愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

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「シエロ……」
「遅くなってごめんね」

 そういうシエロは肩で息をしていて、急いでここまで来てくれたことがわかって、胸がきゅうっとする。

「な、んでここが」
「ルイ君が伝えてくれて、探したんだ。見つけられてよかった」

 そう言って僕の頭をシエロがなでてくる。それでようやく体の緊張が抜けて、ついシエロに抱き着きそうになる。さっきまであんなに怖かったのに、シエロが来ただけでこんなに安心する。

「シエロ、殿下?」
「それで、君たちは、どうしてテオと一緒にいるのですか?」

 敬語、だ。それに、なんだろう、この声。こんなシエロ、初めてだ。

「この方が、シエロ殿下に対して何か悪いことを企んでいると聞きまして、これ以上近づかないように注意をしてっ」
「そんなこと、誰が頼みました?それに、テオが、悪いことを企んでいると……それは、どなたから聞いたのですか?」
「……っこの方の、妹君からです」
「そうですか。それで、テオはそれが本当のことだと言ったのですか?」
「それは……。この方は、シエロ殿下が恋人だと嘘を言うのですっ。シエロ殿下からも、わからせてあげてくだー」
「あなたたちは、先ほどの僕たちを見ても、まだわからないのですか?」

 そう淡々と話すシエロが僕を引き寄せる。
 驚いて目をつむっていたら、おでこにいつもの感触がした。

「ね、テオも、僕にして?」
「い、今?」
「うん、ほら」

 待っているシエロがなんだか可愛い。さっきまでの張りつめた、どこか線を引いていたシエロはどこにもいなくて、そのギャップにおかしくなって、少し笑ってしまった。
 

 人がいるのに、キスをするのは恥ずかしくて躊躇したけれど、このままでは話が進まないとわかったため、僕からもシエロのおでこへキスを送った。

「ありがとう」
「うん……」

 そんなやり取りをしていたら、彼女の金切り声が響いた。

「……っシエロ殿下は、そいつに騙されているんです!」
「騙されている?」
「そいつの妹のエミリア様から聞きました。そいつがどんな人か知らないのですか?」
「どんな人か?」
「えぇ。乱暴で、傲慢で、横暴で。家族にまで暴力をふるう人だと」
「……なるほど。僕が知っているテオとは全く違いますね」
「そうでしょう?ですからー」

 どこまでも、僕を貶めたいんだとそれを聞いて思う。そうやって、偽の僕を他の人に植え付けて。シエロに最低な僕を見られた。それがたとえ嘘の僕でも、それがすごく嫌で、聞いてほしくなかった。

「ですが、それが嘘だと、それは偽りのテオだと知っています。僕は、僕の知っているテオが、本当のテオだと知っています」
「……え?で、でもっ」
「僕はそもそも、エミリア、という方のことは信じていません。僕は、自分で見たものを、感じたことを、テオを信じています」

 そう言ってくれるシエロ。何があってもシエロは僕を信じてくれるって言われなくてもわかっていた。でも、きちんと言葉にされると、すごく嬉しくて、どうしようもなかった。

「シエロ殿下……っ」
「もう一度、はありません。テオにまたこのようなことをしたら、許しません。それを覚えておくように」
「……っ」

 シエロは僕の方を向いて手を差し伸べてくる。

「帰ろうか」
「ーうん」

 その手を取って、歩き出したが、ぴたっと足を止める。急に立ち止まった僕に不思議そうにするシエロを見つめた。
 シエロは、いつも僕を助けてくれる。でも、それだけじゃだめだ。僕だって、頑張りたい。僕だって、シエロを信じてる。大好きだから、ずっと一緒にいたい。シエロにふさわしい人になりたい。その一心で、僕は彼女たちに向き直った。

「あの、僕は、確かに、シエロと不釣り合い、かもしれません。でも……」

 これだけは、言いたい。息を大きく吸って、言葉を紡いだ。

「僕がシエロを想う気持ちは、誰にも負けません」

 勢いよくそう言ったはいいものの、シエロにもそれを聞かれているんだと思うと、だんだんと恥ずかしくなった。

「えと、それだけです。それでは」

 彼女たちに頭を下げて、なかなか動きださないシエロを引っ張って教室を出た。
 その言葉を言った僕は、恥ずかしくて、顔から火が出そうだったけれど、本当のことだから。それに、彼女たちにそう言えたことにすごくすっきりした気分だった。
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