愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

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「お兄様!一緒に帰りましょう?」

 いつもの図書館へ向かう道の途中、そんな声が聞こえてきた。聞きなれた声だけれど、僕にとって、恐怖の対象の声。周りには人がたくさんいる。ここで反応しなければ、どんなことが待っているかわからない。

「……っいや、あの」
「やっぱり私とは一緒に帰りたくないのですね……。馬車だって、私と同じものに乗りたくないからと父に2台用意させて……。お兄様はもう少し大人になるべきです。いつまでもわがままばかりで、お父様を困らせないでくださいっ」

 エミリアは少し目に涙を浮かべながら、そう話した。
 ここまでくると、なんだか感心してしまう。すべてでたらめなのに、こうもスラスラと話せるのはもはや才能なのではないかとさえ思えてくる。
 なんて、そんなことを考えている場合ではなかった。エミリアが大きな声で話したため、歩いていた生徒たちがなんだと騒ぎ始めている。

 大勢に囲まれるのも、大勢に注目されるのも怖い。
 いつも痛いことをされるときは、きまって複数人に囲まれる。まるで僕が逃げられないように、壁になっているみたいにして、僕をにらみつけて、見下ろしてくる。それを思い出してしまうから、苦手だ。

 というか、そもそもこの時間に僕のお迎えは来ないはず。いや、今日からエミリアがいるから一緒に来るのかもしれないが。

「おい、あれってアナベル家の……」
「あぁ。やっぱり長男が問題児ってのは間違いじゃないみたいだな」
「エミリア様かわいそうに…。でも立派ね。たとえ恐ろしくても、兄に対して歩み寄っていて」

 アナベル家の兄は問題児で、妹は立派。それが、この国の貴族たちの認識だ。それが覆ることなんて、きっとない。天変地異が起こっても変わらないだろうと思う。

「何の騒ぎですか?」

 ここは図書館の前だ。騒ぎが聞こえてきたのだろう。ブライト先生が来てくれた。
 来てくれて嬉しいのに、嬉しくなかった。ブライト先生は、僕に何も言わないし、僕のことを信じてくれるけれど、先生の間でも僕のことは知られているようだったから、きっと僕の噂を知っている。でも、直接聞いているところは見たくなかった。

「図書館を利用したい人の邪魔になってしまうから、ここで人だかりができるのは感心しませんね」
「ブライト先ーー」
「先生、ご迷惑おかけして申し訳ありません。ただの兄弟げんか、です。まさかこんなに人が集まってくるとは思わなくて、申し訳ありません」
「そうですか。兄弟げんかなのであれば、学園の廊下ではなくお家でやっていただけますか?」
「はい。お恥ずかしいところをお見せしてしまいました。皆さまも、騒ぎ立ててしまって、申し訳ありません」

 エミリアは恭しく周りにも謝罪をした。
 すると周りの人たちは顔を見合わせて、エミリア様は礼儀正しいとか、それに比べて兄はなんだとか、それぞれ好き勝手いいながら散っていった。

「ところで、テオ君」
「……はい」

 何を言われるかと少し身構えてしまう。

「手伝ってほしいことがあるんだ。このあと時間はあるかな?」

 ブライト先生を見ると、いつも通りの笑顔で僕に話しかけてくれていた。
 その変わらない姿に、今はすごくほっとした。

「はい」
「エミリア君、でいいのかな?気を付けて帰ってくださいね」
「……はい。先生。本日は申し訳ありませんでした。では、また明日」

 エミリアが最後どんな表情をしていたかはわからない。ブライト先生が僕を隠すように前に立っていてくれたから。それがわざとかはわからないが。

 
 そうして先生は、僕を連れて前に一緒にご飯を食べた部屋へ移動した。部屋に入ると、先生は何事もなかったかのようにいつも通りだった。それがなんだかあったかくて、優しくて。少し、泣きそうだった。
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