孤児院育ちのエイミー

守 秀斗

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第5話:冒険者になった

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 次の日、三人で掘っ立て小屋がある川辺の反対側にあるシロイノ村ってとこの冒険者ギルドに行って、あたしはアレックスたちのパーティに登録することになった。冒険者ギルドは、この国でモンスターの退治などをする冒険者の世話をしてくれるところで、だいたい各村に一つある。

 けど、あたしは何の武器も持ってないじゃん。「武器が無いんだけど」って、アレックスとクリスに文句を言ったら、「これを貸してやる」とクリスがナイフを一本手渡してくれた。武器がナイフってことは、職業はシーフ、泥棒ですか。どうせなら魔法使いになりたいなあ、魔法なんて出来ないけど。

 ところで、あたしが何で魔法使いになりたいかというと、鳥のようにスイスイと空を飛んでみたいなあ、気分良さそうだし、面白そうだなあという単純な理由。飛行魔法とか鳥魔法ってあるかの知らんけど。マルセル孤児院で屋根に登って紙飛行機を飛ばして遊んでいた時、鳥さんたちが大勢、夕日に向かって大空を飛んでいくのを見て羨ましかった。ああやって、自由に空を飛んでみたい。

 さて、あたしもいつの間にやら冒険者だ。お父さんと同じ職業についたんだ。嬉しいぞ。ところで、依頼は何だろう。まさか、いきなりドラゴン退治とかはないよね。「何すんの?」とアレックスに聞くと、「スライム退治さ」って返事。また最弱スライム退治か。まあ、このメンバーじゃしょうがないね。シロイノ村の周辺の森とかに出没するスライムを退治しに行くことになった。

 ところで、あんたらはなんで冒険者になったんだと聞いたら、二人は幼馴染で、小さい頃から冒険者に憧れていたそうだ。家から飛び出て冒険者稼業。親には勘当されたと言っている。勘当してくれる親がいるだけ、あたしよりましだなあ。まだ、親は生きているんだから。

 あたしのお父さんは、あたしが二歳の頃、死んだ。そのため、お母さんが一人であたしを育ててくれた。兄弟姉妹や親戚はいない。しかし、お母さんもあたしが四歳の頃病気で死んだ。それで、マルセルさんの孤児院に引き取られたんだ。両親の顔は、一応、ぼんやりと記憶にはある。あたしが思い出すお父さんとお母さんはいつも微笑んでいる。あたしにはやさしかった思い出しかない。

 お父さんは冒険者で、剣士。おまけに魔法も使えたそうだ。「ヒーローは一人で戦うもんさ、いつも笑顔でな」というのが口癖だったらしい。お父さんがあたしを抱き上げながら、そう言ったのを覚えている。まあ、実際はパーティで行動していたらしいけど。他にも、「信頼できる仲間を作れ、いざとなったら仲間のために命をかけろ、大切にしろ」とも言ってたなあ。

 お母さんは普通の人。どこで、お父さんと知り合ったのかわからないけど。お母さんがよく言っていたことを思い出す。「人にやさしくしなさい、虐めたりしてはだめよ、困っている人がいたら助けること、悪い事をしてはいけない、周りから褒められるようなことをしなさい、自立できるよう、しっかりと考えて行動してね、人から助けられたら、ちゃんとお礼をするの、女の子だからといって、おじけずに立派な仕事をするの、一生懸命頑張るのよ」と。

 うーむ、虐めとかはしてないけど、褒められることもしてないな。お母さん、ごめんなさい。真面目な人だったんだろうなあ。働き過ぎで、体を悪くして死んじゃった。けど、二歳とか四歳の頃の記憶だから、お父さんのこともお母さんのことも全て本当かどうかわからないなあ。約十年前か。お父さんの顔も本当はよく覚えていない。記憶では二枚目だけどあたしの願望かもしれないなあ。

 なんて、悲しいことを考えていたら、村の近くの雑木林で青色のスライムがヒョコっと三匹出てきた。アレックスが剣を振るが、あっさりとよけられる。クリスは矢を放つが、はずしてしまった。焦った二人がスライムに追いかけられている。そこで、あたしがナイフを投げたら、先頭のスライムを貫通して、ついでに残りの二匹も貫通した。まとめて、三匹のスライムを倒した。アレックスとクリスに、「お前、すげーな! どこで覚えたんだよ」と驚かれた。これも毎晩、孤児院で枕を投げまくってたおかげかなって、それはないか。まあ、偶然かな。

