愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

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「そこに座ってて。紅茶入れてくるから」
「ありがとうございます」

 冷え切った体はまだうまく動かなくて、しゃべるのが難しい。
 さっきまで先生がいたであろう教室はまだ暖かくて、入った瞬間ほっとした。
 学園はいつもの騒がしさが全くなくて、明かりのついている部屋も一つもなかった。
 今は何時なんだろうか。僕は、今日家に帰れるのか。早く帰らないと、大切なものが見つかってしまうかもしれない。

「はい、どうぞ」

 そんなことを考えていると、カップを2つ持った先生が戻ってきた。
 お礼を言って口にした紅茶は、すごく温かくて、冷えた体に染み渡る。

「それで、いつからあそこに閉じ込められていたの?」
「……えと、としょかんをでてそのあとから、です」
「そんなに長く……。あそこを通って本当に良かった……」
「あの、助けてくれて、ほんとうにありがとうございます」

 もう一度お礼を言って顔を上げると、いつもの顔と違う顔をしていた。

「あ、の、なんか怒ってます、か?」
「……君ではなくて、こんなことをしたやつ、にね。もしかしたら君は死んでいたかもしれないんだ。これは人殺しと同じだよ」

 まさかそんなことで怒ってくれる人がいるのか、と驚いてしまう。見当違いかもしれないが、本当に僕の味方をしてくれているとわかって、なんだか嬉しくなる。最初から、閉じ込められていた、とわかってくれて、僕が悪いと決めつけない。そんな人はこの学園ではブライト先生だけだ。

「でも、先生が助けてくれましたから。いいんです」
「……君は、どうしてそんなに……」
「?ごめんなさい、なんですか?」
「……いや、なんでもないよ」

 それから、先生とお茶を飲みながら、暖かい部屋でゆっくりとした時間を過ごした。少しずつ体も温まってきて、口もちゃんと回るようになってきたころ。ふと時計を見ると、すごい時間になっていることに気がついて、焦りだす。

「先生、ごめんなさい。僕、帰らないと」

 今日はどうしても帰らなくてはいけない。大切なもののために。
 でも、どうやって帰ろうか。馬車はない。徒歩で帰るにしても、どのくらいかかるかわからない。

「……よし、それじゃ、先生が送っていくよ」
「いいんですか?」

 そう先生が提案してくれた。
 どうやら話を聞くと、家に馬車があるらしい。

「テオ君の家のみたいに大きいのではないけど、いいかな?」

 なんておどけた様子で先生が言ってくる。
 送ってもらえるだけでありがたい。先生が家へ一回戻って取りに行くというので、僕もてっきりついていくものだと思ったが、ここでまだ温まっているように言われてしまった。僕は素直に従って、先生が戻ってきてくれるのを待った。
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