箱庭系譜

たき

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メンテナンス

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 私はその日、真理を学んだ。
 人は私よりずっと簡単に壊れる。そして完全に壊れてしまったらもう直らない。
 私と共に戦線に立っていた仲間が一つ、壊れた。爆撃の衝撃で跳ね飛ばされた硝子の破片が首筋に深々と突き刺さっていた。赤黒い循環液が吹き出す。思わず手を伸ばして体を支えると。私の白い機体が人間の色に染まった。

「メア、私は彼の修復を希望します。彼の担当はあなたではありませんがあなたならば修復が可能だと私は信じます」

 通信機に手を添えて修復を依頼する。
 返事は帰ってこなかった。

「メア? 通信機は正常に機能していますか? 破損があるならばそちらの修復を優先し」

「マナ!」

「…?」

「ソイツの事は…忘れろ」

「? 何故ですか? 彼はまだ一カ所しか破損が」

「いいか…私はマナの視点カメラから見てたから何があったかは把握してる。ソイツは…もう戻らない。人間ってのは脆いんだ」

「…? つまり?」

「…お前はもうソイツに会えないって事だよ」

「………理解できません。とにかく修復を」

「………一回、帰ってこい。作戦放棄はウチから上に報告しとく」

 通信が切れた。
 彼の首筋からは大量の循環液がトクトクと溢れだしていた。傷口を手で塞ぐが液体を留める事はできなかった。間接に液体が染み込む。
 エンジニアの言葉が頭を過ぎる。

「お前はもうソイツに会えないって事だよ」

 彼の循環液に一滴の水が落ちた。雨かと空を見上げる。
 今度は私の頬を液体が伝う感覚があった。
 硝子の破片に顔を映すと、目から溢れた液体が頬を伝っているのが見えた。
 冷却水の故障かシステムのバグかもしれない。後で視て貰わないと。

「…あぁおかえりマナ、大丈」

「メア」

「ん?」

「冷却水が止まりません」

「…………」

「故障の可能性があります。修復を……メア? 何を?」

「…メンテナンスだよ」

 メアの白衣を血が染めていった。
 静かな研究室には涙が滴る音だけが響いていた。
 記録に残った彼の情報は、もう更新される事は無い。
 
 メンテナンス-END-
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