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第20話:隠れ家から逃亡
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真夜中、下水道の隠れ家でマリーがうつらうつらしていると、突然、出入口がドンドンと激しく叩かれた。誰かが大きな石でふさがれている扉を無理矢理こじ開けようとしている。
「警察の者だ! マリー・オーガスト、おとなしく出てこい!」
大きな怒鳴り声が下から聞こえてきた。
ノエルが飛び起きる。
「やばい、隠れ家がばれた」
「なんで警察にここがわかったの」
「わからない。とにかくはしごを登って、上の出口から逃げよう」
ノエルは拳銃を腰に差し、帽子をかぶる。小箱の中から小銭やらを出してポケットに突っ込んでいる。
「外は寒いから上着を着て」
ノエルから黒いジャケットをマリーは渡された。
ノエルが地上へのはしごを登っていく。
マリーも続いて、はしごを登ろうとしたとき、ノエルに言われた。
「あれ、カバンは持って行かないの」
マリーはあわててカバンを肩にかける。
小さくて狭い縦穴の中を、ノエルに続いてマリーは必死になってはしごを登った。
二人は急いではしごを登る。
もう少しで出口というところで、下の方から怒声が聞こえてきた。
「降りてこい! マリー・オーガスト!」
隠れ家の扉が破られ、何人かの警官が中に入ってきたようだ。地上へつながっているはしごが付いている穴を見つけたみたいだが、しかし、狭くて大人の体格では登ってはこれないのだろう。
ノエルが出口のフタを開ける。貧民街の端っこにある建物の間の目立たないほんの狭い場所だ。ノエルが外に出てマリーの腕をつかんで引き上げた、その時、銃声が鳴った。
マリーの顔を銃弾がかすめる。
「キャア!」
悲鳴をあげてマリーが地上に倒れる。
「銃を使いやがった。なんだよ、いきなり撃ってくるなんて。どうなってんの」
ノエルもびっくりしている。
「マリー、今の弾、当たってないかよ」
「うん、大丈夫」
しかし、銃声なんて初めて聞いたマリーは体が震えてきた。しかも自分の体をかすった感触がある。ノエルに引っ張られてなんとか立ち上がった。
「マリー、しっかりして」
ノエルに励まされて、二人は一緒に貧民街を逃げた。今夜は黒い霧がひどい。前方がほとんど見えないくらいだ。
「携帯ランプ忘れちゃった。けど、あたしはここら辺をよく知ってるんだ。マリー、手をはなさないで」
ノエルに言われて、その手をしっかり握って、時々転びそうになりながらもマリーはゴチャゴチャした貧民街を走った。何人かの浮浪者に二人で逃げているところを見られたが、そんな事気にしてはいられない。
貧民街を抜けて、グレース川の川岸まで下りた二人。
渡し船がいくつか岸の上に並んでいる。
「とりあえず向こう岸へ行こう」
ノエルが船のロープを解いて、川まで引っ張り水面に浮かべて二人で乗った。
あまり大きな音を立てないように櫂を漕ぐ。
かなり川岸から離れたところで、一旦、落ち着いた。
「警官たちから見えないかしら」
「多分、見えないんじゃないかな。けど、おかしいなあ。この前、警察に追い回された時はすごい大勢で来たのに、今回は三、四人くらいだった」
ノエルが船の上から貧民街の方を眺めている。
すると、マリーがあわててノエルに言った。
「ノエル、どんどん船が流されていくみたい」
「おっと、やばい」
櫂を二人で必死に漕ぐ。
だいぶ下流に流されたがなんとか対岸に到着した。
二人は川岸に座って少し休むことにした。自分たちが逃げてきた貧民街は真夜中でおまけに黒い霧のせいでこちらからはほとんど見えない。
ノエルが対岸を指さして言った。
「多分、いま警察の連中は、向こうの貧民街を探し回っているんじゃないかな」
「ノエル、ごめんなさい」
「え、なんで謝るの」
「私がランプを点けたままにしたから、光が漏れてばれたんじゃないかと……」
「いや、あの下の出口から光が漏れるとは思えない。何度か試したことがあるから。多分、ボスがばらしたんじゃないかなあ、ベンのおっさんだよ。ただ、なんで今さらばらすのかわからない。勝手に下水道の中でどぶさらいをやったからかな。それとも、あたしがカバンをわざと下水道の中に蹴落としたって気づいたかもしれないなあ」
しばしの間、ノエルは考えた後、急に思い出したようにマリーに向かって言った。
「あれ? けど、そう言えば、さっきマリーの名前を叫んでたね、警官たちは」
「うん、確かに……」
