洞窟のモンスター

守 秀斗

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洞窟のモンスター

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 オレが洞窟の奥で昼寝をしていると、また奴らが現れた。

「おい、出てこい! モンスター!」

 やれやれ。
 面倒くさいが仕方が無い。

 オレは棍棒を持って、立ち上がる。

 首や肩を回す。
 準備運動だ。

 あくびが出る。
 また下らない事の繰り返しだ。
 うんざりする。

 洞窟の入り口まで、ゆっくりと歩く。
 入り口には頑丈な扉を設置してある。

 扉の外でニンゲンたちが叫んでいる。

「我が父の仇、巨人族の怪物め。この醜いモンスター、覚悟しろ!」

 父の仇ってことは、こいつは息子か。
 何人も叩き潰しているので、誰の息子かなんてさっぱりわからない。

 もう息子が来たのか。
 ニンゲンたちは成長が早いな。

 キンキン声で騒いでいる。
 うざい奴らだ。

 醜いモンスターとオレを呼ぶが、外見はオレとニンゲンたちはあまり変わらない。
 ただ、体の大きさが全然違う。

 ニンゲンたちは、いつも四人から五人くらいの集団でやって来る。
 こいつらはこの山奥の洞窟から、はるか遠くにある平地で集団生活をしているのだが、たまに少人数で山に入っては、オレに襲いかかって来る。

