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4-5 北畠小夜(3)
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評定の場で、師行と行朝が派手にやり合った。
足利尊氏の叛乱が起こり、陸奥から征西の軍を出す事を前提にした評定だった。誰が先陣を切るのか、と言う話から、師行が行朝を弱腰となじり、戦は南部に任せて伊達は征西の軍には加わるな、と言い出した。それに対して行朝も激しい言葉で猪武者と言い返し、騒然となりかけた場が宗広が間に入る事でどうにか収まった。師行と行朝の不仲には、諸将ももう慣れているようだ。
目に見えない所で、師行と行朝にどんなやり取りがあったのかは小夜にも分からなかったし、確かめる気もなかった。楓が何かしら動いたのかもしれない。
ちょっとした小技だった。これで評定の場にいた他の武士達には、征西の折、先陣を切るのは師行だと強く印象付けられただろう。
楓は、今小夜の元に集まっている武士達の中からも斯波家長の元に走る者が出る、と、ごく自然に考えている。その辺りは自分よりずっと強かだ。
尊氏は鎌倉から動かないまま、従二位に叙せられていた。朝廷が尊氏を抑える事を諦め、なだめに掛かったと言う事だが、小夜は気にしなかった。征夷大将軍の地位が尊氏に与えられるか、あるいはそれを自称し始めない限り、他の官職がどのように動こうと今は意味はない。
節度の無い朝廷の恩賞には、もう嘆く気力も湧かなかった。今の親政が始まった時から、ずっと続いてきた事だ。それがどれほどの歪みをこの国にもたらしてきたのか、堰を切ったように最大の叛乱が起これば、朝廷の人間達も少しは理解できるかもしれない。
大きな所で見れば帝の理想は正しい。だが急ぎ過ぎているし、周りの廷臣達の質があまりに低すぎた。
師行は数日の間国府に滞在し、また来た時と同じように三人で北へ戻って行った。
「師行殿が馬を一頭置いていかれたよ」
勇人が戸惑った様子で、伝えて来る。
勇人はあれからまた師行に直接鍛えられたらしく、いくつも新しい痣をあちこちに作っていた。鍛錬の厳しさは見て取れるが、それが尾を引いている様子はない。
「馬?」
「僕の馬、らしい。乗るのなら、君の許可を得ろと」
国府の厩に見に行ってみれば、思わず目を見張ってしまう程の見事な馬が一頭繋がれていた。これほどの馬は小夜の麾下にもそうはいない。和政や、小夜自身の物と同じほどの馬か。いや、それ以上か。それも、まだ若そうだ。
「まだ馬には慣れてないけど、凄い馬だって言うのは、何となく分かる。僕なんかが乗っていいのか、とも思う」
厩には五郎もいて、半ば怯えるようにして馬の周りをうろうろしている。
「名前は、聞いてる?」
しばらく馬に見惚れた後、小夜は口を開いた。
「朝雲」
まだ二歳ほどだろうか。師行が領地としている糠部郡は、陸奥でも最大の馬の産地だ。そこの若い馬の中から恐らく師行自身が選りすぐった物だろう。
師行の暁が若い頃はこんな馬だったのだろうか。
「勇人を鍛える事に関しては全部師行さんに任せたからね。勇人が乗りたいと思うのなら、乗ってみればいいと思うよ」
これから戦場に出る事になるであろう勇人への、師行からの餞なのだろう。
「乗りこなせるかな」
「私が教えてあげよっか?あまり、時間は取れないかもしれないけど」
和政に、と一瞬思ったが思い直した。愚直なほどに何事にも生真面目で私情を挟まない和政が、どうしてだか勇人を相手にしている時だけは感情的になっている気がする。理由は分からなかったが、必要が無ければ勇人と和政は離しておいた方がいいのかもしれない。
反りが合わない、と言う事は誰にでもあるのだろう。
勇人は、黙って頷いた。
近頃は小夜も忙しく、勇人どころか六の宮との時間すら十分に取れていなかった。今の内に一度、三人で馬の遠乗りをしてみてもいいのかもしれない。六の宮はまだまだ自分で馬に乗るには幼いが、それでも馬に触れてみるのには早すぎると言う事は無いだろう。
直に、小夜が自由に取れる時間は本当に無くなるはずだった。
足利尊氏の叛乱が起こり、陸奥から征西の軍を出す事を前提にした評定だった。誰が先陣を切るのか、と言う話から、師行が行朝を弱腰となじり、戦は南部に任せて伊達は征西の軍には加わるな、と言い出した。それに対して行朝も激しい言葉で猪武者と言い返し、騒然となりかけた場が宗広が間に入る事でどうにか収まった。師行と行朝の不仲には、諸将ももう慣れているようだ。
目に見えない所で、師行と行朝にどんなやり取りがあったのかは小夜にも分からなかったし、確かめる気もなかった。楓が何かしら動いたのかもしれない。
ちょっとした小技だった。これで評定の場にいた他の武士達には、征西の折、先陣を切るのは師行だと強く印象付けられただろう。
楓は、今小夜の元に集まっている武士達の中からも斯波家長の元に走る者が出る、と、ごく自然に考えている。その辺りは自分よりずっと強かだ。
尊氏は鎌倉から動かないまま、従二位に叙せられていた。朝廷が尊氏を抑える事を諦め、なだめに掛かったと言う事だが、小夜は気にしなかった。征夷大将軍の地位が尊氏に与えられるか、あるいはそれを自称し始めない限り、他の官職がどのように動こうと今は意味はない。
節度の無い朝廷の恩賞には、もう嘆く気力も湧かなかった。今の親政が始まった時から、ずっと続いてきた事だ。それがどれほどの歪みをこの国にもたらしてきたのか、堰を切ったように最大の叛乱が起これば、朝廷の人間達も少しは理解できるかもしれない。
大きな所で見れば帝の理想は正しい。だが急ぎ過ぎているし、周りの廷臣達の質があまりに低すぎた。
師行は数日の間国府に滞在し、また来た時と同じように三人で北へ戻って行った。
「師行殿が馬を一頭置いていかれたよ」
勇人が戸惑った様子で、伝えて来る。
勇人はあれからまた師行に直接鍛えられたらしく、いくつも新しい痣をあちこちに作っていた。鍛錬の厳しさは見て取れるが、それが尾を引いている様子はない。
「馬?」
「僕の馬、らしい。乗るのなら、君の許可を得ろと」
国府の厩に見に行ってみれば、思わず目を見張ってしまう程の見事な馬が一頭繋がれていた。これほどの馬は小夜の麾下にもそうはいない。和政や、小夜自身の物と同じほどの馬か。いや、それ以上か。それも、まだ若そうだ。
「まだ馬には慣れてないけど、凄い馬だって言うのは、何となく分かる。僕なんかが乗っていいのか、とも思う」
厩には五郎もいて、半ば怯えるようにして馬の周りをうろうろしている。
「名前は、聞いてる?」
しばらく馬に見惚れた後、小夜は口を開いた。
「朝雲」
まだ二歳ほどだろうか。師行が領地としている糠部郡は、陸奥でも最大の馬の産地だ。そこの若い馬の中から恐らく師行自身が選りすぐった物だろう。
師行の暁が若い頃はこんな馬だったのだろうか。
「勇人を鍛える事に関しては全部師行さんに任せたからね。勇人が乗りたいと思うのなら、乗ってみればいいと思うよ」
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反りが合わない、と言う事は誰にでもあるのだろう。
勇人は、黙って頷いた。
近頃は小夜も忙しく、勇人どころか六の宮との時間すら十分に取れていなかった。今の内に一度、三人で馬の遠乗りをしてみてもいいのかもしれない。六の宮はまだまだ自分で馬に乗るには幼いが、それでも馬に触れてみるのには早すぎると言う事は無いだろう。
直に、小夜が自由に取れる時間は本当に無くなるはずだった。
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