「どうもおかしいなあ。ボスはマリーには全然興味なさそうだったのに。あと、今まで泥棒やって追われたことはあるけど、警官が後ろから銃を撃ってきたことなんて一度もないよ。もし銃弾が当たったらマリーは死んでた。つまり殺そうとしたわけじゃん。本当にマリーは何もしてないの」
「そんな、いきなり撃ち殺されていいような凶悪なことしてないわよ」
「そうだよなあ。まあ、とにかく、今のうちにこの街から出よう」
「どこに逃げるの」
「もうこの街にはいられないよ。機関車で逃げよう」
ノエルが立ち上がった。
「マリー、急ごう。逃げ回っているときに浮浪者たちがあたしたちを見ていたからね。船を使ったのも見られたかもしれない。そうすると、こっちの川岸の方まで警察の連中が探しにくるだろうし」
「けど、機関車ってこんな夜中に動いているのかしら」
「わからない。駅に行ってみないと」
うまいぐあいに二人が船で接岸した場所はダートフォード駅の近くだ。
蒸気機関車が集結している駅まで二人は走った。
まだガス灯が点いている駅で煙を出している蒸気機関車を見つけた。
汽笛が鳴る。
ゆっくりと蒸気機関車が動き出した。
「あの蒸気機関車に飛び乗ろう。昼間は客車とか走っているけど、あれは工場用のいろんな原料とかをダートフォード市に運んでいる輸送機関車じゃないかな」
「え、飛び乗るなんて怖くて無理」
臆病なマリーが尻込みする。
「大丈夫だって、勇気を出して。あたしが先に乗って引っ張り上げるから」
走り出した列車に近づいて、ノエルが先に一つの貨車の前面についているはしごに飛び乗った。
マリーは必死になって走る。
列車はどんどん速度を上げる。
「マリー、手を出して!」
ノエルが腕を伸ばした。
マリーは勇気をだして、ノエルの手を掴む。そのままノエルが引き上げて、なんとか貨車のはしごの部分を掴んで、列車に乗れた。
「ああ、怖かった」
「だから大丈夫って言ったでしょ」
「ノエル、この機関車どこに向かってるの」
「この方向だと、多分首都のローディニアに向かっていると思う」
「けど首都なんて行ったら、警官がいっぱいいてすぐ捕まってしまうんじゃないかしら」
「人がたくさんいるので紛れるのにはちょうどいいさ。田舎なんかに逃げたらかえって目立つよ。連行された伯父さんのことも気になるだろ。それに首都にはちょっとした知り合いがいるんだ」
そう言えば、ノエルは首都出身だったなとマリーは思い出した。
「警察の者だ! マリー・オーガスト、おとなしく出てこい!」
大きな怒鳴り声が下から聞こえてきた。
ノエルが飛び起きる。
「やばい、隠れ家がばれた」
「なんで警察にここがわかったの」
「わからない。とにかくはしごを登って、上の出口から逃げよう」
ノエルは拳銃を腰に差し、帽子をかぶる。小箱の中から小銭やらを出してポケットに突っ込んでいる。
「外は寒いから上着を着て」
ノエルから黒いジャケットをマリーは渡された。
ノエルが地上へのはしごを登っていく。
マリーも続いて、はしごを登ろうとしたとき、ノエルに言われた。
「あれ、カバンは持って行かないの」
マリーはあわててカバンを肩にかける。
小さくて狭い縦穴の中を、ノエルに続いてマリーは必死になってはしごを登った。
二人は急いではしごを登る。
もう少しで出口というところで、下の方から怒声が聞こえてきた。
「降りてこい! マリー・オーガスト!」
隠れ家の扉が破られ、何人かの警官が中に入ってきたようだ。地上へつながっているはしごが付いている穴を見つけたみたいだが、しかし、狭くて大人の体格では登ってはこれないのだろう。
ノエルが出口のフタを開ける。貧民街の端っこにある建物の間の目立たないほんの狭い場所だ。ノエルが外に出てマリーの腕をつかんで引き上げた、その時、銃声が鳴った。
マリーの顔を銃弾がかすめる。
「キャア!」
悲鳴をあげてマリーが地上に倒れる。
「銃を使いやがった。なんだよ、いきなり撃ってくるなんて。どうなってんの」
ノエルもびっくりしている。
「マリー、今の弾、当たってないかよ」
「うん、大丈夫」
しかし、銃声なんて初めて聞いたマリーは体が震えてきた。しかも自分の体をかすった感触がある。ノエルに引っ張られてなんとか立ち上がった。
「マリー、しっかりして」
ノエルに励まされて、二人は一緒に貧民街を逃げた。今夜は黒い霧がひどい。前方がほとんど見えないくらいだ。
「携帯ランプ忘れちゃった。けど、あたしはここら辺をよく知ってるんだ。マリー、手をはなさないで」
