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人工湖畔Ⅲ
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Aと"さよなら"してしばらく、経ち私はOに連絡を取ろうと思った。
人肌が恋しくなった?
いいや、単に興味が湧いたからだ、理由なんて無い。しかし、まぁ当時の私は反社会的な活動の後押しするバイトをしていた、そういう活動に本格的にのめり込む人間は何か幼稚で純粋なのだ、だから当時に私にとって父とならんで世俗的に感じていたOとまともな話がしたかったのかもしれない。
私は自分の携帯電話で彼女の家電であろう番号にかけた。
当時、私は携帯電話を持っていた。だから、推測するにこの物語は然程古い話ではないのかもしれない。しかし、私の中では十分にセピア色に消化され、目の前に当時の写真と浅草レビューの踊り子の写真を差し出されても、どちらが古いのか瞬時には選べない様に思う。
余りにも時間が経ちすぎた、そうとしか言えない。
この時のOとの会話は、彼女という人間を包括していたと思う。
「もしもし?」
「ええ、もしもし」
「誰だか分かりますか?変な質問で申し訳ないんですが」
「私の知る限り私の家の電話番号を知っているのは4人ね、それともいたずら?だとしたら大当たりね」
「いいえ、いたずらではないです、少なくとも僕の中では」
そして私は名を名乗った
「だと思った。電波で変換されても貴方は特徴的な声をしているし、特徴的な仕草があるわ、お父様とは違うね」
「そうかもしれない」
私は今でも自分の声質が好きでない、仕草も。しかし、彼女の僕の声にたいしての表現は悪くは感じなかった。
「ところで、何で私に電話をかけてきたの?バイトも止めちゃったらしいし、お父様も心配しているわ」
「色々あるんです、父が悪いんじゃない。それに切っ掛けを与えてくれたのは、貴方の方です」
「確かにね。そうだ日曜はお暇?」
「ええ学生ですから」
「じゃーショッピングに行きましょう?渋谷の駅で待ち合わせでいい?」
私は断りもしなかったし、疑問を投げ掛けもしなかった。
それが"普通の世界"において間違えであっても。ただ、確認めいた事だけは尋ねた。
「それはいいですね、僕も渋谷に行きたかったので。でも、随分と不思議だと思いませか?」
「いいえ、不思議なことなんてなにもないよ人間界では。それに私は人との出会いを大切にしたいの」
日曜日、私達はある程度混雑した駅で再び出会った。
彼女は青いワンピースの上にベージュのステンカラーコートを着ていた。とても着こなしがお洒落だったし、素敵だった。
もしかしたら、彼女のファッションセンスは当時よりも先を行っていたのかもしれない。
僕はチェックのシャツにジーンズ、上に米軍卸品の緑色のジャケットを着ていた。ちょうど、タクシードライバーのロバートデ・ニーロのような格好、七十年代からある古典的な服装をしていた。
彼女は始めに言った
「敬語じゃなくていいよ、私おばさんじゃないから」
彼女は渋谷に香水を買いに来たらしかった。なぜ渋谷で香水を買うのか?銀座では駄目なのか?そしてなぜ私が同伴したのか?そんな疑問しかわかなかった。
私は疑問を押し止めて、覚えたての"タメ口"で彼女の提案に答えた。
「僕は香水は付けないけど、勉強になりそうだね」
「ダメだよ、男でも臭いぐらい気を使わなきゃ」
「親父はどんな香水付けてたっけ」
「意地悪なこと聞くね、君は」
どっちが意地汚いのかは疑問だったけれど、私は彼女に合わせるように心掛けた。少なくとも今日だけはそうするべきだと心で決めていた。
「さっぱりした臭いよね、お父さんは」
確か父親の使っていた香水はpoloの緑の瓶だったと思う。
あとになって私もこの香水を使っていたことがある。なんというか父親の趣向は女性も含めて妙に信用できるところがある、皮肉なことに。
「何処の香水屋に行くの?」
「香水屋?もしかしてジョーク?」
彼女は笑いながら、おちょくったように私に尋ねた。
「君の方がよっぽど意地悪だよ」
世界中の十代の男性にどの程度、香水の知識があるのか解らないが、少なくとも当時の私を囲むコミュニティの中では一般的な知識ではなかった。
