破壊神の終末救世記

シマフジ英

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23 悪化する事態(サナ王女視点)

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 魔道士オーデルグ一味にドンドルスの力までも奪われてしまった。私は焦りが止まらない。歴代の召喚士たちも、こんな気持ちだったのだろうか。

 ルーツも全く本気を出してくれない。バスティアンと比較したらムキになってくれるかと思ったら、意地になってしまった。こうなるなら余計なことを言わなければ良かった。男心も難しい。

 もう、こんな少人数のチームで暗躍するのはやめて、創造神と破壊神の存在を公にし、軍を動かして対処した方が良いのではないか。私には荷が重すぎる。

「サナ。サナ、大丈夫か?」
「え? う、うん、ごめん……」
 そこは大会議室だ。私とバスティアン、ジャック、リリィで集まっていたんだった。

「オーデルグの目的が世界の破壊だというなら、力を与えるほど危険な状況になる」
「前々回の大戦では、暗黒竜ラグナロクとの死闘があったって聞いたけど」
「ああ、そうだ。創造神サカズエによれば、破壊神トコヨニが創ったものの中で最強最悪」
「だったら、その力をオーデルグが手にしてしまったら……」
「前々回を上回る世界の危機、か……」
 そうなるのだろう。伝説の召喚獣タイタニアを私は仲間にできていない。いや、タイタニアがいても勝てないんじゃないだろうか。オーデルグの手の中には、既にラグナロク以外の配下の力も揃っているのだから。

 その時、急にルーツが部屋に入ってきた。

「反帝国同盟の動きが活発になっている」
「え?」
 リリィが答える。私はルーツと話す気になれず、動向を見守ることにした。

「帝国がさらに侵攻を進めたことで、同盟の反発心が高まった形だよ。各地の同盟勢力が一斉蜂起の準備を始めている」
 なんという状況だ。オーデルグ一味のせいで破壊神トコヨニの脅威が高まっているというのに。そうなったらもう帝国がどうとかいう問題じゃない。世界の危機だというのに。どうしてこうタイミングが悪いのか。

「帝国軍もその動きを察知して、各地で対応を始めている。オーデルグ一味の探索への影響もありそうだ」
「マジかよ。どうしてこうまずいことが重なるんだ……」
 ジャックが嘆く。皆そうだろう。バスティアンとリリィもうなだれていた。

「俺は、一度同盟の本部に行ってくるよ。俺一人でどうにかできるとは思えないけど、反乱を抑え込めないか試してみる」
「すまないな。君は本当は反帝国同盟に参加したいのだろうに……」
「お前が言うなよバスティアン。そんな気遣いは無用だ。このチームの中ではさ」
「む。ありがとう……」
「じゃあ皆。しばらく留守にするよ」
「ああ、気をつけてな」
「またね、ルーツ」
 皆がルーツに挨拶をする。しかし、私は何も言わなかった。ルーツも、私に何も言ってこなかった。ルーツはそのまま大会議室を出ていった。


    ◇


 私はいつものようにバスティアンと共に創造神サカズエに会いに行った。皇帝も来ていた。

「ドンドルスの力が敵に落ちたか」
「皇帝陛下。オーデルグの捜索はどうなっていますか?」
「難航している。反帝国同盟から離脱したという派閥の構成員も、巧妙に出自が隠されていて、調査が進んでいない」
「なら、どうすれば……」
「暗黒竜ラグナロクがオーデルグの手に落ちるのは避けなくてはならない。ラグナロクは、単体でも世界を滅ぼせるほどの存在だ」
「サカズエ様、ラグナロクはどこに封印されているのです? 事が事ですので、帝国軍を守備に就かせます」
「宗教国家スオードだ」
「あそこか、厄介な……」
 スオードは創造神を崇める宗教を元に成り立っている。ラグナロクの封印も聖なる力で守り続けてきた。しかし、人為的要素の絡んだ今大戦では、預けておくのは得策ではないかもしれないのだ。

「スオードは他国の介入を嫌うから帝国軍を派遣するわけにはいかないな。それに、うかつに攻められない。地形が悪くて攻められないのもあるが、あそこを攻めてしまうと反帝国分子が急増してしまう、そういう国だ」
「ラグナロクの封印だけ帝国に渡してもらえないのでしょうか?」
「難しいだろうな。だが、オーデルグに先行させてはならない状況だ、使者を送ってみよう」

 私とバスティアンはしばし、サカズエの宮殿に滞在することになった。情報が手に入るまでの間だ。ここがどこなのかは私たちにも秘密なので、外出は許されなかった。

 部屋はそれぞれにあてがわれていたが、バスティアンは私の部屋にいた。こんな時ぐらい、一緒にいたい。

「後手後手だよね。サカズエも何を考えてるんだろう」
 私はバスティアンと並んでベッドに腰掛け、体重をバスティアンに預けていた。

「人間が敵に回るなどと夢にも思っていなかったのだろう」
「それにしても臨機応変さが無いよね。皇帝も、世界を相手に喧嘩しているくせに、サカズエには弱腰だし」
「さすがに皇帝陛下への悪口には参加できないぞ……」
「ふふ、いいよ、そのくらい」
 私はバスティアンの腕を抱えた。あからさまに胸を押し付けることも忘れない。今の状況を忘れて私を求めて欲しかったのだ。

「怖い……」
「え?」
「失敗したら世界の破滅。なのに状況は悪くなる一方。怖くてたまらないよ……」
 泣き言を言う私の頭に、バスティアンが手を乗せた。

「こんな時にルーツは嫉妬で戦ってくれないし!」
 ついでに愚痴も言うことにし、ルーツの名前を出した。

「ルーツが魔道士だったとはな。そんなに優れた魔道士だったのか?」
「3年前の時点でも、多分、あのドンドルスを難なく倒せていたと思う。それぐらい、ケタ違いだった」
「だとしたら、完全にこのチームのエースだな。ルーツが魔法剣にムキになっているというのは、私のせいなのか……?」
「どうなんだろ……」
「ルーツの気持ちも分からなくは無いんだ。女との関係は、男を狂わせるものなんだよ……」
「あら、そうなの? じゃあ、バスティアンも狂ってる?」
「……もちろんさ」
 バスティアンは私を押し倒してきた。私も待っていたので、静かにされるがままになる。危機的状況だからこそ、私もバスティアンも慰めが必要だ。その想いが私たちの交わりを激しくしていた。



 しかし、思えばこの時に気づくべきだったのだ。私も、バスティアンも。

 ケタ違いに優れた魔道士・・・・・・・・・・・。そのフレーズの違和感に。
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