人類アンチ種族神

緑茶

文字の大きさ
44 / 46
外伝:駆け抜け!人類アンチ種族神

駆け抜け!人類アンチ種族神 序章②

しおりを挟む
※この小説は、連載中の『人類アンチ種族神』のこれまでのあらすじをダイジェスト形式でまとめたものです。
※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
-------
かつて人間として絶望の中で死んだ彼は、神として転生し、お台場の上空に居城を出現させた。

本来、この世界の神は異なる次元に存在し、姿を見せることなく干渉するものである。 だが、彼は違った。自らの存在を人間に誇示し、恐怖を刻み込むことに固執したのだ。

彼は空中の居城に立つと、世界への宣戦布告として最初の配下を生み出す。 指先から放たれた無数の黒いモヤは、瞬く間に濃縮され、翼を持った人型の怪物へと姿を変えた。

◆ ◆ ◆

その頃、高校生配信者のミナトは、秋葉原のメイド喫茶で看板娘コトハとコラボ配信を行っていた。

「あはは、今日はいい天気ですねー!」

あざとく笑うコトハの猫耳カチューシャ越しに映る青空。その一点に、黒い“シミ”のようなものがぽつりと湧いた。 コメント欄が『あれ何?』『合成?』とざわつき始める。 ミナトは「どうせゴミか何かだろ」と乾いた笑いを漏らした。――その楽観が凍りつくまで、三秒もかからなかった。

◆ ◆ ◆

同時刻、渋谷スクランブル交差点。

就活帰りの大学生・蒼井隆司は赤信号で立ち止まり、ハンカチで額の汗を拭った。

突如飛来した怪物は、交差点の中央で息を大きく吸うと、ゴゥッ! と高熱の炎を吐きだした。

「……マジかよ」

――紅蓮の炎が横断歩道を薙ぎ、観光バスが爆裂した。 焦げたタイヤの甘ったるいゴム臭と、肉の焼ける異臭がマスク越しに突き刺さり、隆司の肺が拒絶反応で痙攣する。 ガラス片と砕けたアスファルトが雨のように降り注ぐ中、隆司は反射的に走り出した。だが視界の端には、まだ“現実”を飲み込めずスマホを掲げたまま立ち尽くす人々がいた。

逃げ惑う阿鼻叫喚の群衆の中に、一組のカップルがいた。

女はヒールのまま走り、靴先でガラス片を弾くたびに足首が赤く染まっている。多くの破片が散乱する路面をヒールで走る彼女は、次第に彼氏から遅れていく。 『もっと! もっと速く!』 彼氏が叫ぶ。だが、スニーカーを履いた男と同じ速度で走れるはずがない。

彼氏は何度も彼女の腕を引き、振り返っては迫りくる黒い怪物との距離を測っていた。繋いだ手は冷や汗で滑り、指先が小刻みに震えている。『大丈夫だ、俺がいる!』と叫ぶ声は裏返り、優しさという仮面の下で、剥き出しの恐怖が脈打っているのが隆司にも見えた。 ──もう限界だ。

その時、逃げる群衆を無差別に襲っていた一体の怪物が、ふと二人のほうを向いた。 猛禽類が次の獲物を見つけた瞬間を思わせる、氷のように冷たい視線。

彼氏の喉がごくりと動き、その瞳に〈自分の末路〉が映ったように揺らいだ。 刹那、恐怖が理性を追い越した。

彼氏は繋いでいた手を、邪魔なものを排除するように強く振り払った。

「っ?!」 「悪いッ!」

その反動を利用し、彼氏は動物じみた加速で群衆の渦へ溶け込んでいく。それは謝罪とも拒絶ともつかない、生存本能だけの行動だった。

見捨てたのか──?! 隆司の胸に稲妻のような憤りが走る。同時に、助けへ踏み出そうともしない自分の足が恐怖で路面に縫い留められている事実が、避けがたい自己嫌悪を連れてきた。

「待って! お願い、置いていかないで!」

ヒールで踏みしめる硬質音と、か細い悲鳴。 直後に響く骨の砕ける音、肉の焦げる臭気。 隆司は耳を塞いでも鼓膜の奥でその音が反響し続け、喉の奥から胃液が逆流した。

◆ ◆ ◆

この神が生み出した怪物の正式な名前は誰も知らない。 それでもSNSのハッシュタグで、誰かがその名をつけた。

『ガーゴイル』

それが、この黒い怪物の名だ。 この日――大都市東京は、紅の奈落へと落ちた。

◆ ◆ ◆

東京を瓦礫に変えた神は、さらに3体の特別なガーゴイルを生み出した。

近接戦闘特化の個体、ベルガン。 索敵支援特化の個体、サーチ。 そして、全軍の指揮を執る参謀個体、ヴァロン。

彼らに与えられた最初のミッションは、妻を殺したトラックの運転手を捜すこと。そして、事実を捻じ曲げた弁護士を捜し出すことだった。 神の能力をもってすれば、特定の個人を発見するのは容易い。これは復讐であると同時に、産み落とした怪物たちの『狩り』の初陣でもあった。

数日後、サーチがあのトラックの運転手を発見した。

神はベルガンとサーチに冷徹な指示を出す。 「あの人間は、トラックで潰して殺せ」

神は神でありながら、人間として生きた怨念を忘れてはいなかった。単純には殺さない。意趣返しを込めた死を与えることで、内なる怒りを昇華させようとしたのだ。

ベルガンとサーチは、運転手を望みどおりの形――鉄塊による圧死――で葬り去った。能力としては優秀と言ってよい。 だが神は満たされてはいなかった。

ーー簡単すぎた。もっと、苦しみを。私が味わった地獄と同じだけの絶望を与えねばならない。

やがて弁護士も発見された。 神は前回の反省を踏まえ、彼にはより入念な意趣返しを用意する。

名付けて、「絶叫の法廷」。

神は、弁護士の家族を一人一人、被告として即席の法廷に立たせた。 弁護士にはその弁護を命じる。だが、彼が口を開こうとするたびに肉体的な苦痛を与え、決して弁護の言葉を紡がせない。 かつて神が人間だった頃、真実を封じられ、金と権力でねじ伏せられた理不尽な裁判の再現である。

「罪なき者を殺すのか、と問う眼だな」

神は弁護士の絶望的な視線を受け止め、冷たく言い放つ。

「私の妻も、罪などなかった。奪った者は、奪われる覚悟を持つべきだ」

神は彼のすべての家族を処刑すると、最後に弁護士へこう告げた。

「お前だけは殺さない。だが覚えておけ。お前に守るべきものが再びできたとき、この法廷は何度でも開かれる」

絶望に発狂する弁護士を置き去りにし、神と眷属たちはその場を去った。

復讐は完遂された。はずだった。 だが神の中には依然として黒い渦が感情を押し上げてくる。 一方で、種族神として「人間族を守ろう」とする本能が、神の完全な暴走をかろうじて押し留めていた。

神の生み出した怪物は東京都を焼き払った。だが、他県へは流れ込むことはなく、破壊と守護がせめぎ合う繊細なバランスのもと、新しい絶望の世界が幕を開けたのだ。

この未曽有の状況に、防衛大臣である真田は頭を抱えていた。 地下や建物に隠れて生き延びた人々。錯綜する情報。政府の官僚も多数が死傷し、機能不全に陥っている。

それでも「説明責任」という言葉で、安全圏にいる他の議員たちは真田を追い立てる。 ついに、運命の説明会見が開かれることとなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

処理中です...