上海ハニー

フランク太宰

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仏について

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 Aの話はだいたい、退屈で人から好かれるものではなかった。抽象的だし深みがありそうでない。まーそういった男だ。
  しかし、私は嫌いではなかった。正直に見える人間ほど心の場所によって、浅すぎるほど浅い。
  昔、母校の体育教師は不順異性交遊にたいして厳しく、毛嫌いしている様子であったのに、
保険の女性教師と結婚したのだ。
無論、女性教師は妊娠していた。
そして彼は別の学校に移った。
 実のところ私は二人の関係を知っていた。
放課後部活中に腰を痛めた僕は誰もいないであろう保健室に湿布を取りに行ったのだ。
 ドアを開けようとしたが、ドアの後ろでは、
男女の交合う声が聞こえた。
そのとき私の体は男性にとって当然の働きをしていた。
 なんというか全員、自分を含めて"ろくなもんじゃねぇ"
  そうであるから学生時代に出会ったAのことは嫌いじゃなかった。
彼は嘘も本当も言わないのだから。
 しかし、彼の話は少しも思い出せない。何度もコーヒーか酒と一緒に話したのに、唯一覚えているのは一つだけだ。

  「なぁ、お前フランスについてどう思う?
俺はいいところだと思うよ。一生行けなかったとしても、フランスは頭の中を疼かせるんだ」

 Aは結局フランスへは行けなかった。白血病で死んでしまった。この話は病院のテラスでAが私にした話だ。
 でも、彼はフランスへ行かなくて、よかったのかもしれない。フランスにはフランスの掟があるのだ。
「いっそ、生まれ変わったら、荒野で生きてみたいものの、荒野には荒野の掟がある。
それはそれで面倒だ」

 そう、誰かが言っていた気がする。
  
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