箱庭系譜

たき

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真夜中に笑う純白

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 彼女はころころと笑う。
 町外れの廃墟、それも真夜中だけに現れる僕の一番大切な友達。
 幽霊だとかバケモノだとか、色々な噂が立っているのは知っていた。でも、別にどうでも良かった。彼女が何者であれ、僕の友達な事に変わりないのだから。
 彼女はころころと笑う。とてもよく笑う。つられて笑ってしまうほどに笑う。
 薄い月明かりに照らされて、彼女の着ている白いワンピースは輝きを増す。彼女が笑い声を上げる度、空気は揺らぎ辺り一帯に白い帯を作り出していた。
 僕はそれが本当に好きだった。

「やぁ、また来たよ」

「いらっしゃい! 今日もお話していく?」

「うん、どんな話が良いかな」

 人は僕を変わり者と呼ぶ。異端者とか外れ者って呼ばれたこともある。
 僕は語り部。旅をしながら詩を語り歩く。
 語り部にとって最大の幸福とは、最高の観客に恵まれる事だと思う。
 彼女は僕にとって最高の観客だった。

「じゃあ、お話を始めよう」

 その瞬間から、廃墟は王城へと変わり、彼女のワンピースはドレスへと変わり、彼女は一時のプリンセスとなる。白い衣を纏う月明かりの姫君…なんて言うのはきっと大袈裟なのだろう。
 そうだな、きっとこのくらいで十分だ。

「昔々、ころころととても可愛らしく笑う女の子がいましたとさ」

 あれからどれくらいの時間が経ったのか。
 旅を続けているせいかイマイチ年数の感覚が掴めない。つい最近だった気もするし、文字通り随分と昔の事のようにも感じる。
 そう、あの時。夜中廃墟で彼女と笑い合う日々は突然終わりを告げた。
 廃墟の解体が決まったのだ。
 それに加えて、その地域が余所の地域と抗争をする事が決まってしまい、よそ者の僕は街を追い出されてしまった。
 そのせいで、あれから一度も彼女とは会っていない。
 どこかで元気にしていてくれる事を願う。

「語り部さん語り部さん」

「ん? 何かな」

「お話を聞いて欲しいの」

「…そうだね、たまには観客になるのも良いかもしれないね」

 彼女は静かに息を吸い、胸に手を当てて話し始めた。

「昔々あるところに、ころころと笑う女の子がいました。ところがある日、彼女の家が壊されることになってしまい、彼女は笑わなくなってしまいました。それほどに、彼女は幸せだったのです。自分を怖がらないで毎晩話をしに来てくれる『彼』と居られて、とても、とても幸せだったのです。彼女は探しました。国中を這いずり回って彼を探しました…」

 言葉が止む。彼女の頬には、大粒の涙が伝っていた。顔を伏せて震える彼女の変わりに、言葉を紡ぐ。

「語り部は言いました。僕はあなたにお話が出来て本当に幸せでした。最高の観客を持った語り部はこの世で最も幸福なのです、と。それから、こうも言いました。もしよろしければ、また聞いていただけませんか? できれば、僕の隣で。話の泉が枯れ果てるまでずっと…ってね」

 彼女はゆっくりと顔を上げる。頬に伝う水分を指先で拭うと、昔より少し上品に、昔より少しだけ大人になった彼女が、笑った。

「喜んで!」
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