1000年聖女♡悪魔に魅せられて

綾月百花   

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第一章  アリエーテ

4   契約

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 一晩かけて歩いたのに、馬車に乗せられたらあっという間に、教会に戻っていた。
 教会の前に立つ騎士が敬礼をして、教会の中に入っていった。
 シスター達が大勢出てくる。

「道を歩いていました」

 騎士が言った。

「アリエーテです」

 シスターの一人が言った。
 アリエーテは馬車から降ろされ、アリエーテの身柄はシスター達の手に渡された。

「ご迷惑をおかけしました」

 年老いたシスターが、騎士達に頭を下げると、騎士達は馬車に乗り込み教会から離れていった。

「アリエーテ、こちらにいらっしゃい」

 年老いたシスターは、そう言うと、先に歩いて行った。
 アリエーテの両脇はまだ若いシスターが腕を掴み、逃げ出さないように連れて行かれる。
 長い階段を上り、懲罰室に連れて行かれる。
 鉄格子の付けられた部屋は、アリエーテの自室より広い。その部屋に入れられた。
 シスター達の手には、棒が握られている。
 ああ、罰で叩かれるのだろうと直感で分かった。

「どこに行くつもりだったのですか?」
「家族のお墓に行きたかったのです。でも、どこに埋葬されているのか分からなくて、探していました」
「ご家族のことは残念でしたが、この教会に入った者は親の死に目にも会えない決まりになっています。特にアリエーテは既に聖女になった身であるなら自分自身の役目も知っているはずですが?」
「……はい」

 聖女は魔窟の制御をするために、国に仕える者だ。
 我が身であっても、この身は国の物である。
 教会から出ることは許されない。
 すべて瞑想中に学んだ事だ。

「罰を与えなくてはなりません」

 長老のようなシスターが「叩きなさい」と命令すると、棒を持ったシスターはアリエーテの体中を叩き始めた。手も足も背中もお腹も、ところ構わず、棒が体を打ち付ける。
 ああ、痛い、痛いわ。
 叩かれる度に体が撓る。
 なんて酷い罰だろう。
 シスターの中には薄ら笑いを浮かべている者もいる。
 まるで何かに仕返しをするように、アリエーテの体を打ち付ける。
 アリエーテは座っていることもできなくて、床に倒れた。倒れた体に棒を打ち下ろすシスター達は異常者に見えた。最後に顔を叩かれて、アリエーテはその痛みに意識がぼんやりしていた。

「もう良いでしょう。きちんと反省しなさい」

 年老いたシスターの声がすると、体罰は終わった。
 シスター達が懲罰室から出て行き、鍵をかけられた。
 シスター達の足音が遠ざかっていった。
 懲罰室にアリエーテは、一人で残された。
 床に倒れたアリエーテの横にレオンが立った。

「まったく人の皮を被った悪魔だ。悪魔より残酷な事をしやがる」

 レオンはアリエーテの傍らに腰を落とすと、アリエーテの頬を撫でて、頬の血を拭ってくれた。頬からまた血が流れて、床に落ちた。
 アリエーテは瞬いた。
 レオンが顔を覗き込んでいる。

「助けてくれるの?」
「悪魔はタダじゃ助けない」
「何が欲しいの?」
「その美しい魂を食いたい」

 アリエーテは微笑んだ。

「いいわよ。おいしいかどうか知らないけれど。それで魂の対価は何?」
「復讐をしたいのだろう?」
「わたしを守り、両親を殺した犯人を見つけて、一人残らず殺してくれる?」
「いいだろう」

 レオンはアリエーテを仰向けに寝かせた。

「契約をしなきゃならんけど、どこに刻んでもいいか?」
「いいわよ。レオンの好きな場所に刻んだらいいわ」
「その青い瞳を戴こう」

 アリエーテは微笑んだ。
 この青い瞳は、両親から受け継いだものだ。いつも美しいと褒められていたアリエーテの自慢の瞳だ。
 目の付け所はいいようだ。
 そう思ったとき、左の瞳が焼けるように痛くなった。咄嗟に目を閉じると、涙と一緒に血が流れていた。
 レオンがその涙と流れた血を、掌で拭った。

「もう痛くはないはずだ」

 目を開けると、確かにもう痛くはない。目も見える。

「これで契約は終わったの?」
「アリエーテは俺のものだ」
「そう」

 レオンは横たわるアリエーテを抱き上げ、宙に浮かんだ。

「手始めにお嬢様を痛めつけたシスターに死を」

 レオンが優雅に言葉を紡ぐと、宿舎の中から悲鳴が上がる。
 その様子を見ていたアリエーテは、心の底から笑いがこみ上げてきた。
 虫が焼けるようにシスター達が燃えていく。
 それを見ていた聖女達やシスター達は、恐れて逃げ出した。
 逃げればいいわ。
 ここには夢はない。あるのは死だけだ。

「レオン、教会ごとすべて燃やして」
「仰せのままに」

 一斉に燃え上がる教会。
 懲罰室のある高い棟の建物も宿舎も祈りの間もすべて激しく燃え上がる。
 この国やこの世界が魔界に襲われようが、アリエーテにはもう関係ない。守りたいと思った人たちは、みんな死んでしまった。
 小さな教会も墓地も火の渦に巻かれて、朝にはわずかな瓦礫を残して、すべて焼けてしまった。
 レオンは上空から、すっかり何もなくなった空き地を見せてくれた。
 周りには教会の消火に駆けつけてきた消防隊や逃げて残った聖女達とシスター達、近所から駆けつけた野次馬達がいたが、皆、呆然としている。

「レオン、わたしの屋敷を見せて」
「その前に、着る物を調達しよう。それから住処も必要だな。体も癒やさなければならないだろう。人間の体は壊れやすいからな」
「……それもそうね」

 アリエーテはまだ聖女のワンピースを身につけていた。血がにじんだ聖女のワンピースは、薄汚れていて醜い。
 シスターに打たれた体も、身動きができないほどまだ痛い。
 熱を持ち、体中が拍動している。
 レオンはアリエーテを横抱きにしたまま消えた。


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