スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第121話:猫の集会があったんだ、何をしているんだ、情報交換って噂もありますね、あの宿屋には歯抜けのおっさんが猫缶をいっぱい持ってるぞって

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「じゃあ、出発しますかね」
「おう。じゃあ、猫よ、行ってくるぞ」
「ニャー」

 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 そして、今は宿屋の屋根裏に猫と住んでいる。
 
 さて、俺はいつものように手押し車を押しながら冒険者ギルドを目指す。

「まだ腰の具合が悪いんすかね、リーダーは」
「いや、調子はいいのだが、この手押し車って楽なんだな。体を支えてくれるから」

「ホント老人っすね、もう引退して冒険者年金事務所の事務員に転職したらどうすか」
「うむ、そう考えている」

「あれ、いつもならドラゴン退治をしてからだとか騒ぐくせに。どうしたんすか」
「猫の今後を考えると生活を安定させなくてはいかんからなあ」

「何だか、猫中心の生活になってますね」
「うむ、でも生き甲斐が出来て俺は嬉しいぞ」

「もう完全に冒険者物語から猫好き老人日記ですね。誰も興味を持ちませんね」
「うるさいぞ。でも、猫タワーは作ったが、猫用のエサ、猫の爪とぎ板、猫バッグといろいろと揃えねばならん。やはり大物モンスターを倒したい」

「なんすか、結局、モンスター狙いすか」
「そうだな。出来ればドラゴン退治して、でっかい屋敷を買って、猫と暮らしたい」

「ドラゴン退治なんて無理っすよ。まあ、美少女姫が出てこないだけ、多少は現実を見るようになったみたいっすね」
「いや、美少女姫も諦めてはいないぞ。もしかしたらあの子猫は悪の魔法使いに猫にされてしまった亡国のお姫様ではなかろうか」

「また、下らない妄想してますね。全然変わってないじゃないすか」
「うるさいぞ。人生、何が起きるかわからないだろ」

 さて、相棒と下らん会話をしつつ、冒険者ギルドへ。
 で、頼まれたのはいつも通りのスライム退治だ。

「さあ、張り切って行くか」
「どうしたんすか。いつもはだらだらと目的地へ、ブツクサ文句を言いながら向かうのに」

「まあ、これも猫のためだな」
「すっかり猫爺さんすね」
「うるさいぞ。まだ爺さんではない」

「じゃあ、猫おっさんすね」
「うるさいぞ」

 さて、指定された場所。
 村の近くの林。

 何ともつまらん仕事だな。
 しかし、けっこうスライムが発生している。

「でも、毎回毎回、つまらん仕事だなあ」
「しょうがないんじゃないすかね。他に仕事が無いんすから」

「それにしても、この冴えない林の中でスライム相手に剣を振るっていると、かえって冒険者としての腕が鈍りそうだ」
「リーダーはもともと大した力量がなかったから、鈍る余地もないんじゃないすか」
「うるさいぞ」

 しかし、相棒が言う通り、剣士としては大した腕ではないんだな。

「まあ、せいぜい二流の剣士なんだよなあ、俺は」
「二流でも地道にやっていけばいいのに、わけのわからないドラゴン退治妄想をしたあげく、道を誤って人生転がり落ちてしまったわけっすね」
「うるさいぞ。よし、俺の華麗な剣技を見せてやる。覚悟しろ、スライム!」

 俺はバッサ、バッサとスライムを倒していく。

「どうだ、俺のこの剣技は。蝶のように舞い、蜂のように刺す。華麗な舞のようだろう」
「どこがですか。歯抜けのハゲデブブサイクのおっさんがフラフラと剣を不様に振り回しているだけじゃないすか。おまけに相手は最弱スライム。どうしようもないすね」

「おいおい、だいたいお前こそ、さっきから一匹も倒してないじゃないかよ」
「リュウマチで腰痛持ちのリーダーがクルクルと回って剣を振っているので、倒れないかと心配なんすよ」
「うるさいぞ。お前も働かんか……あれ、おかしいぞ」

「どうしたんすか」
「うーん、めまいがする」

「しょうがないすねえ。カッコつけて回転なんてするからですよ。少し休んだらどうすか」
「やれやれ。仕方が無い」

 俺は木陰で休む。
 おっと、いきなり不穏な雰囲気がしてきたぞ。

「おい、ちょっと静かにしろ」
「どうしたんすか」

「誰かが狙っているぞ」
「誰もいないすよ」
「いや、長年の冒険者としての勘だ。気配がするぞ」

 俺はさっと身を振り返す。
 すると、野良猫がいた。

「ニャー」
「なんだ、猫かよ」

「それが長年の冒険者としての勘すかね、しょうもないすね。相手は猫ですよ」
「うるさいぞ」

 しかし、この猫もかわいいな。

「おい、猫よ、俺の泊っている屋根裏には猫缶がいっぱいあるぞ」
「ちょっと、また一匹、猫を飼うんすかね。そして、いつの間にか、猫でいっぱいになって、飼うことが出来なくなるのがオチですよ、歯抜けのリーダーは」
「うるさいぞ。猫二匹くらい飼えるわい」

