9 / 16
真夜中に笑う純白
しおりを挟む
彼女はころころと笑う。
町外れの廃墟、それも真夜中だけに現れる僕の一番大切な友達。
幽霊だとかバケモノだとか、色々な噂が立っているのは知っていた。でも、別にどうでも良かった。彼女が何者であれ、僕の友達な事に変わりないのだから。
彼女はころころと笑う。とてもよく笑う。つられて笑ってしまうほどに笑う。
薄い月明かりに照らされて、彼女の着ている白いワンピースは輝きを増す。彼女が笑い声を上げる度、空気は揺らぎ辺り一帯に白い帯を作り出していた。
僕はそれが本当に好きだった。
「やぁ、また来たよ」
「いらっしゃい! 今日もお話していく?」
「うん、どんな話が良いかな」
人は僕を変わり者と呼ぶ。異端者とか外れ者って呼ばれたこともある。
僕は語り部。旅をしながら詩を語り歩く。
語り部にとって最大の幸福とは、最高の観客に恵まれる事だと思う。
彼女は僕にとって最高の観客だった。
「じゃあ、お話を始めよう」
その瞬間から、廃墟は王城へと変わり、彼女のワンピースはドレスへと変わり、彼女は一時のプリンセスとなる。白い衣を纏う月明かりの姫君…なんて言うのはきっと大袈裟なのだろう。
そうだな、きっとこのくらいで十分だ。
「昔々、ころころととても可愛らしく笑う女の子がいましたとさ」
あれからどれくらいの時間が経ったのか。
旅を続けているせいかイマイチ年数の感覚が掴めない。つい最近だった気もするし、文字通り随分と昔の事のようにも感じる。
そう、あの時。夜中廃墟で彼女と笑い合う日々は突然終わりを告げた。
廃墟の解体が決まったのだ。
それに加えて、その地域が余所の地域と抗争をする事が決まってしまい、よそ者の僕は街を追い出されてしまった。
そのせいで、あれから一度も彼女とは会っていない。
どこかで元気にしていてくれる事を願う。
「語り部さん語り部さん」
「ん? 何かな」
「お話を聞いて欲しいの」
「…そうだね、たまには観客になるのも良いかもしれないね」
彼女は静かに息を吸い、胸に手を当てて話し始めた。
「昔々あるところに、ころころと笑う女の子がいました。ところがある日、彼女の家が壊されることになってしまい、彼女は笑わなくなってしまいました。それほどに、彼女は幸せだったのです。自分を怖がらないで毎晩話をしに来てくれる『彼』と居られて、とても、とても幸せだったのです。彼女は探しました。国中を這いずり回って彼を探しました…」
言葉が止む。彼女の頬には、大粒の涙が伝っていた。顔を伏せて震える彼女の変わりに、言葉を紡ぐ。
「語り部は言いました。僕はあなたにお話が出来て本当に幸せでした。最高の観客を持った語り部はこの世で最も幸福なのです、と。それから、こうも言いました。もしよろしければ、また聞いていただけませんか? できれば、僕の隣で。話の泉が枯れ果てるまでずっと…ってね」
彼女はゆっくりと顔を上げる。頬に伝う水分を指先で拭うと、昔より少し上品に、昔より少しだけ大人になった彼女が、笑った。
「喜んで!」
町外れの廃墟、それも真夜中だけに現れる僕の一番大切な友達。
幽霊だとかバケモノだとか、色々な噂が立っているのは知っていた。でも、別にどうでも良かった。彼女が何者であれ、僕の友達な事に変わりないのだから。
彼女はころころと笑う。とてもよく笑う。つられて笑ってしまうほどに笑う。
薄い月明かりに照らされて、彼女の着ている白いワンピースは輝きを増す。彼女が笑い声を上げる度、空気は揺らぎ辺り一帯に白い帯を作り出していた。
僕はそれが本当に好きだった。
「やぁ、また来たよ」
「いらっしゃい! 今日もお話していく?」
「うん、どんな話が良いかな」
人は僕を変わり者と呼ぶ。異端者とか外れ者って呼ばれたこともある。
僕は語り部。旅をしながら詩を語り歩く。
語り部にとって最大の幸福とは、最高の観客に恵まれる事だと思う。
彼女は僕にとって最高の観客だった。
「じゃあ、お話を始めよう」
その瞬間から、廃墟は王城へと変わり、彼女のワンピースはドレスへと変わり、彼女は一時のプリンセスとなる。白い衣を纏う月明かりの姫君…なんて言うのはきっと大袈裟なのだろう。
そうだな、きっとこのくらいで十分だ。
「昔々、ころころととても可愛らしく笑う女の子がいましたとさ」
あれからどれくらいの時間が経ったのか。
旅を続けているせいかイマイチ年数の感覚が掴めない。つい最近だった気もするし、文字通り随分と昔の事のようにも感じる。
そう、あの時。夜中廃墟で彼女と笑い合う日々は突然終わりを告げた。
廃墟の解体が決まったのだ。
それに加えて、その地域が余所の地域と抗争をする事が決まってしまい、よそ者の僕は街を追い出されてしまった。
そのせいで、あれから一度も彼女とは会っていない。
どこかで元気にしていてくれる事を願う。
「語り部さん語り部さん」
「ん? 何かな」
「お話を聞いて欲しいの」
「…そうだね、たまには観客になるのも良いかもしれないね」
彼女は静かに息を吸い、胸に手を当てて話し始めた。
「昔々あるところに、ころころと笑う女の子がいました。ところがある日、彼女の家が壊されることになってしまい、彼女は笑わなくなってしまいました。それほどに、彼女は幸せだったのです。自分を怖がらないで毎晩話をしに来てくれる『彼』と居られて、とても、とても幸せだったのです。彼女は探しました。国中を這いずり回って彼を探しました…」
言葉が止む。彼女の頬には、大粒の涙が伝っていた。顔を伏せて震える彼女の変わりに、言葉を紡ぐ。
「語り部は言いました。僕はあなたにお話が出来て本当に幸せでした。最高の観客を持った語り部はこの世で最も幸福なのです、と。それから、こうも言いました。もしよろしければ、また聞いていただけませんか? できれば、僕の隣で。話の泉が枯れ果てるまでずっと…ってね」
彼女はゆっくりと顔を上げる。頬に伝う水分を指先で拭うと、昔より少し上品に、昔より少しだけ大人になった彼女が、笑った。
「喜んで!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる