孤児院育ちのエイミー

守 秀斗

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第15話:グライダーを作る

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 カクムール王国の村にいたころに、例の空を飛べるグライダーに乗ったことをあたしは忘れることが出来なかった。トムさんという少年と一緒に飛んだなあ。また、あのグライダーに乗って、鳥みたいに飛んでみたいなあと常日頃考えていた。

 けど、もう一度乗ってはみたいのだけど、今のところお金もないのでカクムール王国にグライダーを買ってくることは出来ない。そもそも、このナロードリア王国ではグライダーなんてやってる人はいないしね。自分で作ろうかと思ったが、忙しくて無理だなあと思っていた。
 
 そんな風に考えていたら、ある日、アレックスとクリスに、「そういや、お前がカクムール王国から戻って来た時に言ってた、グライダーってのはどういうもんなんだ」とまた聞かれたんで、「でっかい紙飛行機!」とまた同じように答えたんだけど、いまいちわかっていないような雰囲気なんだ。

 どうしようかと思っていたら、ユリウスがやって来て、「鞄の中に見本がありますよ」とくちばしで取り出してくれた。そう言えば、この鞄はユリウスがカクムール王国でグライダーを操縦していた人が墜落しそうになったのを助けた時にもらったんだっけ。それをひろげるとグライダーの設計図のようだ。アレックスとクリスが、「俺たちで、作ってみる」と言いだした。空を飛べる乗り物とは面白そうだと思ったらしい。文字はカクムール語なので、あたしが翻訳してやったが、正直に言って、正確かどうかわからない。ただ、あたしとしては大いに期待していた。また、グライダーで空を飛んでみたい。ユリウスの背中に乗って、飛ぶのも気持ち良いんだけど、そう何度も頼むのも悪いしね。
 
 数週間後、仕事の合間に作っていたようで、アレックスとクリスがグライダーの部品を大きい台車で持ってきて孤児院の前の広場で組み立てた。カクムール王国で見たグライダーと同じ格好をしている。ただ、なかなかカッコいい外見のグライダーが完成したけど、ずいぶんでかいぞ。ユリウスのお父さん鷲よりも大きい。翼が長く、かなり重そうだ。設計図通りに作っていたらこんなに大きくなったようだ。アレックスとクリスはずいぶんと張り切って作ったみたい。孤児院の子供たちが近寄ってきて、大騒ぎになった。アレックスとクリスはすっかり得意気な顔をしている。

 そこに、スザンナがやって来て、「これは何だ」と聞くから、「空飛ぶ乗り物だぞ」とクリスが得意満面に答えたら、「こんな重い物が空を飛ぶわけない、あたいのほうが高く飛べる」とピョンピョン飛び跳ねてバカにしたような顔で笑ったので、思わず両者、ケンカになりそうになった。あわてて、あたしが中に入って止めた。ケンカにはならなかったけど、「絶対、飛んでやる!」とアレックスとクリスが息巻いている。

 しかし、それを見ていたユリウスが、あたしにこっそりと、「あの設計図の持ち主のグライダーは空中分解したんですが、大丈夫ですか。もしかしたら、アレックスたちが作ったグライダーも墜落するかもしれませんよ」と耳打ちした。うーん、これはまずいかもしれないぞ。もしかしたら不良品の設計図かもしれないし、それにあたしの翻訳が間違っていたらどうしよう? 大変だ。

 いきなり近くの崖から飛んでみせると豪語している二人を止めて、とりあえずルーカス孤児院近くの広い坂道で試験飛行することをあたしは提案した。「何だよ、俺たちの作ったグライダーを信用していないのか」とアレックスとクリスは不満そうだ。「まあまあ、万が一ってこともあるし、あんたたちは大切な仲間なんだよ」とあたしは二人をなだめた。

 さて、坂道まで重いグライダーを運んで、翼の両端をあたしとクリスが持ち上げて、真ん中の操縦席に乗っているアレックスと一緒に走る。しかし、足で走っているだけで全然飛ばないぞ。全く飛ばないまま、坂道の下まで降りてしまった。スザンナが、「お前ら、全然飛ばないじゃないか」と坂道の上の方でゲラゲラ笑っている。アレックスとクリスは機嫌が悪そうだ。

 仕方がないので、また、上まで持ち上げることにしたのだが重い。二人に、「グライダーに小さい車を付けたらどうだ」と言ったが、「それはまた今度だ。もう一回やるぞ!」と無理矢理、坂道の上まで持って行く。どうやら、全く飛ぶどころか浮きもしなかったのが、だいぶ悔しかったみたい。

 それで、再度、グライダー試験飛行に挑戦。しかし、さっきと同じとおり足で走っているだけで飛ぶどころかやはり全く浮かぶ気配もない。こりゃ、欠陥がどっかにあるんではないかとあたしが思っていたら坂道の途中でつんのめって、グライダーはひっくり返り翼が折れて分解しちゃった。アレックスが、「痛い、痛い」とわめいている。どうやら足を骨折したらしい。見物していた先生たちや児童たちもがっかりしてる。

 あわてて、魔法使いのルーカスさんを呼んできて回復魔法をかけてもらった。なんとか骨折は治ったけど、アレックスは、まだ脚を引きずっている。ルーカスさんに言わせると回復魔法系は苦手なんだと。アレックスは、「大したことないよ、大丈夫だ」と言ってるが、仲間は大事にしなくてはいかん。アレックスを少し休ませることにした。グライダーが全く飛ばなくてアレックスとクリスは意気消沈している。あたしは、「また作ればいいよ」と慰めた。

 しかし、明日は仕事なんだけど、どうしようかとみんなで相談していたら、あたしの後ろから大きい人影が現れた。こん棒を持っている。振り向くとスザンナがいた。「どうやら、あたいの出番ね」と笑いながら、太いこん棒を振り回している。確かにこの子に頼むしかないなあと、あたしは応じた。
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