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統合士 前編

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「ーーーーもう待つのはやめだ、潰せ」

 ゲルドルは嘲笑と共に、二体のドールにラボを破壊する様に指示を出した。
 ドール達は言葉に反応を示すと、鈍い音を立てて首を擡げ、整備道具が並べられた棚を掴み始める。

「待って、やめてくれよ!」

 セリエの声は届かず、ドール達によって工具棚はガシャリと大きな音を立てて床に散らばった。慌ててドール達を抑えようとするが、人間の力がドールに適うはずも無く、腕を払らわれセリエは床に叩きつけられた。

「うあッ!?」
「ひゃはは。あれだけ忠告してやったのを忘れたか? 俺がせっかく目を掛けてやっていたのに、それを無下にしたのはお前だ」
「あ……あたしはアンタらみたいな心ない職人にはなりたくない!」
「あン?」

 ゲルドルは詰め寄り、悔しさに歪む顔を覗き込んで嘲笑った。

「……そうか、じゃあ諦めな。今時こんなボロいラボは儲からねえ。ウチに来れば良い暮らしが出来たのによお!」
「ううッ……!」

 涙を堪えて拳を握る。
 人間はドールには勝てない。抵抗する手段が無いわけではないが、何よりドール達に手荒な真似はしたく無かった。

「…………」

 そんな彼女を見て、アウスは無言で前に出るとーーーーゆっくりとゲルドルの肩を掴み、力を込めた。

「あ? 何んだテメェ」
「そこまでです。ドール達に乱暴をやめさせて下さい」
「はあ? やめさせるワケねえだろう」
「……そうですか」
「ん?」

 ゲルドルを掴む手が白く発光した。

「お前、その光はーーーー!?」
「安心して下さい、ドール達は傷付けません」

 それだけ言い残すと、再び眩い光を帯びた手を握り込み、体を大きく翻して暴れるドール達の背後に回った。

「クー、セリエを頼んだよ」

 アウスの言葉にクオリアはコクリと頷く。
 そしてセリエの前に立ち、威圧する様な瞳でゲルドルに立ちはだかった。それを確認すると、アウスはそのまま二体のドールの背に手を翳してみせる。

「ごめんね、痛くないようにするから」

 ーーーーピシッッッ!
 短く音が響き、部屋が青白く染まる。
 その瞬間、ドールはプツリと糸が切れた操り人形の様に体勢を崩すと、その場に膝をついて沈黙した。
 ほんの瞬き程度の時間だった。あれだけ暴れていたドール達は一瞬で機能停止となり、静寂に包まれている。

「……まさか、その力」

 クオリアに睨まれたまま、ゲルドルは驚きを露わにした。いや、驚いているのはゲルドルだけでは無い。セリエも目を丸くしたまま、起こった出来事を理解しようと反芻している。

「……ク、魔導機巧士(クリエイター)の中でもドールの素体と偽魂に唯一干渉できるとされる、世界でも数少ない『統合士(シンセサイズ)』……だと?」
「『統合士(シンセサイズ)』……初めて見た」
「ーーーーさて」

 土埃を払い、眼鏡を掛け直すとアウスはゲルドルに向き直る。

「まだやりますか?」
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