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プロローグ
しおりを挟む愛、なんて知らなかった。
僕、テオ・アナベルの母は僕を産んですぐに亡くなった。
父は僕に興味はないし、母が亡くなってから家に来た継母と異母妹は僕のことを嫌っている。
なんでも、泥棒猫の息子で顔がそっくり、なんだって
(おかあさんがいたら、僕のこと、あいしてくれてたのかな?)
なんて、おなかに感じる痛みに耐えながら考える。
「おい、もうその辺にしとけよ。死なれたら困る。」
「あぁ、わかってるって。あー、ほんとイライラする。あのお嬢様、わがままばっか言いやがって」
「ーーっつ、けほっ」
「でも、そのお嬢様のお母さま直々にストレス発散を用意してくれてるんだからいいだろ」
「あの人も酷いよな、こんな子供に痛い目見せろなんて」
「ま、それを実行している俺たちも大概だけどな」
「はっ、確かに」
使用人たちはそう話しながら、満足したのか僕の部屋を出て行った。
(ようやくおわった…今日はいつもより怒っていたなぁ)
きっと、異母妹のエミリアがどうしようもないわがままを言って、癇癪でも起こしたのだろう。
時折、彼らはこうしてやってきては僕でストレス発散をしていく。本当に嫌だし、痛いし、怖い。けれど、それを口にしたらもっと怖いことを知っているから。いつも静かに時が過ぎるのを待つ。
「……ぁ、ごはん、たべにいかないと」
そう呟いて、あまり力の入らない体に喝を入れて立ち上がる。
あまり食欲はないけれど、今食べに行かないと食べ損ねる。
(早く、行かないと。今日の最初で最後のご飯なんだから)
朝と昼は時間が過ぎてしまい、食べ損ねたのだ。
早くしないと、と食事へ向かう道を急いだ。
「……失礼、します」
一応、礼儀を尽くして入室するが、そんなの誰も見ていない。僕のことなんて、どうでもいいから。その証拠に、僕がいてもいなくても、3人の会話は途切れない
「それでね、おかあさま」
「えぇ、なあに?エミリア」
「―ね?えらいでしょ?おとうさまっ」
「あぁ、すごいな、エミリアは」
3人から距離の離れたところにぽつんと用意されている席に座り、ご飯を食べる。
(今日はみんなきげんがよさそうでよかった)
使用人たちの機嫌は悪かったが、この3人は機嫌がいいみたいだ。そのことに安堵しつつ、なるべく音を立てないように、3人の機嫌を損なわないように、静かに食べる。
でも、今日は失敗してしまった。
―ーカランッ
「―ーぁっ」
スプーンを床に落としてしまったのだ。
やっちゃった、そう思った時にはもう遅い。空気が変わったのがすぐにわかる。
「……はぁ、ご飯もまともに食べられないのかしら。まったく」
「……もうしわけ、ありません。」
「仕方のない子ねぇ。そうだわ、私が残りのご飯、食べさせてあげる。お皿を持ってこちらへいらっしゃい?」
「……はい」
僕に拒否権なんてないのだ。
スプーンを落とした罰で打たれるのかな、今日はもうたくさん我慢したのに。そう考え、痛みへの心の準備をしながら継母のもとへ向かう。
―ーバシャッ
(……え?)
「これでスプーンを使わなくても食べられたでしょう?よかったわねぇ」
一瞬、何が起きたのか、わからなかった。
(スープ、かけられた?)
「何よ、その目は。何か文句でもあるの?やっぱり、あの女の子供なだけあるわねぇ。こちらのせいにして。迷惑をかけられたのはこちらだというのに。楽しい食事の最中だったのにあなたのせいで気分は最悪よ。お気に入りの絨毯も汚れてしまったわ。」
幸い、スープはとうに冷め切っていたからやけどはしなかった。けれど、せっかくのご飯が台無しになってしまった。
呆然と立ち尽くしていると、ふと、自分の近くに父が立っていることに気が付く
―ーパンッ
と、何かが破裂したような音が部屋に響き渡る。
「はぁ……。フレイア、大丈夫だ。絨毯はまた新しいものを買おう」
「え、いいの?ありがとう。3人で気に入るものを選びましょう」
「あぁ、そうしよう。お前も、いつまでそこに立っているつもりだ。食べ終わったのなら、さっさと部屋に戻りなさい」
「……はい」
「はぁ」
ようやく全身の力を抜いてベッドに横たわる。あの後、スープでべたべたになった髪を洗い流し、部屋に戻ってきた。
(今日は失敗しちゃったなあ)
いまだに、じんじんと熱を帯びる頬に触れる。
あの時、ああしていれば、これに気を付けていれば、と前まではぐるぐると考えていたけれど、考えても仕方ないため、もうやめた。
(……ごはん、ちゃんと食べられなかった。明日は、食べられるといいな)
僕は、ずっと、このままなのかな。
ふと、そんなことを考える
いつまで、これらに耐えればいいんだろう。
いつ、こんな日々が終わるんだろう。
わからないことをぐるぐると頭で考える。
きっとずっとこのままで、死ぬまで、ずっとこのままで。独りぼっちで死んでいくんだろう、って終点にたどり着いて。悲しいけれど、流れる涙なんて、僕にはもうない。
明日は、静かに1日が終わりますように、と願って瞼を閉じた。
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