銀河悪役令嬢伝説~破滅したツンデレ悪役令嬢に転生して二人の天才と渡り合い、二分された銀河をなるべく平和的に統一しろと無茶ぶりされました~

マット岸田

文字の大きさ
9 / 30
転生編

第八話 親の七光りは最大限に活用するのが世渡りのコツである

しおりを挟む
 帝国宇宙軍の一個戦略機動艦隊には通常編成で大気圏突入能力を持った強襲艦四〇隻と惑星制圧・要塞攻略の専門家である空間突撃兵約二万名が配属されている。

 そしてそれとは別に各艦には敵艦からの白兵攻撃や小規模な偵察・制圧任務に備えた二十名から四十名の陸戦隊が配属されていた。

 エアハルトは私の任務部隊からその陸戦隊を抽出し、四百人程の上陸部隊を短時間で編成した。

 私は装甲指揮車に乗り、その上陸部隊の後方から惑星ハーゲンベックの地表を進んでいる。

 惑星ハーゲンベックはハーゲンベック侯爵領の首都星で、四億を超える人口を有する帝国でも有数の豊かな星らしいのだけど、今は宇宙空間での戦いからどうにか逃げ延びた損傷艦の上げる噴煙や、その損傷艦を追撃して攻撃を仕掛ける船の砲撃によって、地表のあちこちで黒煙が上がる、痛ましい光景を私の眼前にさらけ出していた。

 その、宇宙で繰り広げられるSF映画じみた光景が与える物とはまた別の生々しい破壊の気配が、ああ、私は戦争をしているのだなあ、と言う実感を引き起こして来る。

 ちなみに私が乗っている指揮車はごく普通の六輪駆動車だった。重力制御を応用した浮遊自動車エアカー歩行式移動機ウォーカーも実用化されているらしいが、コストや信頼性の問題から未だに戦場では昔ながらの装輪式や履帯式の車両が使われているらしい。

「あの砲撃」

 私は、すでに戦闘能力を失った巡洋艦に対し、執拗に攻撃を繰り返している一隻の駆逐艦を指して言った。放っておけば流れ弾が居住区まで飛んでいきそうだ。

「はっ」

 横にいた兵士が緊張した様子で答える。

「目障りよ、やめさせなさい」

「あの艦は、我が任務部隊の所属ではありませんが」

 兵士が軽く青ざめながら答える。

「それがどうしたの!?この私、ヒルトラウト・マールバッハがやめさせろと言っているのよ!?」

 私は渾身の演技力を発揮してヒステリックに怒鳴った。兵士が今度は真っ青な顔になると、慌てて通信機で連絡を取り始める。

 うん、許せ。君の行動は多分何人かの民間人を救うぞ。

 彼が通信を終えるとさほどの時間も掛けずに駆逐艦からの砲撃が止まる。
 こんな越権行為がまかり通ってしまうのはハンスパパの艦隊が軍事組織としてまともに機能していない証拠のような物だけど、今は私自身がその利点を最大限に生かしているのだから文句は言えなかった。

「敵の抵抗は今の所小規模のようです。次々と降伏して行っているようですね。ただ、すでに一部の味方部隊が略奪などを行っているようです」

 エアハルトが声に苦い物を交えながら報告した。

「お父様に繋いで」

「はい」

 すぐ指揮車のモニターに割腹のいい中年男性が映し出された。
 ヒルトの父であるハンス・フォン・マールバッハ公爵。帝国では皇帝と帝国宰相に次ぐ権威と権力を持つ、大貴族にして帝国宇宙軍上級大将・第三戦略機動艦隊司令官。

 娘であるヒルトと同じく生まれの高貴さと言う物の価値を疑っていない選民意識に凝り固まった人間ではあるが、カッとしやすい娘と比べれば優柔不断な分だけ温厚であり、意図的な悪意を他人に向ける事は少ない。

 ヒルトの前世では過激な娘に引っ張られる形で門閥貴族の代表としてクレメンティーネと敵対し、最後は敗死している。

 ステータスは……何か見たくもないけど……

 統率25  戦略56  政治60
 運営9   情報30  機動28
 攻撃48  防御32  陸戦43
 空戦40  白兵45  魅力80

 ……これに一個艦隊を指揮させるのは最早犯罪ですらあるな……

 統率25って私のほぼ半分じゃん。

「おお、ヒルトか。何かあったのか?」

 掃討戦に移っているとは言え、戦闘中の指揮官とは思えない吞気な様子でハンスパパは応じた。

「あ、パパ?制圧戦を行っている部隊が略奪をしているわ。すぐにやめるように全軍に厳しく通達して」

 私がそう言うとハンスは困ったような顔をして汗をふいた。

「ああ、それか。うむ、あまり乱暴な事はせぬようにと言っているのだがな。しかしまあ皆良く戦ってくれた事だし、勝ち戦で浮かれているのだろうし、そんなに厳しく言わなくても……」