 他にも何匹か同種の最弱スライムを倒しあっさりと仕事が終わったので、冒険者ギルドに報告した後、小屋に戻って川に行き二人から渓流釣りを教えてもらった。中州から魚がいそうな場所に、釣り竿で魚が食べている昆虫にそっくりに作った毛バリを川底付近へ撫でるように流す。川の流れは表面ほど速く、底になるほど遅いようだ。釣り糸には重りが付いていて、エサを待ち構えていた魚が毛バリに食い付いたところを釣りあげる。

 スライム退治より、こっちの方が面白いと何匹か川魚を釣った。今夜の夕食は焼き魚だと、焼いて塩をかけて三人で食べる。美味しいぞ。机の下で、黒猫のニャーゴも美味しそうに食べている。こういう生活も楽しいな。クリスは渓流釣りが大好きみたいだけど、アレックスは、本当は静かな湖や池でじっくりと釣りをするのが好きみたいだ。性格は、クリスが短気で、アレックスは気長って感じ。

 狭いテーブルに座って、今日のスライム退治の事などをしゃべりながら魚を食べていると、お尻が痛い。何だろうと思ったら、スカートのポケットから針金が出てきた。これは、孤児院の地下倉庫で拾ったものだな、すっかり忘れていた。

 それを見たクリスが、「いい事を教えてやろう」と、部屋の隅から壊れた小さい金庫の扉の部分だけ持ってきた。針金を曲げて、鍵穴に差し込みあっさりと鍵を開ける。「もしかして、あんた泥棒だったのか」と聞くと、「親が泥棒で、そんな稼業を継ぐのもいやで、家を飛び出たんだよ、冒険者の方がカッコいいもんな」って、クリスはなんとなく恥ずかしそうにしている。

 けど、冒険者にもシーフって職業があるじゃないか、今のあたしがそうじゃないか、どういう違いなんだろう。よくわからんが、まあいいか。クリスは、あたしに鍵の開け方を教えてくれた。けど、なかなかうまくいかない。頭が悪いとダメなのかなあ。とは言うものの、クリスが丁寧に指導してくれたのでなんとか開けられるようになった。

「教えてくれてありがとう。ただ、あたしは、やっぱり魔法使いになりたいなあ」とクリスに、あたしが前々から考えていたことを教えたら、「なんで、魔法使いになりたいんだよ」と聞かれたんで、「魔法を使って、鳥のように空を飛んでみたいんだ」と答えた。
 
 そしたら、「気球に乗るってのは、どうなんだ」と二人に聞かれた。気球。なんとなく聞いたことがあるなあ。「気球って、なんだっけ?」と聞いたら、「布を大きい袋状にして、その中に熱した空気を入れ込むと浮かぶんだ」と教えてくれた。

 クリスが家の外に出てちょっとした、たき火を焚いて紙切れを上で離すと、上にひらひらと昇っていく。空気とは熱すると上昇するらしい。それを布の袋に集めると浮かぶ。これは、孤児院で夜中に遊んでいた、紙袋を叩いたり蹴ったりして、空中に上げて遊んでいたのと同じだな。人間の力の代わりに空気がその役目を果たす。頭の悪いあたしでもわかる簡単な仕組みだな。興味を持ったあたしは気球を作ってみることにした。アレックスとクリスたちも協力してくれることになった。

 シロイノ村に行って、村人から使わなくなった布をめぐんでもらったり、安く買い取ってきてつなぎ合わせる。三人で仕事の合間に二週間くらいかけて縫い合わせていたら、けっこう大きい球形の袋が出来た。アレックスたちの家の近くで、大きい板や木片をつなぎ合わせてゴンドラを作る。五、六人は乗れそうな大きさになった。ゴンドラに袋をつないで、一旦、球形状に広げる。ゴンドラに鉄の箱を置いて、その中で火を焚いてみると、少しづつ、袋の中の空気は温められて膨らんでいく。

