええ」
「コート着てきて」
「分かったわ」

 リリーは靴をブーツに履き替え、コートと手袋をつけて、ビエントの元に走って行く。

「空の飛び方覚えている?」
「覚えていますわ」

 二人で庭に出ると、ビエントは少し体を浮かした。
 肺を患って以来、外出は初めてだ。
 飛ぶのは久しぶりだ。
 リリーも少し浮かんで、にっこり微笑んだ。ビエントが手を繋ぎ、それが合図のように、上空に飛んだ。

「空の上はやっぱり冷えるわね」
「寒い?」
「平気ですわ」

 リリーはフラーグルム王国を案内した。ビエントは興味深そうに頷いている。リリーの家の金鉱山にも案内した。ビエントは金鉱山と聞いて驚いている。
 最後に初めて会った森に行った。

「懐かしいな」
「懐かしいですね」

 ここで最初の魔法を教えてもらった。

「どうして私に魔法が使えると思ったの?」
「魔法の風が流れてきたから、それを辿ったんだ。そうしたら可愛い女の子がいたんだ」
「魔法の風ですか?」
「今、リリーが出している風魔法の気みたいなものだ」

 なんとなく分かった。
 あの時のリリーは誰も構ってくれなくて退屈過ぎて、少し怒っていた。怒っていたから、気が溢れていたのかもしれない。

「こんなに魔法が上達するとは思っていなかったが、リリーに会えて良かった」
「アストラべー王国から何をしにいらしていたの?」
「散歩かな。アストラべー王国は貧富の差が激しくて。この国を視察していたんだ」

 初めて、ビエントが国の事を教えてくれた。

「王都はやっとできた。まだ開拓してない地域もある。魔物の森が邪魔をして、探索隊を出すことができなかったんだ。アストラべー王国の民は耳がよく、魔術が使える者が多くいた。その中で飛べる者は1割くらいだ。その1割で調査をして、森を開拓して、村を作っていった。魔物が怖くて、山間部に逃げる民もいた。魔物がいなくなれば、山間部に逃げた民も降りてくるかもしれない。村を街に替えたかった。区画整理をして、住宅街を作っている途中だった。土地を販売して好きな家を建てたい者には土地を販売し、資金が足りない者は融資を行えるように、銀行も充実させていた。建て売りの家も建てて、民が買いやすい物を造ろうと思った。郊外には畑や果実園ができたらいいと思った。綺麗な街並みを作ろうと思った」
「産業は?」
「リリーはやはり賢いな」

 ビエントは嬉しそうに、リリーの頭を撫でる。

「産業はいくつかある。山に鉱山を見つけて、金貨を作っている。他の産業は、海に面しているから漁業が盛んだ。造船業も行っている。高価な真珠の養殖をして輸出もしている。今、織物産業を習いに出ている者がいる。山には蚕がいる。上質な絹を作れる。近いうちに今よりいい物が作れるようになるだろう。魔物がいなくなったから、木材の輸出や加工もできるだろう。草原があるから畜産業も盛んになるはずだ。今まで魔物に襲われ、上手くいかなかったが、これからは変わる」
「これからの国なのですね」
「ああ、これからの発展していく国だ。栄えているのは王都と魔物が出なかった西部の街と海に面した東の街くらいだろう」

 西部の都市は、アハト達を送って行くとき、便乗して乗り物に乗った二人が降りた街だ。
 確かに綺麗に整備されていた。

「ビエント様、帰らなくていいのですか?計画を中途半端な状態で、放り出していいのですか?」
「国を捨ててきた。誰かがするだろう」

 ビエントはリリーの手を掴むと、そのまま上空に飛び出した。
 リリーもビエントと並び飛んでいる。
 この話は、もうしたくないのだろうか?
 ビエントは冷え込む前に、リリーを家に連れ戻した。
 体調は良くなったが、冷たい空気は肺に悪いと医師に忠告されている。
 家に着いて、玄関に入ると、母が「お帰り」と迎えてくれた。

「ビエント様、お客様がかれこれ4時間ほどお待ちになっておりますよ」と母が言った。
「奥の応接室です。リリー、お連れして」
「はい。ビエント様、こちらです」

 リリーは今にも逃げ出しそうなビエントの腕に腕を絡めると、応接室に連れて行った。






「ビエント殿下、休暇中に申し訳ございません」
「休暇など取ってはいない。国を捨てた身だ」
「国では休暇中ということになっております」

 訪ねてきたのはビエントの側近のアトムスとモリオンだった。
 リリーは退出しようとしたが、「リリー様もどうぞおかけになってください」と言われて、渋々、ビエントの横に座る。

「殿下が至急作って欲しいとおっしゃった、仮住まいができました」
「アストラべー王国には戻らん」
「ビエント様が出て行かれた後、国王陛下は議会にも出ず、部屋にこもっていらっしゃいます。王妃様ともシオン様と話をしていない様子でございます」
「拗ねておるのか?」
「嫌気が差したとおっしゃったとか」
「何の嫌気だ?」
「王妃様と大喧嘩をなさったとか」
「ただの夫婦喧嘩だろう」
「王妃様とシオン様は、西の宮殿に移って行かれました」
「原因は何だ?」
「ビエント様へのあれこれでございます。リリー様に対する虐め等を王妃様にお叱りになったとか」
「それで母上は出て行ったのか?」
「いいえ違います。西の宮殿に移れと申したそうです」
「追い出したのか?」
「そうでございます」
「議会はずっと開かれておりません」
「引退をするには早かろう」

 ビエントは呆れて、大きなため息を一つ零した。
 部屋がノックされて、母が使用人と紅茶を持ってきた。

「リリーもビエント様も喉が渇かれたでしょう。どうぞ召し上がってください」
「お母様、ありがとうございます」
「リリーの紅茶には蜂蜜がいれてあるわ」
「ありがとう」

 母はにっこり微笑むとごゆっくりと言って、出て行った。

「どうぞ、召し上がってください」

 ビエントの側近にお茶を勧めた。
 どちらも、いったん落ちついた方がいい。
 リリーは紅茶を飲んだ。蜂蜜は滋養もあり喉にも優しい。

「と言うわけで、アストラべー王国は、今、危機的な状態でございます。指導者が仕事をしないので、何も進みません。このままでは力のある公爵が指導権を持ち、王宮を乗っ取る事も予想できます」
「ビエント様、どうかお戻りください。私には時々、会いに来てくださればいいのですわ」
「リリーを置いていくのか?」
「私はお仕事の邪魔になりますわ」

 リリーは深く頭を下げた。

「リリー様もどうぞ、一緒にお戻りください。お部屋の空調も直し、暖房も入るようになりました」
「壊れていたの?だから、あんなに寒かったの?」
「リリーは肺炎を起こして、まだ安静期間だ。母上の嫌がらせのせいで体調を崩し、生死を彷徨ったのだ」
「もう王妃様もシオン様もいらっしゃいません」
「ビエント様、一度、お戻りになったらいかがですか?私はもう少し療養していますので」

 側近の二人は、深く頭を下げた。

「……では、一度父と話をしよう」

 二人の側近が嬉しそうな顔をした。
 夕食の時間になり、いい香りがしてくる。

「お食事を召し上がっていきますか?」
「ああ、食べていく」
「シェフに知らせてきます。どうぞ。アトムス様もモリオン様も召し上がっていってください」

 リリーは頭を下げると、部屋を出て行った。



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