 これでもまだマシな方、と言うのがだいぶどうしようもないんだよなあ……

「それよりヒルト、地上に降りていると聞いたのだが、あまり危ない事をしてはいかんぞ。後方から動かず、出来るだけすぐに自分の船に戻って……」

「もういい!私が自分でやるから!」

 私はそう言ってハンスパパとの通信を切ると代わりに全軍に向けてのオープン回線を開いた。

「第三戦略機動艦隊第四任務部隊司令、ヒルトラウト・マールバッハ准将です。艦隊司令ハンス・フォン・マールバッハ上級大将に代わって全軍に以下の通達を行います」

 全軍に私の声が響き渡った。

 うーん思えば私人前で喋るのそんな得意な方じゃなかったはずなんだけどな。
 自分でも不思議に思うぐらい堂々と喋れているのはヒルトの記憶が与える謎の自信のせいだろうか。

「捕虜並びに民間人に対する暴行、略奪、民間施設への破壊行為などを行い、皇帝陛下の臣民を害し、帝国軍並びにマールバッハ公爵家の威信と名誉を傷付ける者は、階級、身分の上下に関わらず、之を全て軍規に基づき厳正に処分します……名門貴族なら許されると思ってる奴がいたら大間違いだからね!」

 ……お前がやってる越権行為だって軍規違反だろう、と言う声がどっかから聞こえて来た気がしたが知るもんか。親の七光り万歳!

 この通達にどれほどの効果があるのかは分からないが、少なくともこれでクレメンティーネには私が良心的な人物である、と言う事は伝わってくれたはず……

 そう思っていたらそのクレメンティーネから通信が入った。

「マールバッハ准将、今の全軍への通達、お見事でした」

 クレメンティーネが相変わらず柔らかい笑みで言った。

「いえ、親の威光を借りただけです。褒められた物ではありません」

「権威も権力もどう用いるか、ですよ。それがどんな由来の物であるかは些細な事です」

 それはこの帝国では結構際どい発言では?と思ったが聞き流す事にした。

「マールバッハ准将、あなたに一つお願いがあります」

「何でしょうか?」

「3A=2地点で私の部下があなたの一族と対峙しているようです。向かっていただけませんか?私もすぐ向かいます」

 そうだった、私の従兄弟が二人、軍規違反でクレメンティーネの部下に射殺されるんだった。
 帝国軍は著しく規律を乱した者を上官が即決銃殺する事を認めている。さすがに滅多に適応される事は無いらしいけど……

 間に合わなかったかもしれないけど、急がないと。

「分かりました。すぐ向かいます。出来ればあなたの部下にも自重するようお伝えください」

「ええ。それで止まってくれればいいのですが」

 クレメンティーネが頷いた。

 何か、試されてる気配がするなあ。
 そう思いながらとにかく私は現場に向かう事にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

乙女ゲームに転生した悪役令嬢! 人気が無い公園で出歯亀する

ひなクラゲ
恋愛
 私は気がついたら、乙女ゲームに転生していました  それも悪役令嬢に!!  ゲーム通りだとこの後、王子と婚約させられ、数年後には婚約破棄&追放が待っているわ  なんとかしないと…

【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい

椰子ふみの
恋愛
 ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。  ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!  そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。  ゲームの強制力?  何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

転生賢妻は最高のスパダリ辺境伯の愛を独占し、やがて王国を救う〜現代知識で悪女と王都の陰謀を打ち砕く溺愛新婚記〜

紅葉山参
恋愛
ブラック企業から辺境伯夫人アナスタシアとして転生した私は、愛する完璧な夫マクナル様と溺愛の新婚生活を送っていた。私は前世の「合理的常識」と「科学知識」を駆使し、元公爵令嬢ローナのあらゆる悪意を打ち破り、彼女を辺境の落ちぶれた貴族の元へ追放した。 第一の試練を乗り越えた辺境伯領は、私の導入した投資戦略とシンプルな経営手法により、瞬く間に王国一の経済力を確立する。この成功は、王都の中央貴族、特に王弟公爵とその腹心である奸猾な財務大臣の強烈な嫉妬と警戒を引き寄せる。彼らは、辺境伯領の富を「危険な独立勢力」と見なし、マクナル様を王都へ召喚し、アナスタシアを孤立させる第二の試練を仕掛けてきた。 夫が不在となる中、アナスタシアは辺境領の全ての重責を一人で背負うことになる。王都からの横暴な監査団の干渉、領地の資源を狙う裏切り者、そして辺境ならではの飢饉と疫病の発生。アナスタシアは「現代のインフラ技術」と「危機管理広報」を駆使し、夫の留守を完璧に守り抜くだけでなく、王都の監査団を論破し、辺境領の半独立的な経済圏を確立する。 第三の試練として、隣国との緊張が高まり、王国全体が未曽有の財政危機に瀕する。マクナル様は王国の窮地を救うため王都へ戻るが、保守派の貴族に阻まれ無力化される。この時、アナスタシアは辺境伯夫人として王都へ乗り込むことを決意する。彼女は前世の「国家予算の再建理論」や「国際金融の知識」を武器に、王国の経済再建計画を提案する。 最終的に、アナスタシアとマクナル様は、王国の腐敗した権力構造と対峙し、愛と知恵、そして辺境の強大な経済力を背景に、全ての敵対勢力を打ち砕く。王国の危機を救った二人は、辺境伯としての地位を王国の基盤として確立し、二人の愛の結晶と共に、永遠に続く溺愛と繁栄の歴史を築き上げる。 予定です……

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...