 あたしとクリスがゴンドラに乗り込む。もっと火を焚くとますます大きく布袋は膨らんでいく。そこで重りの砂袋を外に出すと上昇を始めた。どんどん上がっていく。ゴンドラには長いロープが付いていて、気球が風に飛ばされないように太い木の根元に巻いてある。森で一番大きい木の上あたりまで昇っていった。なかなか見晴らしが良くて楽しい。森全体が見渡せる。こうして見るとかなり大きい森だ。「案外、うまくいったなあ。気持ちいいぞ」とクリスも喜んでいる。
 
 うーん、確かに楽しいんだけど、なんとなく、ただ浮かんでいるって感じだなあ。あたしがそう思っていると、気球の遥か上空を鳥たちが飛んでいるのが見えた。この気球という乗り物は、あたしの理想とする鳥のように空を飛んでみたいという願望と違うなあ。

 そんなことを考えていると、突然、気球が移動をはじめた。いつの間にか、木にくくりつけていたロープが木の枝に擦れたのか、切れてしまったようだ。風に乗ってどんどん流されて上昇していく。下を見ると、アレックスがあわてて気球を追いかけて、切れたロープに飛びつこうとしているがうまくいかないようだ。これはまずいと、クリスがゴンドラの中の火を消したのだが焦っていたのか布に火の粉がついて燃え出した。

「やばいぞ!」とクリスと一緒に布を叩いたりして、なんとか火を消すのに成功したが袋に穴が開いて、空気が抜けて急降下していく。ひえ、この若さで墜落死すんのはいやだよと思っていたら、結局、森の木の枝に絡まったりしながら、ずるずるとずっこけて落下していく感じで地上に、ドスン! と落ちてしまった。「お前ら、大丈夫か!」と、アレックスが追いついてきた。ケガはしなかったけど、危ないとこだった。

 あたしは協力してくれたアレックスとクリスにはお礼を言ったけど、なんか、この気球みたいに浮かぶんじゃなくて、他に鳥のようにスイスイと空を飛べるもっといい方法はないのかなあと考え込んだ。やはり修行して魔法使いになるしかないのだろうか。一般人には不可能なのかなあ。それとも、他にあたしの知らない方法があるのかな。

 さて、次の日は、森の中でイノシシ狩りを行うことにした。これも、けっこう大事な仕事のうちの一つだ。貴重な食料源の確保となる。但し、落とし穴とかトラバサミのような罠とかは、人がひっかかる危険があるので森の中で設置するのは禁止されている。あたしは、なんとなくイノシシという生き物は夜行性かと思っていたら、昼間に活動するようだ。臆病なので、人をさけるため夜に行動しているように思われているみたい。「イノシシは鼻がいいので、風下で待ち伏せするのがいい」とクリスが教えてくれた。

 さて、けもの道でイノシシを待ち伏せすることにした。二人からは、お前は脇で見物してろと言われたので、少し離れて獲物が現れるのを待つがなかなか現れない。じっとしていると、なんだか眠くなってきた。うつらうつらして、ふと気がつくと、すぐ近くに巨大なやつが現れた。

「うわ!」っと思わず大声を出してしまった。あたしの倍はあるんじゃないかと思われるような、大きいイノシシだ。イノシシが突進してきた。クリスが焦って弓矢を放つが、失敗。アレックスの剣も空振り。怒ったイノシシに二人が逆に追い回されている。ついには、巨大イノシシがあたしの方にも襲いかかってきた。

「ひえー!」と悲鳴をあげて、あたしは逃げる。大木の根元に追い詰められた。そのイノシシがあたしに突進してきたところを、さっとよける。そいつは頭を大木にぶつけてぶっ倒れた。急所にでも当たったのか、動かない。あっさりと倒すことができた。「お前、やっぱりすげーな!」と二人から褒められた。まあ、単に逃げただけですけど。しかし、これで当分、食べ物には困らないな。イノシシの肉は塩漬けにして、火で燻製にして保存食にした。

 その後、一か月くらい、スライムを倒しては小銭を手に入れ、後は、川で釣りをやったり、山菜を採りに行ったり、イノシシを追ったり、追い回されたり、汗をかいたら釜の風呂に入って温まったりといった生活を送った。アレックスとクリスはいい人たちだけど、あんまり剣とか弓矢は得意じゃないみたい。スライムの方は、だいたいあたしが倒した。

