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可愛いとは思った
しおりを挟む朝の中央線は混んでる。
そんなことは分かっているのに、朝早く家を出るというムーブをしなかった自分を恨む。
Yシャツはシワシワ、もう2日洗ってない。
満員電車に乗り込むとき、申し訳ないな、とは思った。
もう28歳だ。
おじさん、という自覚が多少ある。加齢臭もするかもしれない。
まだ若者だ、と思いたい気持ちもあるけれど。
駅に止まるごとに、人は増えていく。
多分新宿まではこの調子で、座れずじまいだろう。
身動きの取れないまま、窓の外を見る。
立ち並ぶ建物の密度に、上京当時は胸が躍った。けれど10年経った今では、何も感じない。
東京、つまらない。
というより、自分の人生がつまらないだけかもしれない。
ぼんやりしていると、電車の揺れとともに、ぐっ、と胸を押された。
見ると、リュックを胸に抱えた男の子がいた。学生だろうか。身長は160cmくらい。小柄だった。
「す、すみません」
下を向き、俺にだけ聞こえるような声でそう呟いた。
「いいけど、大丈夫?」
その子がいるのは、ちょうど車内の中央だった。捕まる場所もなく、不安定な体勢のまま立っているので危なっかしかった。
「俺の身体につかまって」
少し強引に、身体を引き寄せた。
相手が男だから、出来たことだった。
今のご時世、たとえ善意でも、こんなことを女性にやろうものなら一発でアウトだ。
しかもそれが俺みたいな冴えない野郎なら、特に危ないだろう。
その男の子はさっきから下を向いて一向にこっちを見ない。
もしかして、俺ヤバい奴だと思われてる??
今のご時世、男も女も関係ないのかもしれない、と思い直す。
しかし、出した手を引っ込めるわけにもいかず、その子の肩に置いた手はそのままにした。
ガタン、と電車が揺れる。
俺の胸に頭を預ける形で、その子がまた傾いた。
今度はしっかりと支えることができた。
「あっ、ありがとうございます」
その子の声は電車の音に紛れて聞き逃しそうになったが、なんとか耳に届いた。
ヤバい奴、とは思われてないかもしれない。
ほっとしたところで、また電車はひとつ駅に着く。
もう飽和状態の車内に、詰め込むように人が乗り込んでくる。容赦はない。
また一つ密着度を上げた俺とその子の間には、ほとんど隙間はない。横から抱きしめるような形で電車に揺られた。
なんか癒される。その子の髪からは陽だまりのような香りがしていた。あぁあれだ、子供の頃、クマのぬいぐるみを抱いて寝ていたときのような心地だ、と俺は思った。
「あ、あの・・・・・・」
思わず、力を込めて抱き寄せてしまっていた。
「あ、ご、ごめん。つい、懐かしくて」
そう口走ってから、自分のヤバさに気づく。さすがに不審者案件で通報されるのでは。
男の子はこちらに顔を見せないで、前を向いていた。覗き込もうとしたら、露骨に顔を横に向けて避けられた。
「ほんと、変な意味とかじゃないから。ただ、昔持ってたぬいぐるみを思い出したっていうか。なんていうか・・・・・・」
そう弁明するのがやっとだった。
詳しく説明すればするほど、変な意味でしかない。
男の子の耳が、赤くなっていた。
冬なのに、不思議と、身体も熱い。
「もしかして、体調悪い?」
そう思えば、足元のふらつきも体調が悪いからなのかもしれない。
「一回、降りて次の電車乗った方がいいんじゃない」
「だ、大丈夫です。降りる駅、次なんで」
「あ、そう」
なんとなく気まずさを隠すために、音楽でも聴こうかと思い立った。
狭い車内で、スラックスのポケットにあるワイヤレスイヤホンを探る。
ポケットから取り出した瞬間、ケースを持つ指先が滑った。
しまった、と思ったときには遅かった。
カタン、という音でイヤホンが床に落ちたことを悟る。
幸い、足元に近いところに落ちていた。
ただでさえ身動きが取れないなか、最小限のスペースを駆使して腰を落とす。都会に出てきて10年、満員電車での身のこなしもこなれてきた。
「え、あっ」
俺が急に身を屈めたからか、男の子が素頓狂な声をあげた。一瞬のことだし、別にいいだろうと、俺はイヤホンを拾う。
と、前に、男の子の下半身があった。
前にいたのだから、当たり前だけど、俺は目を見張った。
なぜなら、その下半身は明らかに勃起していたから。
『次はー、中野~、中野~』
駅の到着を知らせるアナウンスが頭上で鳴っていた。けれど、俺は顔を上げられなかった。
男の子の様相とは似つかわしくないその膨らみから、俺は目が離せないでいる。
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