 しかし、猫はさっさとどっかへ行ってしまった。

「ほら、このハゲデブブサイクのおっさんは頼りにならないなって感じで猫も去ってしまいましたっすね」
「うるさいぞ。でも、まあ野良生活が好きな猫もいるだろうからな」

……………………………………………………

 さて、つまらんスライム退治を終えた後、宿屋の屋根裏で山菜料理を食べて、寝る。

 今は夜中。
 俺はそっと起きる。

 猫ハウスで寝ている、我が猫を起こさないようにそっと屋根裏の蓋を開ける。

「何やってんすか、リーダー」
「しっ! 猫が起きるだろ。例の夜間頻尿だ」

「なんだ、便所ですか。やけに慎重に動いているので、何か起きたのかと思ったすよ。猫くらい気にしなくていいのに」
「うるさいぞ」

 でも、ホント猫中心の生活になった。
 冒険者とは言えないなあ。

 しかし、俺の生きがいになっているのは事実なのだ。
 そんなわけで、そっと下の階に降りる。

 便所へ行って、戻ってくる。
 あれ、猫がいないぞ。

「おい、猫はどうした。まさか、お前が食ったんだじゃないだろうな、山菜に飽きて」
「何言ってんすか。食ったりしませんよ。でも、いつの間にか、居ませんね」

 俺は屋根裏をウロウロと歩き回る。

「見当たらないぞ。どうした、どこに行ったんだ」
「散歩じゃないすかね、戻ってきますよ。俺っちは寝ますよ」

 そのまま毛布にくるまって眠りこける相棒。
 しかし、俺は心配で仕方が無い。

「おい、ちょっと外に出かけてくる。猫が誘拐されたのかもしれん」
「何で屋根裏で住んでいる普通の猫を攫うんすか。誰っすか、そんなことするのは」

「悪の魔法使いの仕業かもしれん。猫を奪って、将来、英雄になる俺のやる気を失くそうとしているのだ」
「また、しょうもないこと言ってますね。その職業『悪の魔法使い』が何でハゲデブブサイクの歯抜けのリュウマチ持ちの爺さんのやる気を失くさなくてはいけないんすか」

「うるさいぞ。とにかく、外に探しに行ってくる」
「ほっとけば戻ってきますよ」

 しかし、俺は心配で仕方が無い。
 屋根裏から降りて、宿屋から出る。

 周辺を探す。

「おい、猫よ、どこに行った!」

 携帯ランプを照らして、そこかしこを探す。
 うーん、そう遠くには行かないとは思うのだが。

 お、すると、空地に大勢の猫がいるぞ。
 うーん、これが夜の猫の集会というやつか。

 何十匹もいるなあ。
 おっと、我が猫もいる。

 そして、昼間に会った猫もいるなあ。
 いったい、何をしているのだろうか。

 しばし、見ているが、俺の宿屋のすぐ近くだし、邪魔するのはよくないだろう。
 そっと、俺はその場から離れた。

 宿屋の屋根裏に戻る。

「猫は見つかったんすか」
「それが宿屋のすぐ近くで大勢の猫がいたんだ。猫の集会ってやつだな。その中に我が猫もいたぞ。でも、あれはいったい何をしているんだろう」

「よくわかってないみたいっすね。情報交換って噂もありますね。あの宿屋の屋根裏にはハゲデブブサイクのおっさんが居て、猫缶をいっぱい持ってるぞって、うちの猫が報告しているかもしれませんね。そして、ああ、その鈍臭いリュウマチ持ちのおっさんなら今日見たぞって会話をしてるんじゃないすか。そのうち、大挙して猫が乱入してくると思いますよ、猫缶狙いで」
「うるさいぞ。猫が、俺がリュウマチ持ちなんて、わからないだろが」

「それにしても、昼間は退屈なスライム退治。夜は猫の集会の見学。リーダーは全然冒険してないすね。面白くもなんともないすね」
「うるさいぞ。もう猫だけの生活ではない。明日から本当に冒険してやるぞ」

 おっと、猫が帰ってきた。

「うーん、やはりかわいいな」
「なんすか、結局、猫中心の生活で終わりそうっすね、リーダーの人生は」
「うるさいぞ」

 でも、そうなりつつあるな。
 うーん、少しは冒険するか。
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