上海ハニー

フランク太宰

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羽田空港

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  成田空港に到着したのは、モスクワのシェレメチボ空港への便が飛び立つ、五時間は前だった。大学の国際部がその時間を指定したのだ。
 短期間の留学であるから旅行気分の学生も数人いて、それらと比較的地味なロシア語とロシアについて学んでいる学生、けして多数派だったわけではないけれど。その中に全体を纏めるグループ長がいた、彼女は大柄な女性で私より三才ほど年上であった。
私はと言えば、何とも説明しがたい理由で短期留学に参加していたから、二グループのどちらにも所属しているとは言えなかったと思う。別に旅行気分でもないし、猫背でトルストイを読むタイプでもなかった。
 「貴方がOさん?」
 私がスーツケースを引きずり、集団に合流すると大柄な彼女が声をかけてきた。
 「いいえ、違います」
 私が名を名乗ると、彼女は疑問そうな顔をした。
「ああ、そうやって読むんだね、名字、私数学部だからさ 、漢字苦手なんだよね」
「ああ、まぁよく間違えられますから」
「気が使えて、偉いね」
「気なんて、僕は空気読めないんで、ところでOさんって誰です?」
「私が顔を知らなくて、しかもロシア語の単位を一つもとってない子なんだけどね、貴方のことも私、顔を知らなかったからそうかと思ったんだけど」
「そうですか」
別に話を長引かせたくもなかった、私自身はこのグループ長を見かけたことはあったのだけれど、それについては彼女に言わなかった。
私が集団に合流してから暫くして次にKという女性が小さなスーツケースを持ってやって来た、彼女とは話したことがあったし、彼女が留学に参加することも知っていた。
 「ねぇ、私一番遅い?」
 グループ長との形式的会話を終えて、彼女は私に声をかけてきた。
「いや、O君というのが、まだらしいですよ」
彼女は学年は同じで私より一つ年上であった。
「O君てロシア学科の子?」
「いや、違うらしいけど」
「なるほど、同族ってわけね」
 「宇宙人ではないはずですよ」
 彼女は宇宙について学んでいた、私とは機械系の授業で知りあったのだ、彼女はロケットのエンジンを頭の中で想像し私はスクリューの回転を思い描いていた。
エンジン女史は私の事を気に入っていたと思う、恋愛の対象でも航空宇宙に対して語り合う中でもないが、世間話にはちょうどいいし私が喋りすぎないのも良かったのかもしれない。
 暫くたっても、Oはやってこず、時間に犯されたピリツいたムードが私たちを包み始めた。
正直な話、私は未だ見ぬOに対して理解があった、つまり"すっぽかす"人間の気持ちに対して。
 グループ長は責任を感じての緊張感から、デカい図体で上下に足を動かしていた。
そして、彼女の携帯電話がなり
彼女はかけてきた相手を怒鳴り上げた
 「は! 羽田空港!?」
 
 
 
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