散々私をおちょくったわりに、我々のたどり着いたのは、黒い外観の余り大きくない、香水専門店だった。当時の私の知識では香水はデパートの香水売り場に売っている物だと思っていた。だから、つまりそれぐらいの知識は私にもあった。
店内にはオーナーと思われる、40代ぐらいの女性が一人いた。Oはこの店がいきつけだったようで、その女性と話をしていた。話の終わりに私の方へ二人が振り向き笑いあっていた。
私は5歩後ろに立っていることしかできなかった。
Oは私にどの香水がいいか尋ねてきて、香水の嗅ぎかたというのも教えてくれた。
色とりどりで個性的な香水の瓶達を見ていると、酒屋のブランデーとウィスキーの棚を眺めているようで、酔いが回るような気分だった。
結局、彼女はオレンジ色の香水を買った。何処のブランドだったかは思い出せない、でも時々、あの柑橘系の臭いが女性からすることがある、その度に私は彼女を思い出す。私にとってあの香水の名前はOのフルネームだ。
その後、私達は今度は私のよく行っていた古着屋に行った。
正直そこに彼女を招待するのは気が引けた。でも彼女はそのての物にも造詣が深かったようで、彼女は私に黒いセットアップを薦めてきた。私は素直にそれを買い、着替えてくれと言われるがままに、その店で着替えた。
店員が気を使い、大きな手提げの紙袋を私にくれた。
それに着ていた緑色のジャケットをいれた。
私達は近くの喫茶店で昼食をとった、そこではじめて私達は私達について、色々と喋った。
「それで、君は今はバイトしてないの?」
「バイトというか、知り合いのバンドの手伝いをしてるよ、金にはほとんどなら無いけどね」
「カッコいいね、ロックバンド?」
「下らないパンク・バンド、政府とか天皇制に文句言う」
「ふーん、パンク好きなの?」
「嫌いだよ、耳が痛いだけ」
「じゃー何が好きなの?」
「ドリス・デイ」
当時は何故かドリス・デイが好きだった、家にシナトラとの映画のサウンドトラックがあったからなのかもしれない。
今では久しくドリス・デイは聴かなくなってしまった、ローズマリー・クルーニーは変わらず好きだけど、それにパンク・ロックだって嫌いではない。
彼女とは、その後、三回目に会ったときに体の関係を持った、Aの時よりも品があって情熱的な。
そしてやっと私は人工湖畔にたどり着く。
人肌が恋しくなった?
いいや、単に興味が湧いたからだ、理由なんて無い。しかし、まぁ当時の私は反社会的な活動の後押しするバイトをしていた、そういう活動に本格的にのめり込む人間は何か幼稚で純粋なのだ、だから当時に私にとって父とならんで世俗的に感じていたOとまともな話がしたかったのかもしれない。
私は自分の携帯電話で彼女の家電であろう番号にかけた。
当時、私は携帯電話を持っていた。だから、推測するにこの物語は然程古い話ではないのかもしれない。しかし、私の中では十分にセピア色に消化され、目の前に当時の写真と浅草レビューの踊り子の写真を差し出されても、どちらが古いのか瞬時には選べない様に思う。
余りにも時間が経ちすぎた、そうとしか言えない。
この時のOとの会話は、彼女という人間を包括していたと思う。
「もしもし?」
「ええ、もしもし」
「誰だか分かりますか?変な質問で申し訳ないんですが」
「私の知る限り私の家の電話番号を知っているのは4人ね、それともいたずら?だとしたら大当たりね」
「いいえ、いたずらではないです、少なくとも僕の中では」
そして私は名を名乗った
「だと思った。電波で変換されても貴方は特徴的な声をしているし、特徴的な仕草があるわ、お父様とは違うね」
「そうかもしれない」
私は今でも自分の声質が好きでない、仕草も。しかし、彼女の僕の声にたいしての表現は悪くは感じなかった。
「ところで、何で私に電話をかけてきたの?バイトも止めちゃったらしいし、お父様も心配しているわ」
「色々あるんです、父が悪いんじゃない。それに切っ掛けを与えてくれたのは、貴方の方です」
「確かにね。そうだ日曜はお暇?」
「ええ学生ですから」
「じゃーショッピングに行きましょう?渋谷の駅で待ち合わせでいい?」
私は断りもしなかったし、疑問を投げ掛けもしなかった。
それが"普通の世界"において間違えであっても。ただ、確認めいた事だけは尋ねた。
「それはいいですね、僕も渋谷に行きたかったので。でも、随分と不思議だと思いませか?」