ノエルに言われて、その手をしっかり握って、時々転びそうになりながらもマリーはゴチャゴチャした貧民街を走った。何人かの浮浪者に二人で逃げているところを見られたが、そんな事気にしてはいられない。
貧民街を抜けて、グレース川の川岸まで下りた二人。
渡し船がいくつか岸の上に並んでいる。
「とりあえず向こう岸へ行こう」
ノエルが船のロープを解いて、川まで引っ張り水面に浮かべて二人で乗った。
あまり大きな音を立てないように櫂を漕ぐ。
かなり川岸から離れたところで、一旦、落ち着いた。
「警官たちから見えないかしら」
「多分、見えないんじゃないかな。けど、おかしいなあ。この前、警察に追い回された時はすごい大勢で来たのに、今回は三、四人くらいだった」
ノエルが船の上から貧民街の方を眺めている。
すると、マリーがあわててノエルに言った。
「ノエル、どんどん船が流されていくみたい」
「おっと、やばい」
櫂を二人で必死に漕ぐ。
だいぶ下流に流されたがなんとか対岸に到着した。
二人は川岸に座って少し休むことにした。自分たちが逃げてきた貧民街は真夜中でおまけに黒い霧のせいでこちらからはほとんど見えない。
ノエルが対岸を指さして言った。
「多分、いま警察の連中は、向こうの貧民街を探し回っているんじゃないかな」
「ノエル、ごめんなさい」
「え、なんで謝るの」
「私がランプを点けたままにしたから、光が漏れてばれたんじゃないかと……」
「いや、あの下の出口から光が漏れるとは思えない。何度か試したことがあるから。多分、ボスがばらしたんじゃないかなあ、ベンのおっさんだよ。ただ、なんで今さらばらすのかわからない。勝手に下水道の中でどぶさらいをやったからかな。それとも、あたしがカバンをわざと下水道の中に蹴落としたって気づいたかもしれないなあ」
しばしの間、ノエルは考えた後、急に思い出したようにマリーに向かって言った。
「あれ? けど、そう言えば、さっきマリーの名前を叫んでたね、警官たちは」
「うん、確かに……」
「どうもおかしいなあ。ボスはマリーには全然興味なさそうだったのに。あと、今まで泥棒やって追われたことはあるけど、警官が後ろから銃を撃ってきたことなんて一度もないよ。もし銃弾が当たったらマリーは死んでた。つまり殺そうとしたわけじゃん。本当にマリーは何もしてないの」
「そんな、いきなり撃ち殺されていいような凶悪なことしてないわよ」
「そうだよなあ。まあ、とにかく、今のうちにこの街から出よう」
「どこに逃げるの」
「もうこの街にはいられないよ。機関車で逃げよう」
ノエルが立ち上がった。
「マリー、急ごう。逃げ回っているときに浮浪者たちがあたしたちを見ていたからね。船を使ったのも見られたかもしれない。そうすると、こっちの川岸の方まで警察の連中が探しにくるだろうし」
「けど、機関車ってこんな夜中に動いているのかしら」
「わからない。駅に行ってみないと」
うまいぐあいに二人が船で接岸した場所はダートフォード駅の近くだ。
蒸気機関車が集結している駅まで二人は走った。
まだガス灯が点いている駅で煙を出している蒸気機関車を見つけた。
汽笛が鳴る。
ゆっくりと蒸気機関車が動き出した。
「あの蒸気機関車に飛び乗ろう。昼間は客車とか走っているけど、あれは工場用のいろんな原料とかをダートフォード市に運んでいる輸送機関車じゃないかな」
「え、飛び乗るなんて怖くて無理」
臆病なマリーが尻込みする。
「大丈夫だって、勇気を出して。あたしが先に乗って引っ張り上げるから」
走り出した列車に近づいて、ノエルが先に一つの貨車の前面についているはしごに飛び乗った。
マリーは必死になって走る。
列車はどんどん速度を上げる。
「マリー、手を出して!」
ノエルが腕を伸ばした。
マリーは勇気をだして、ノエルの手を掴む。そのままノエルが引き上げて、なんとか貨車のはしごの部分を掴んで、列車に乗れた。
「ああ、怖かった」
「だから大丈夫って言ったでしょ」
「ノエル、この機関車どこに向かってるの」
「この方向だと、多分首都のローディニアに向かっていると思う」
「けど首都なんて行ったら、警官がいっぱいいてすぐ捕まってしまうんじゃないかしら」
「人がたくさんいるので紛れるのにはちょうどいいさ。田舎なんかに逃げたらかえって目立つよ。連行された伯父さんのことも気になるだろ。それに首都にはちょっとした知り合いがいるんだ」
そう言えば、ノエルは首都出身だったなとマリーは思い出した。
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