吸血鬼を愛してしまった女剣士

守 秀斗

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第6話:ポール様と平民街へ

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 私が、失禁したことや、クロードのことを思い出してしょんぼりとしているとポール様が言った。

「スカートが汚れちゃったね。平民街へ行ったら洋服店に行って新しいのを買ってあげるよ」
「いえ、そんなことをしていただかなくても……」

「まあまあ、遠慮すんなって、おっと、その銀のナイフはしまってよ」
「あ、すみません」

 私が所持しているナイフは銀製だ。
 吸血鬼は銀が苦手であることは前から知っていた。

 このナイフも本当はアラン様暗殺作戦に使用するためのものだった。
 今はそんなことをする気は全くないけど。

「しかし、フランソワーズ、なんで君はそんな吸血鬼にとって危険な銀のナイフを持っているんだい」
「アラン様が警備隊長のマクシミリアン様にご命令したんです。私の護身用に使い慣れているナイフを返してやれって」

「ふーん、それでマクシミリアンは文句を言わなかったのかなあ。だって、君がその気になれば兄貴の心臓を一突きで殺せるんだろ、あの人、国王陛下の警備隊長だぜ」
「そうですが……あの、ポール様、私、今はアラン様を殺めようなんて、全く考えていません、信じてください……」

「うん、わかってるよ。そうか、マクシミリアンが君に銀のナイフを渡したのか、ふーん、マクシミリアンねえ」
「そうですね……」

「兄貴は自分には度胸があるってとこをマクシミリアンに見せたかったのかなあ。俺は銀のナイフなんぞ怖くないぞってな感じで」
「さあ、私にはわかりません」

 この吸血鬼が支配する国では、国王であるアラン様も食事の際は銀製の食器は使わず木製かガラス製、または陶器製のを使用している。鉄製のも使用することがあるがすぐに錆びてしまうのであまり使わないみたい。

 私は平民街へ行って、ポール様に新しいメイド服を買ってもらうことになってしまった。

 ポール様と平民街へ行く。
 吸血鬼たちがいろんなお店を開いている通りをポール様と歩く。

「ポール様、吸血鬼は銀が苦手と聞いてますが、他の金属は大丈夫なんですか」
「銀に似ているのでシルバーモンドって金属が苦手だな。身体に入ると動けなくなる。人間にはほとんど害はないみたいだな」

「えーと、確かその金属ってすごく軽くて空中を漂っているって聞いた事がありますけど」
「まあ、ほんの少量なら、大丈夫だけどね」

 洋服店に入るのだが、なぜかポール様が下着コーナーへ行く。

「おい、フランソワーズ、これを着たら、兄貴を悩殺できるんじゃないか」

 ヘラヘラ笑いながら、なんだかセクシーな下着を私に見せる。

「もう、そういうのはアラン様はお嫌いだと思います」
「そうか、けどすることはしてるんだよね、セクシーな下着なんていらないわ、そんなものなくても兄貴を興奮させることができるわよ、私のこの美しい身体でって感じかな」
「……あの、ポール様……」

 顔を赤くする私。

「あはは、冗談だよ、俺っていやらしいね」
「いえ……」

 結局、今、着ているのと似たようなメイド服を買ってもらったが、細かい刺繍とかが装飾されていてかなり値段が高い。

「あの、よろしいのでしょうか、こんな高価な服」
「いいんだよ、必要経費で落ちるから」

「あの、アラン様は贅沢は戒めておりますが……」
「だから、ケチケチしてたら経済は縮小していくばかりさ、ある程度使わないとね。さて、次は刺繍用の糸を雑貨店で買いに行くか」

 ヘラヘラしながら店を出て行くポール様。
 私はポール様を追いかける。
 聞きたいことがあった。

「あの、ポール様、アラン様についてお聞きしたいことがあるのですが」
「なんだい、兄貴の好きな体位か……って、俺ってホントいやらしいな、最低な吸血鬼だな、あはは」

「もう、ポール様……」
「あはは、悪い、悪い。で、なんだい、聞きたいことって」

 依然として、ヘラヘラしながら歩くポール様。

「あの……アラン様がお好きなものってなんでしょうか」
「兄貴が好きなのは君だろう」

「もう、ポール様、真面目に答えてくださいよ」
「真面目に答えているよ。君の事が好きなんだよ」

 うーん、そうじゃないんだけどなあ。

「あの、アラン様のご趣味とか、好きな事とかないんですか」
「趣味は君とベッドを共にする事、好きな事は君と愛し合う事かなって、ふざけすぎたかな、あはは」
「もう……」

「すまん、すまん。そうだなあ、兄貴が好きなものか、仕事だな」
「もう、ポール様、真面目に答えてくださいよ。アラン様には好きな食べ物とかないんですか!」
「そんな怒んないでよ。そうだなあ、タバコかなあ」

 ああ、確かによく吸ってらっしゃる。タバコと言っても火を点けて煙を吸うタバコではない。外見がタバコに似ているのでそう呼ばれているが、飴玉みたいなものだ。中身は例の人間の血液に似た果物の成分が入っている。

「それを聞いてどうすんの」
「贈り物をしたいと思いまして……タバコケースでも贈ろうかなあ」

「そんなのもう持ってるんじゃないの」
「……そうですけど、私の安い給金ではそれくらいしか買えないと思いまして」

「まあ、兄貴は君がプレゼントしたら大喜びすんじゃないの。で、夜にまた激しく燃えあがると」
「あの! 何が燃えあがるんですか、ポール様!」
「まあまあ、怒んないでよ、兄貴が愛するフランソワーズさん」

 ヘラヘラ笑いながら、やたら私をからかうポール様。
 私は単に感謝の印として、アラン様に贈りたいと思っているだけなんだけどなあ。

「しかし、タバコなんて兄貴も子供っぽいね」
「え、タバコって、人間の国では大人しか吸えませんけど」

「タバコを吸うって行為はお母さんのおっぱいを吸うことと同じさ。ストレス解消のために赤ちゃんの頃に戻ってリラックスしているんだよ。まあ、兄貴は君のおっぱいを吸ってリラックスしているのかなって、また、いやらしいことを言ってすまん。俺って本当にスケベだなあ、ウヒャヒャ!」
「もう、ポール様……」

 雑貨店で私は鉄製の安いタバコケースを買った。
 けど、アラン様は受け取ってくれるかなあ、こんな安っぽいの。

 他にも塗装剤やら、ポール様がイザベル様に頼まれた糸などを購入して帰る途中、ポール様に聞かれた。

「兄貴って君に政治の事とか相談したりすんの」
「いえ、そんなことは全くありません。話すのは世間話くらいですね。私に聞いても仕方がないと思いますから」
「そっか」

 再び、ヘラヘラしながら歩いていくポール様。
 何でそんなことを聞いたのかなあ。

 城に戻り、地下の隅っこの自分の部屋に戻る。
 タバコケースをしばし眺める。
 国王様に失礼かなあ、こんな安物。

 うーん、どうしよう、やっぱりちょっとアラン様にお渡しする勇気がでない。
 しばらく机の引き出しにでも入れておこうと私は思った。
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