「いいえ、不思議なことなんてなにもないよ人間界では。それに私は人との出会いを大切にしたいの」
日曜日、私達はある程度混雑した駅で再び出会った。
彼女は青いワンピースの上にベージュのステンカラーコートを着ていた。とても着こなしがお洒落だったし、素敵だった。
もしかしたら、彼女のファッションセンスは当時よりも先を行っていたのかもしれない。
僕はチェックのシャツにジーンズ、上に米軍卸品の緑色のジャケットを着ていた。ちょうど、タクシードライバーのロバートデ・ニーロのような格好、七十年代からある古典的な服装をしていた。
彼女は始めに言った
「敬語じゃなくていいよ、私おばさんじゃないから」
彼女は渋谷に香水を買いに来たらしかった。なぜ渋谷で香水を買うのか?銀座では駄目なのか?そしてなぜ私が同伴したのか?そんな疑問しかわかなかった。
私は疑問を押し止めて、覚えたての"タメ口"で彼女の提案に答えた。
「僕は香水は付けないけど、勉強になりそうだね」
「ダメだよ、男でも臭いぐらい気を使わなきゃ」
「親父はどんな香水付けてたっけ」
「意地悪なこと聞くね、君は」
どっちが意地汚いのかは疑問だったけれど、私は彼女に合わせるように心掛けた。少なくとも今日だけはそうするべきだと心で決めていた。
「さっぱりした臭いよね、お父さんは」
確か父親の使っていた香水はpoloの緑の瓶だったと思う。
あとになって私もこの香水を使っていたことがある。なんというか父親の趣向は女性も含めて妙に信用できるところがある、皮肉なことに。
「何処の香水屋に行くの?」
「香水屋?もしかしてジョーク?」
彼女は笑いながら、おちょくったように私に尋ねた。
「君の方がよっぽど意地悪だよ」
世界中の十代の男性にどの程度、香水の知識があるのか解らないが、少なくとも当時の私を囲むコミュニティの中では一般的な知識ではなかった。
散々私をおちょくったわりに、我々のたどり着いたのは、黒い外観の余り大きくない、香水専門店だった。当時の私の知識では香水はデパートの香水売り場に売っている物だと思っていた。だから、つまりそれぐらいの知識は私にもあった。
店内にはオーナーと思われる、40代ぐらいの女性が一人いた。Oはこの店がいきつけだったようで、その女性と話をしていた。話の終わりに私の方へ二人が振り向き笑いあっていた。
私は5歩後ろに立っていることしかできなかった。
Oは私にどの香水がいいか尋ねてきて、香水の嗅ぎかたというのも教えてくれた。
色とりどりで個性的な香水の瓶達を見ていると、酒屋のブランデーとウィスキーの棚を眺めているようで、酔いが回るような気分だった。
結局、彼女はオレンジ色の香水を買った。何処のブランドだったかは思い出せない、でも時々、あの柑橘系の臭いが女性からすることがある、その度に私は彼女を思い出す。私にとってあの香水の名前はOのフルネームだ。
その後、私達は今度は私のよく行っていた古着屋に行った。
正直そこに彼女を招待するのは気が引けた。でも彼女はそのての物にも造詣が深かったようで、彼女は私に黒いセットアップを薦めてきた。私は素直にそれを買い、着替えてくれと言われるがままに、その店で着替えた。
店員が気を使い、大きな手提げの紙袋を私にくれた。
それに着ていた緑色のジャケットをいれた。
私達は近くの喫茶店で昼食をとった、そこではじめて私達は私達について、色々と喋った。
「それで、君は今はバイトしてないの?」
「バイトというか、知り合いのバンドの手伝いをしてるよ、金にはほとんどなら無いけどね」
「カッコいいね、ロックバンド?」
「下らないパンク・バンド、政府とか天皇制に文句言う」
「ふーん、パンク好きなの?」
「嫌いだよ、耳が痛いだけ」
「じゃー何が好きなの?」
「ドリス・デイ」
当時は何故かドリス・デイが好きだった、家にシナトラとの映画のサウンドトラックがあったからなのかもしれない。
今では久しくドリス・デイは聴かなくなってしまった、ローズマリー・クルーニーは変わらず好きだけど、それにパンク・ロックだって嫌いではない。
彼女とは、その後、三回目に会ったときに体の関係を持った、Aの時よりも品があって情熱的な。
そしてやっと私は人工湖畔にたどり着く。
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