愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

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「うわあぁぁぁぁ…、すごい!」

 街について、最初に目に入ったのは人だった。そこには、たくさんの人がいて、みんな楽しそうに買い物をしている。

「この辺の市場は最後に寄って、食材を買って帰ろうか」
「うんっ」

 そう言ってその間を通る。それだけで楽しくてきょろきょろしながら歩いていた。そうしていたら、前から歩いてくる人に気が付かなくてぶつかりそうになってしまったが、シエロがそれに気が付いて、防いでくれた。

「テオ、大丈夫?」
「ごめん、ありがとう。見るのに夢中になっちゃった…」
「ううん、いいよ。でも、ぶつかったら危ないから、はい」

 そう言ってシエロが手を差し出してくる。その意図がわからず、首をかしげているとシエロが続けて言った。

「テオも手、出して」

 言われた通り手を出したら、そこにシエロの手が重なる。シエロの指が僕の指の間にするすると入ってきて、そのままギュッと握られる。

「こうしていればはぐれないし、いいね」
「…うん」

 手を握られるのは初めてではない。それなのに、妙にそわそわして、心臓がどきどきして落ち着かない。手に汗をかいてきて気がしてシエロを不快にしていないか不安になって、でも離したくなくて。隣を見ると、シエロと目が合って、いつもと違う格好をしていても優しい目は変わらない。僕に笑いかけてくれる笑顔がきれいで、かっこよくて、もっと心臓がどきどきしてきて。ここのところ、シエロと一緒にいるとこうなることが多い。僕はおかしくなってしまったのだろうか。

「便箋、見に行こうか」
「うん」

 せっかくシエロと初めての買い物をしているんだ。そんなことを気にしていては楽しめない。それはもったいないから。僕の心臓に落ち着けと言い聞かせて、僕はこの時間を存分に楽しむことにした。
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