愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

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 信じることができなくて、信じたくなくて、反応ができない。
 僕の幻聴なんじゃないか、幻聴であってほしかった。

「お兄様?お待ちくださいっ」

 腕をつかまれ、とっさに振りほどいてしまう。そんなことをしたら何をされるかわからないのに、体が勝手に動いてしまった。
 反動で声のした方を向いてしまう。現実と向き合いたくなかったのに。
 そこには、予想した通りエミリアの姿があった。

 どうしてここにいるのか、他人の空似なのではないか、頭はいろんな考えがめぐってまとまらない。信じたくなくて、僕の頭は現実逃避をしたがる。

「まさか、この学園でも問題を起こそうとしているのですか?」
「……な、んで」

 ようやく絞り出した声は弱弱しくて、きちんと届いているかもわからないほどだった。

「お兄様は、その、問題児、でしょう?こちらの学園でもし問題を起こしていたら、それこそ家族の恥になってしまうもの。お父様がそれを危惧して、私もこちらの学園に通うことになったの」

 訳が分からなかった。
 言葉は入ってくるけれど、理解ができない。

「……お兄様は私と一緒に同じ学校に通うなんて、嫌だと思うけれど、これはお兄様のためでもあるのよ?お父様も、お兄様の今後を心配して…」

 そのあともエミリアは何かずっと話しているけれど、もう何も聞かなかった。聞きたくなかった。
 もうどうでもよかった。離れられる、と思ったけれど、それもできなかった。きっとまた、根も葉もないうわさを立てられて、広められて。今日、仲良くしてくれたルイも、僕を歓迎してくれていたクラスメイトたちも、先生たちもみんな、僕を嫌いになって、怖い目を向けてくるようになるんだ。
 
 大丈夫、元の生活に戻るだけ。ただ、勉強に奔走する毎日に戻るだけ。彼との大切な思い出に縋って、1人で頑張るだけ。

 そうやって、自分を励ますことしか、僕にはできなかった。

 エミリアは相変わらず大きな声で話しているため、いつものように、僕たちの周りにはいつの間にか人だかりができていた。

「あの子って……もしかして、交換留学できた子?」
「こっちに来て早々トラブルって、大丈夫かよ…」
「男の子と話してる子、中等部の制服だけど、なんで高等部にいるの?」
「あの中等部の子、交換留学できた子の妹なの?2人そろってこっちに通うってどういうこと?なんか問題児って聞こえたけど……」

 その人だかりからはたくさんの声が聞こえてくる。
 僕たちはこっちに来たばかりだから、余計に人が集まってくるんだろう。まるで物珍しいものにでもなった気分だ。きっと実際、物珍しいのだろうけれど。
 
 やっぱりこの雰囲気にはなれない。あっちの学園でもよくこうして囲まれていたけれど、どうしても怖い。周りの目が怖くてうつむく。

 もう、やめてほしかった。もう放っておいて欲しかった。こっちの学園に僕がいれば、僕と関わらなくて済むからいいじゃないか。どうして、そっちからわざわざ関わってこようとするんだ。もう、怖い日々は、嫌だ。

 一時的でも、離れられると思って緩んでいた体は、また戻ってくる日常を拒否していた。体が震えてしまう。

 とにかく今はこの騒ぎを抑えないと。どうしたらいい。どうしたら、今の現状を打開できるのか。今までみたいに、どこからともなく現れるブライト先生はここにはいない。自分でどうにかしないと。でも、どうしたらいいか、わからない。怖くて、うまく声もでない。

 どうしようと、うつむきながら震えることしかできない。それが悔しくて唇をかんだ。
 すると、どこからか、声が聞こえてきた。



「何の騒ぎだ」

 その声1つで、一瞬でその場が静まり返った。
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