 ある日、シロイノ村の冒険者ギルドに報告に行った帰り、木の板が大量に放置されているのを見つけた。廃屋を壊したんで古い木の板などが捨ててある。村の人にことわってそれを全部もらってきた。あたしは、孤児院に住んでた時の、「階段手すり滑り台遊び」を再びやりたくて、森の中に滑り台を作ることにした。フィリップ爺さんが作った滑り台は一度も滑ることなく潰れちゃったんでね。

 アレックスとクリスにも手伝ってもらって、廃板をつなぎ合わせて滑り台上にする。けっこう材料が多かったので大木の上の方からまっすぐ下りる途中で曲げてみたりと、森の中をウネウネと滑りまくる大きいものができた。滑るときお尻が熱くなるので、この前、墜落した気球の布を下にひき滑ることにした。かなり速くて面白い。ゴール地点はアレックスとクリスの家近く。

 少し高いところで滑り台が切れていて、最後は飛び上がって着地する。滑る途中で、引っかかって途中で落下したり、滑るというよりゴロゴロと転がりながら落ちることもあったけどね。けど、それがかえってスリルがあって、あたしとクリスは面白がって何度も滑って遊んだんだけど、アレックスはあんまり遊ばない。どうやら速いのは苦手のようだ。「俺はビビリだからな」となぜかアレックスが胸を張っている。あたしは、この滑り台を、「ウネウネ滑り台」と名付けた。やっぱりセンスがないね。

 他にも、休日には、釣りの他、石を川に投げてどこまで跳ねて飛ぶか競い合ったり、旗を立てただけの四角い小さい木片をボートに見立てて川でレースをしたり、冒険者ギルドで余っていたチラシなどをもらってきて紙飛行機を作って、木の上からどこまで飛ぶか競ってみたりと楽しく過ごした。

 それから、いつまでも固い床の上で寝るのは嫌なので、あたしはアレックスたちの掘っ立て小屋のすぐ近くにある大木の枝の上に小屋を作ってそこで暮らすことにした。小屋と言っても眠れるスペースがあるだけの鳥小屋みたいに小さく、入口は単に丸い穴が開いているだけだ。その中に毛布を何枚か入れると横になって眠ることしかできない大きさだが、結構快適だ。冷たい床より暖かい。おまけに周りを見下ろしているのでちょっと偉くなった気分だな。

 それを見たアレックスとクリスが、自分たちも何か作り始めた。ハンモックを作ると言いだし、知り合いの川の漁師から古い網を貰ってきて、いくつかの木の間にかけたんだけど、ちょっと大きすぎる。十人くらいは一度に眠れそうな広さになってしまった。三人とニャーゴも入れて、みんなでハンモックの上をゴロゴロ回ったり、飛び跳ねたりして、遊んで楽しんだ。

 そんなこんなで、三ヵ月が過ぎようとした、そろそろ秋になろうかという、ある日のこと。例によって、スライム退治の仕事がすぐに終わったので、大木の枝の上の鳥小屋で昼寝をしていたら恰幅のいい人物がやって来た。丸い穴から顔をだしてよく見てみると、警官だ。

 アレックスとクリスに何か聞いている。木の上のあたしには気づいていないようだ。美少女殺人鬼なる者を捜索しているみたい。なんと、数日前に孤児院のマリア先生が刺し殺された。首にフォークを刺されて、その後、二階から階段を転げ落ちたらしく、一階の廊下に倒れているのを翌朝にシャルロッテ先生に発見されたようだ。体がボロボロだったそうで、二階から落ちる時に傷ついたみたい。

 おまけに犯人はあたしだって。そのフォークはあたしが変態ロリコン院長の股間を攻撃したのと同じものだったらしい。たしかにエベレス院長は病院送りになったけど、自分で転んだのが原因だし、マリア先生とは口喧嘩しかしてないぞ。なんで、あたしがマリア先生を殺す必要があるんだよ。いつの間にかあたしはお尋ね者になっていた。

 正直、あたしは仰天した。
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