 オレの方からニンゲンたちに害をあたえた事はないのだが。

「父の仇!」とか叫んでいるが、その父親もオレに勝手に襲いかかって来ただけだろう。

 モンスター討伐とかわめいている。
 こいつら頭がおかしいんじゃないのか。

 ユウシャとか名乗っている。
 勇気ある者という意味らしい。

 一方的に集団で殺しにかかる奴のどこが勇者かね。
 本当は集団生活に馴染めないだけじゃないのか。

 扉を開けた。
 今日は四人いる。

 どいつもこいつも、小さい奴らだ。
 背がオレの膝くらいしかない。

 前衛に男が二人。
 後衛に女が二人。

 いつものパターンだ。

「モンスター、覚悟!」

 先頭のニンゲンの男が剣を振りかざして、襲いかかって来た。
 オレはあっさりとそいつを棍棒で叩き潰す。

「グエ!」

 絶叫を上げて、全身から血を噴き出してそいつは絶命した。

 次にもう一人の男が叫んだ。

「よ、よくも勇者様を殺したな! 許せん!」

 斧で攻撃してくる。
 お前らが勝手に襲って来ただけじゃないかと、蹴っ飛ばして、洞窟の入口の壁に叩きつけてやった。

 そいつは動かなくなった。
  
 後衛の女二人が恐怖で震えている。
 しかし、こいつらはちょっと厄介なんだな。

 おそらくマホウというものを使うだろう。
 オレにはそんなものは使えない。

 女の一人が叫んだ。

「ファイアー!」

 空中に火の玉が出現して、オレの方に飛んできた。
 さすがに火には敵わない。

 さっとよけて、その女を踏み潰してやった。

「ギャア!」

 絶叫をあげてその女は絶命した。

 気が付くと、もう一人の女が、斧を持って倒れている男に手をかざしている。
 マホウで男を回復しているらしい。

 このマホウを使われると、ニンゲンたちは何度倒しても、また襲って来る。
 面倒だ。

 オレはさっさと二人とも一緒に棍棒で叩き潰した。
 四人とも絶命した。
 
 洞窟近くの川に行く。
 四人の死体を川に放り投げる。

 プカプカ浮きながら、川下に流れて行った。
 今日も下らん事をしてしまった。

 最初の頃は、襲って来るニンゲンたちを何とか説得しようと何度も試みた。
 オレを殺しても何の意味も無いと。

 実はニンゲンたちとは、なぜか言葉が通じる。
 しかし、言葉は通じるのだが、話が通じない。

 オレの言葉に耳をかたむける気が全く無いらしい。
 もう諦めて、最近は問答無用に叩き潰しては、死体を近くの川に流している。

 洞窟に帰る途中、木になっている果物を採取する。
 オレは果物や野草を食べて生きている。

 ニンゲンを食ったりはしない。
 いかにも不味そうだ。

 オレの左目は潰れている。
 前にニンゲンを追いつめたとき、そいつが必死に命乞いをした。

「お願いだから、助けてくれ!」

 土下座までしやがった。
 そのため、オレが油断したところを、そいつは矢を射った。

 矢が左目に刺さって、失明した。
 ニンゲンは卑怯だ。

 今は、右目だけで暮らしている。
 もちろん、オレの左目を見えなくしたニンゲンは叩き潰して、川に捨てた。

 そういえば、さきほどニンゲンが「父の仇」とか叫んでいたが、オレにも親がいた。
 母親はオレを産んですぐ死んだらしい。

 父親が育ててくれた。
 食べられる果物や野草も教えてくれた。

 結局、オレが小さい頃、病気で死んでしまったが。

 子供の頃、父親が言っていた。
 大昔、実はこの世界はオレたちの種族が支配していたらしい。

 しかし、お互いに争って滅んでしまったようだ。
 バカなことをしたもんだ。

 あまり、ニンゲンたちの悪口も言えないな。

 オレはウサギを飼っている。
 小さくて可愛い。

 草原で捕まえて、洞窟に連れて行った。
 最初はオレを怖がっていたようだが、すぐに慣れた。

 オレが触っても別に怖がらない。
 餌もそこらの雑草でいいので、飼うのには楽だ。

 ただ、ウサギと会話は出来ない。
 そこが寂しい。

 オレは孤独だ。
 いつかは死ぬだろう。

 しかし、あの卑怯なニンゲンたちに殺されるのはまっぴらごめんだ。

 ある日、棍棒を持って、ウサギと一緒に洞窟を出た。
 暗い洞窟にずっと居させるのも可哀想だと思って、たまに外でウサギを遊ばせてやっている。

 ウサギは適当に飛び跳ねながら、そこらの雑草を食べている。
 今日はいい天気だ。

 オレは、草原に横になり、少しうつらうつらとした。

 何か騒ぎ声がしているので、目が覚めた。
 ウサギがいない。

 騒ぎ声のところに近づくと、ニンゲンたちがいた。
 十人くらいいる。

 集団で、ウサギを切りつけたり、叩いたりしている。
 ウサギはニンゲンを襲ったりしない。

 酷い連中だ。
 ウサギは罠にかけられて逃げられないようだ。

「ファイアー!」

 一人のニンゲンが大声をあげた。
 ウサギに火の玉がぶつけられ、全身に火がついた。

 少し暴れた後、動かなくなった。
 死んだらしい。

「レベルアップだ!」

 ニンゲンたちが叫んでいる。
 こいつらは鬼畜だな。

 オレは激怒した。

「この醜いモンスターめ!」

 オレは叫びながらニンゲンたちを追い回した。
 可愛いウサギを殺して、「レベルアップだ!」とか騒いでいる、狂った連中だ。

 片っ端からニンゲンたちを叩き潰す。
 最後の一人が泣きながら懇願する。

「助けて下さい!」

 オレは当然の如く、棍棒で叩き潰した。
 叩き潰した奴を裏返すと、後ろ手にナイフを隠してやがった。

 やはり、ニンゲンどもは卑怯な奴らだ。

 叩き潰したニンゲンたちの死体を川に放り込む。      
 どうしてこうニンゲンたちと話が通じないのか。
 オレは静かに暮らしたいだけだ。

 ひょっとするとニンゲンたちとオレとは違う風景をみているのかもしれない。
 オレは今は片目だが、ニンゲンにやられる前は目が二つあった。
 ウサギも目が二つある。

 しかし、ニンゲンたちは生まれつき目が一つしかないからな。

〔END〕
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