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ダンジョンで美少女と出会った、ウォ! すごい美少女だ、興味ないっすね

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「ウォ! すごい美少女だ!」
「興味ないっすね」

 少し時間をさかのぼる。

 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治を生業としているしょぼいパーティーだ。

 今日は村の近くの大きい屋敷の下のダンジョンでスライム退治を依頼された。
 
「リーダー、ここダンジョンって言えるんすか。地下一階に大きい回廊があるだけ。しかも、煌々とランプが灯っていて明るいじゃないすか。ただの地下施設じゃないすか」

「けど、冒険者ギルドではダンジョンと説明を受けたぞ」
「リーダーが人生一発大逆転を狙って森のスライム退治じゃなくて、もっと他の仕事させろってうるさく言うからダンジョンって誤魔化したんじゃないすか。それで、結局、やる事と言えばスライム退治じゃないすか」

 確かに、ダンジョンで冒険するというよりは、でっかい屋敷の地下の廊下に出現したスライムを退治するという、なんだか害虫駆除業者みたいな仕事だな。
 いや、そんなことないぞ。

「確かに単純に見えるが、ここは複雑に廊下が迷路のように変化するんだ」
「全然、変化しないんすけど」

 そんな風に俺と相棒が話していると、前方から人が現れた。
 ウォ! すごい美少女じゃないか。

 少し、おどおどしながら俺たちに近づいてくる。

「おい、ダンジョンで美少女と出会って、いい仲になるって話を思い出したぞ」
「そんなことありえないっすね。特に我々のようなしょぼいパーティーには。だいたいリーダーのようなおっさんに美少女が惚れるわけないっすね」

 何だよ、いつになく冷静だな、相棒の奴。
 すると、美少女が俺たちに話しかけてきた。

「あの、すみません。道に迷ってしまって、他のパーティーのメンバーともはぐれてしまったんです、ご一緒させてくれませんか」
「パーティーだと、あんたも冒険者なのか」
「はい、回復魔法を少し使えます」

 相棒が俺にささやく。

「怪しいっすよ、何でこんな回廊で迷うんすか」
「うむ、確かにそうだ。もしかして、この美少女は実はどこかの国から逃げてきたお姫様とかじゃないのか。こういう冒険とかには慣れていないのだ。そして、彼女を助けた俺たちは英雄になるんだ」

「馬鹿馬鹿しい。そんなうまい話が俺っちらのパーティーに起きるわけないじゃないすか」
「うるさいぞ」

 しかし、冷静に考えれば相棒の言うとおりだな。
 とすると、まさか、この美少女は実は凶悪なモンスターが美少女に変身しているのではないか。

「おい、この美少女は実はモンスターで、そして、重大な秘密をもっていて、それが壮大な冒険話へと続いていくんではないか」
「そんなモンスターに見えないっすけどね、この人。ただの女の子じゃないすか」

 また冷静な相棒。
 しらけるぞ。

 まあ、とにかく俺は美少女に話す。

「わかった、あんたのパーティーとやらを一緒に探すか」
「はい、お願いいたします」

 さて、美少女を含めて三人のメンバーで回廊を進もうとしたところ、突然、スライムが美少女に襲いかかってきた。

「キャア!」

 俺はすかさず剣でスライムを斬り倒す。

「わあ、すごいですね、あっという間にモンスターを倒して」
「ふふん、大したことないよ、お嬢さん」

 すると、相棒がまたささやく。

「何カッコつけてんすか、今の最弱スライムっすよ」
「いいじゃないか、倒したんだから」

 さて、また進もうとすると、今、倒したスライムの死骸で足を滑らせてスっ転ぶ俺。
 情けない。

「やれやれ、カッコつけて浮ついているからっすよ。大丈夫ですか、リーダー」
「うーん、せっかく治った右足を床に打ってしまった」

「えー、また治るまで宿屋で昼寝っすか」
「いや、大したケガじゃない」

 すると美少女が言い出した。

「あの、回復魔法をかけましょうか」
「おお、頼むぞ」

 美少女が俺の右足に手をかざして光を当てた。
 うーん、あんまり効果がないな。
 けど、ほんの少し痛みがひいた。

「うむ、ありがとう。だいぶよくなったぞ」
「すみません。私、まだ修行中で」
「いや、すっかり治ったぞ」

 まあ、本当は少しまだ痛かったのだが。
 すると、また相棒がささやく。

「なんだかちゃんと治ってないみたいじゃないすか。ちゃんと治せって言ったらどうすか。本人のためにならないすよ」
「いいんだよ、可愛いは正義って言葉もあるしな」

「そんないい加減だから、いつまで経ってもスライム退治しかできないんすよ」
「うるさいぞ」

 実際のところ、ほとんど効果は無かったが、これから修行していけばいいんじゃないかな。
 そんなことを考えていたら、前方から四人組がやってきた。
 皆、若い。

 こっちに駆け寄ってきた。
 美少女もそっちへ駆け寄る。

 何だかリーダーらしきイケメンと抱き合っている。
 そのイケメンが俺に話しかけてきた。

「すみませんでした、我がパーティーのヒーラーを守ってくれて」
「ああ、いや大した事ないぞ。ところで君たちは全員冒険者か」
「そうですね」

「いつ、冒険者ギルドに登録したんだ」
「今日ですね。本日から冒険者として活動を始めたんですよ」

 それを聞いた相棒がまた俺にささやく。

「冒険者経歴わずか一日の連中と同程度に見られているってわけですかね、俺っちらのパーティーは」
「ううむ、残念ながらそう言わざるを得ない」

 そして、その美少女はパーティーのメンバーと仲良く回廊を歩いていく。
 俺は昔を思い出す。

「最初の頃は最弱スライムが相手でも大興奮したものだったなあ。若い頃が懐かしいよ」
「で、結局、ダンジョンで美少女との出会いで仲良くなるなんてのは伝説ってことでいいすかね」

 やれやれ。
 そういうことだな。
 所詮、おっさんがモテることなんてないわけだ。

「しかし、お前、今日はやけに冷静だったな。と思ったら、確か、お前、女に興味はなかったな」
「そうっすね。あのイケメンリーダーは好みだったすけど。まあ、あのヒーラーが恋人っぽかったんで話しかけなかったすけど。ところで、リーダーの人生一発大逆転計画はどうなってんすか」
「まだ考えているんだ」

「やめたほうがいいっすよ、スライム退治でまたスっ転んでるだから」
「うるさいぞ」

 しかし、いまだになんのいいアイデアも浮かばない。
 いや、俺はまだ生きている。

 死ぬまでに何とかしてやるぞ。

〔END〕
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